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大地の系譜  作者: Melon
31/45

29

 梗汰達が到着してから六日目の朝。

 聞いた話だと、どうやら今日が最終日になるそうだ。


 ここに到着してから五日間、梗汰は何人か精霊術師らしき人を見かけたが、話しかけられることも、自分から話しかけることもなかった。

 むこうは梗汰の事を使用人とでも思っていたのかもしれない。

 食事も部屋に運ばれるので、不知火家以外の術師と話すことは皆無だった。

 至焔と瞳は会合に出席していたので、梗汰はほとんどの時間を、一人で部屋か馬小屋か森の散策をして過していた。


(ユニコル可愛かったなぁ)


 この数日で、あの黒いユニコルとは大分仲良くなれた気がする。


「さっきから、カタカタうるさいわよ」


 梗汰は緊張を紛らわすためか、ここ数日のことを思い返しながらルービックキューブをひたすら手で動かしていた。

 これからの事を思うと、猛烈に現実から逃避したくなったのだ。


「うっせー、オレは小心者なんだよ・・・・・・」

「情けない男ねぇ」


 さっきから動かしているルービックキューブの各面は、全くと言っていいほど揃っていない、傍目にもその焦りようが伝わってくる。


「ほら」


 そんな梗汰に瞳が何かを投げる。

 飛んできた物体を受け取り確認すると、


「なんだこれは?石っぽいけど」


 それは灰色で硬く、どこにでも落ちていそうな、何の変哲も無い石に見える。


「石よ、さっき外で拾ってきたわ」

「・・・・・・だろうね。てか、なんで石?」

「あなたが力を見せろと言われたときに、おもちゃをカタカタするだけじゃショボイでしょ?」


 梗汰はその場面を想像する。


(お偉い方の前でおもちゃをカタカタ・・・・・・、シュールってレベルじゃねーぞ・・・・・・)


「・・・・・・確かに。真剣な場でおもちゃの披露は、ショボイ以前にありえないな・・・・・・。この石で何かしろってことね」

「そうそう」

「りょーかい。そういや服装はこんなんでいいのか?」


 梗汰が今着ているのは、この前街で買った普段着だ。

 会議などの場に行くのにこんな服装でいいのだろうか。


「いいんじゃない?あたしだって普段着だし」


 瞳の今の服装は普段着というより、普段着ている制服だ。


「いや、それは一種の正装なんじゃ」

「まぁそうだけど。あなたが持ってきたスーツよりは今のが良いとと思うわ。そんなにかしこまる必要はないわよ」

「そうか、ならこのままでいいか」

「そうしなさいな」


(まぁ、不知火さんが平気って言うなら平気だよな・・・・・・、アウトだったら厳重抗議だ)


「じゃあ移動するわよ。付いてきなさい」

 

 


 会議室前。


 他の人は既に中で待機しているようだ。

 中からは微かに話し声が聞こえる。


「いい?あたしのお父さんに呼ばれたら入ってくるのよ」

「・・・・・・わかった」


 梗汰の声はしょぼしょぼととても小さな声だ。

 緊張の度合いが伝わってくる。


「まったくもう・・・・・・もっとシャッキリしないさよ!」

「ちょ、何すん・・・・・・」


 問答無用で瞳は梗汰の背中を捲り、


「いってえぇえええ!!」


 てのひらを思い切り叩きつけた。

 尋常じゃない痺れが背中を襲う、というか叩かれた所が熱い!


「ちょ!お前はただでさえ力あんだから加減とかしろよな!」


 瞳は不敵に微笑み、腕を組んでこっちを見ている。

 おいコレ、絶対背中にもみじマークついてんぞ・・・・・・。


「ふふ、ちょっとは元気が出たみたいね。アメリア様にもめられないように言われているんだから、ちゃんとしなさいよね」


 アメリア・・・・・・そう言えばそんなこともあったな。

 それにしても、コイツもコイツなりにオレを元気付けてくれたのか。・・・・・・不器用だけど。


「ぁー、うん。ありがとね、少し元気でた」

「・・・・・・ふん」


 瞳は素早く顔を背け、そのまま部屋へ入ってい った。


 「こういう状況で待つってのは嫌なもんだな・・・・・・」




 そして約十五分後。


「梗汰君、入りなさい」


 部屋の中の至焔から声が掛かる。


「はい」


(うっし、気合入れて行くか)


 部屋の中の至焔に聞こえるように声を出す。


「失礼します」


 一度深呼吸しノックをしてから部屋へ入る。

 部屋の中には長テーブルが置いてあり、一脚だけ椅子が空席になっていた。それ以外の席には十二人の術師が座っている。

 そして、その全ての視線が梗汰に集中している。

 さっきまで聞こえていた話し声は今は全く無い。


(これ・・・緊張するなって、むりだろ・・・・・・)


 すっかり萎縮してしまった梗汰の所へ至焔が近づいてくる。


「では梗汰君の紹介の前に、この場に居る各家の紹介をしよう。とりあえずここに座りなさい」


 梗汰を空席へ座るように促す。

 梗汰は一番手前の空席の一つに座った。

 それを確認すると、至焔も自分の席に戻り説明を始めた。


「上座から順に、【火】、【水】、【地】、【風】の家の現頭首が座っている。火霊術師”不知火家”。水霊術師”オーリック家”、”アトリー家”。地霊術師”ベネディクト家”。風霊術師”アルヴィナ家”、”天羽あもう家”。そして、その家の付き添いがそれぞれ一人ずつだ」


(・・・・・・ん?何か足りない。火、水、地、風、たしか精霊は六属性いたよな)


 この場に居る精霊術師は四属性、光と闇が足りていない。


「光と闇の術師は人族には生まれていないんだよ、コネクターもね」


 梗汰の考えている事をまるで見通したかのように至焔が告げる。


(なるほど)


「では梗汰君、さっそくだが精霊術を使ってみてくれないかい」

「分かりました」


 ふぅ、落ち着け。いつも通りやればいい。 

 瞳に渡された石を取り出し、力を込める。


「・・・・・・これは」

「おぉ」

「まさか・・・・・・」


 精霊の動きを感じたのか、術師達の表情が変る。

 石はその体積を増やし、形を変え、そして別の物質へと変質する。


「よし、できた」


 完成したのは掌サイズの鉄製東京タワー。

 それはかつて土で作ったものとは違い、細部まで梗汰の記憶を再現してある。


 こんな形だったっけ・・・・・・、細かい部分はまぁいいか。


 本物とは微妙に違うが、それを知っている人が見て分かるくらいには、タワーの形をしている。


「これでいいですか?」


 完成したそれをテーブルに置く。


「確かに精霊術を使えるようだ」

「今のは地霊術の力でしたね」

「・・・・・・そうだな」


 術師から次々と声が上がる。


「既存の地霊術師の家系の人ではないのですか?」

「いえ、うちの血統にこのような人はいませんね」

「そういえば渡り人であったな」

「ふむ・・・・・・となると、やはり」

「みなさん、見ての通りです。この者をを新たな精霊術師の血統に迎えるということでよろしいですか?」

「・・・・・・・・・・・・」


 至焔の声でざわついていた場が一瞬鎮まった。


「目の前で力を見せられては、認めないわけにはいきませんね」

「・・・・・・そうだな」

「渡り人である以上どの血統にも属さない・・・・・・、これでは疑いようが無いですね」

「しかし、力の使い方はまだまだのようだ」

「まだ力の使い方を少ししか教わっていないらしい」

「どうりで・・・・・・」


 再び話し合いが再開される。


(オレは一体どうなるんだ・・・・・・)


「梗汰君」


 至焔から声が掛かった。


「え、あ、はい。なんでしょう」

「これからしばらくは、君の今後について話し合うことになる」

「では、オレはここに居たほうがいいですか?」

「うむ、そうしてもらおう」

「分かりました」





 夜、瞳の部屋。


「ふぅ・・・・・・疲れた」

「随分大人しかったわね」

「そりゃね」

「でもよかったじゃない、あなたの力が認められて」

「でもなぁ。稲葉家が出来たって言われても、ねぇ」


 今日の話し合いで精霊術師の血統に、新たに稲葉家が追加された。

 稲葉家はもちろんながら梗汰一人、この世界に一人だけの血統。


「力の使い方も家ごとに違うから、自分で開拓するしかないって言われたしねぇ」


 各家独自の技術である精霊の感じ方、動かし方、扱い方、それを梗汰は自分で開拓しなければならない。

 瞳が教えてくれるのは、あくまで精霊術師共通の概念や基礎のみ。その家の秘奥や技術などは教えてもらえるわけではないし、教えただけで簡単に理解できるものでもない。


「時間はあるのだから、少しずつ開拓していけばいいじゃない、あなたと既存の術師では経験も技術の積み重ねも比べ物にならいわ」

「でもなぁ、オレに精霊術師の仕事とか・・・・・・むりじゃね」


 精霊術師として認められた梗汰は、精霊術師としての仕事の依頼をこなす事となった。


「今まではあたし一人でガルダンを担当してたから助かるわ。ま、あたしが一緒だから安心しなさいな」

「はいはい、不知火さんは頼もしいですよっと」

「心が篭ってないわね・・・・・・。まぁいいわ、明日には帰るんだから荷物を片付けておきなさいよ」 

「りょーかい」

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