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誤字脱字、違和感を感じた表現は発見次第、随時修正していきます!(’’ノ
熱気を感じ、梗汰は一歩下がる。
(うげ、なんだこれ、やばげな感じ・・・・・・)
「あなたは初心者だから、まずは様子見からいくわよ?」
瞳が右手を突き出すと、そこに火球が幾つも生まれた。瞳はそれをお手玉のように弄ぶ。
っまずい!
宙を舞っていた火球が高速で梗汰に押し寄せた。
梗汰は手をかかげイメージする、この炎を防ぎきる壁を!地面から梗汰を覆うようにして鉄の壁が現れる。
瞳の放った火球は梗汰の作り出した壁にぶつかり、弾けた。爆発の衝撃が、空気を揺るがす。
――んなっ、壁に穴がっ!!
梗汰が作った壁は一部を残し、飴の様に溶け、無数の穴が空いていた。
「その程度の壁ではあたしの炎は防げないわよ」
声は聞こえるが、壁の向こうに居るはずの瞳の姿が見えない。
嫌な予感がした。
瞬時に梗汰は壁の横から飛び出す。
ボンッ!
梗汰の居た場所から火柱が噴き上がり、さっき梗汰が展開した壁が吹き飛ぶ。
(安心とか言われても、こんなん無理だろ、怖すぎる!)
「さっさとやる気を出さないと、もう終わってしまうわよ?」
上から声が聞こえた。
梗汰が上を向くと、炎を纏った瞳が視界に映る、反射的に梗汰は術を練り上げた。
「こっちくんな!」
上空に瞳に向かって何本もの鉄の針を発生させた。全ての針は瞳に向かって殺到。
(よし、当たる!)
熱風が吹き荒れた。
熱風に煽られ梗汰は思わず目を閉じる。そして再び目を開けると、瞳に突き刺さるはずだった針は、全て半ばから溶けていた。
(っくそ!一回でダメなら何度でもやるまでだ)
「オラァ!」
梗汰の少し前の地面から針が発生する、はずだった。針が出るはずの地面から火柱が上がり、そこに在ったはずの術が消えたのだ。
梗汰は思い出した、風さえ燃やすと言った瞳の言葉を。
(発生前に術が潰された!?)
梗汰は力が安定し、術の制御力が格段に増したとはいえ、実戦基準では術の構成時間が致命的に遅い。梗汰はイメージしたことを、ある程度できるようにはなったが、集中からの事象の発生というプロセスに微妙にラグが出る。そして紡がれる術の構成はそのときの集中力に依存している。
針の発生まで、数秒 ――だがその数秒が命運を分ける。
しかし、今それを考えている余裕は無い。
梗汰は前を向き瞳の姿を確認する。
瞳は剣山のように生えた針の根元に着地寸前だ。
(術師なら接近戦に弱いはず!術を発動する間も与えずに潰す)
梗汰はクラウチングスタートの体勢をとった。手に石の欠片を握りしめて。
足に力を蓄える、
「いくぞ!」
叫びと共に梗汰の足元から鉄柱が発生、それはもの凄い勢いで梗汰を運ぶ。
瞬間、背後から爆炎があがる。しかしそれは、その前に鉄柱を蹴りさらに加速していた梗汰を焼くには至らなかった。
近づく梗汰を瞳は確認、瞬時に手に火球を発生させる。それは発生と同時に爆ぜ、光が梗汰の視界を覆う。
しかし、爆炎が梗汰に到達する前に、梗汰は石の欠片を瞳に投げつけた。
「ただの投石とは、とんだ悪あがき・・・・・・ん?っな!」
爆炎の向こう側に”ソレ”は見えた。
”ソレ”は先の尖った何か。
何かが梗汰を覆って、炎から梗汰を守っていた。
爆炎が梗汰を包む前、前傾姿勢の梗汰の前半分取り囲むようにして、瞳の方向を頂点とした先の尖った灰色の円錐の壁が発生していた。
その灰色の金属は、ハフニウムと呼ばれるもの。
ハフニウムは融点2222℃、沸点に至っては4450℃、それによって作成された耐熱壁は、瞳の発生させた炎を完全に遮断、炎はそれを破るに至らなかった。
砲弾と化した梗汰は既に目の前まで迫っている。
ドゴォン!
それは地面に着弾し、針山に穴を穿つ、何本もの針が折れ地面に激突した。
しかし、梗汰は既にその場には居ない、渡り人の強化された反応速度と身体能力で、着弾する直前に壁を蹴り、自分自身は地面に逃げ、逆に勢いをつけた壁自体を砲弾としたのだ。
(はぁ、はぁ、あーくそ、しんどい・・・・・・明日は筋肉痛な気がするな・・・・・・)
梗汰は地面に手を付き前を向く。
そこに”奴”は立って居た。
「今のはなかなか面白かったわね、あの物質は私も知らないものだわ。あの一瞬じゃアレを焼き尽くすほどの精霊を練ることができないみたいね」
(んな、どうやって!)
「そんな顔しないの、アレぐらい対処できないと生きていけないわよ?」
瞳は折れた針山の中で長いスカートについた砂埃を払っている。足元には梗汰が飛ばした灰色の金属塊が見える。
梗汰と目を合わせると切れ長の目を更に細め笑った。
「次はこちらから行くわよ、爆!」
瞳の背後が爆発した。
しかし、発生した炎は瞳を一切傷つけることは無かった。
瞳はその爆風に乗り梗汰に向かって跳ぶ。
梗汰と瞳の間の距離がほぼ零になった。
戦慄が体の中から沸き起こり、身を守るように梗汰は両手を前に突き出し構えた。
迫る瞳の手を掴もうとして・・・・・・梗汰は逆方向に跳び避けた。
梗汰が掴もうとした瞳の手は炎に包まれていた。
間髪入れずに拳がとんでくる、しかし拳が梗汰に当たる直前、地面から生えた壁がそれを阻んだ。
ドンッ!
拳が壁に衝突したと思うと、そこを起点として小規模な爆発が起こった。壁は粉々に砕け、破片が梗汰の顔に傷をつけた。
「あたしの拳は熱いわよ、触ると怪我をするわ、ってね!」
瞳は拳に発生させた炎に、指向性を持たせた爆風を発生させる術式を構築し、さらにその爆破を操作し、自分には干渉しないようにさせていた。
高速で放たれる拳を梗汰は紙一重で避け続ける、その拳が梗汰の耳を、髪を、体を掠める度に、拳を包んでいる炎によって少しずつ体が焼ける。
瞳の拳の速度は元の世界での常人の比ではない、強化された梗汰の反射神経をもってして、やっと捉えられる程であった。
(こん、なのっ、女性のパンチじゃねーぞ!しかも当たったら爆破とか、受け流すこともできねぇ・・・・・・どうすりゃいいんだ)
迫る拳の合間に柱や針を発生させるが、それら全てが爆炎の拳により破壊された。
慣れない実戦で、しかも切迫した状態で紡いだ術は、構築が酷く、ボロボロの石の針が発生する程度になっていた。
それらは全て一撃で吹き飛ばされる。それはもはや壁にすらならない。
(こんな状況で集中できるか!こんな中でアイツはどうやって術式を編んでいるんだ・・・・・・そういえば叫んでいたような・・・・・・!)
一瞬気を離しているうちに、目の前まで迫っていた拳が胸に激突した。
拳から伝わるダメージは本物、すさまじい膂力だ。
それに加え、小規模な爆発が梗汰の胸に炸裂した。
爆風に煽られるようにして、梗汰は後方に激しく吹き飛んだ。
胸は致命的に痛む・・・・・・だが、それでも致命傷ではないのか梗汰は結界の外には飛ばされていない。
梗汰は痛みの中地面に倒れながらも、ぼんやりと過去のことを思い返していた。
(そういや・・・・・・高校の時の剣道の先生が言ってたな・・・・・・声を出すのは大切だと、自分が声を出すことで、物事に積極的になりテンションを上げることができるって・・・・・・)
このまま倒れたままってのは、かっこ悪いかな・・・・・・?
心残りはどうだ?
無いなんて嘘だ。
せめて・・・・・・一矢報いる。
―― 声、言葉に意思を込めて術を紡ぐ・・・・・・!
「ちょっとやりすぎたかしら?中途半端に加減したせいか火傷がちょっと酷いわね。これは癒し手を呼ばないと」
梗汰背を向け、瞳は結界の外へと歩き出した。
「ま、てよ」
地面に手を付き、激しい呼吸を繰り返しながらも梗汰は立った。
「オレの 最後の 見てくれ な いか?」
「っえ?」
その言葉を聞き瞳は慌てて振り返る。が、戦いの場で相手に背を向けていた瞳は、自分行動に致命的な遅れを感じた。
「ああああああああああああああああああ!!!」
梗汰は叫びながら地面に足の裏を叩きつけた。
足が地面にぶつかった瞬間、梗汰の三倍はあろうかという岩石が地面から宙に飛び出た。
巨大な質量を誇るそれは、だがしかし、その落下の動きは見るものにまったく重さを感じさせなかった。
それはゆるやかに梗汰の目の前まで落下してゆく。
「変われぇえええ!」
梗汰の手の中に巨大な槍が生まれた。
「っな、変成器!」
梗汰は槍をまるで野球のバットでも掴むかのように構え、
「うおおおおおおおおおおおお」
振りぬいた。
ガギィィ
地面にぶつかる寸前だった岩石に、槍の側面がぶつかる。辺りには金属同士が激しくぶつかったような鈍い音が響いた。
普通なら折れるであろう圧倒的質量の差、だがそれは折れることも無く、岩石をもの凄い勢いで吹き飛飛ばした。
巨大な岩石が吹き飛ぶと同時に加速し、瞳に向かって突き進む。それは周囲の瓦礫を弾き飛ばしながら確実に瞳に迫ってきている。
当たれば確実に体は潰される。 それはつまり ――瞳の負け。
「っ、炎陣!」
岩石が瞳にぶつかる刹那、今までに無い爆炎が瞳を中心に発生、眩い閃光と空間を激しく振動させる衝撃波が結界の中を襲った。
「はぁ、はぁ」
激しく燃え上がった炎が止むと、瞳を中心にクレーターが出来ていた、周囲の地面は激しく抉られ、赤熱した液体となっている。
瞳はすぐさま梗汰を探すが、見つからない。
梗汰は既に結界から飛ばされていた。
瞳が巨大な爆炎を吐き出した直後に、ダメージが限界を超えたのだ。
「はぁ、はぁ・・・・・・・あんなことするなら、後ろなんか向くんじゃなかったわ。ちょっと本気出しちゃったじゃないの」
今はここに居ない梗汰に向かって呟いた。
★
「痛つつ・・・・・・ここは、どこだ?」
梗汰はベッドに寝ていた自分に気付いた。
ふと梗汰の顔に影が差す。
「やっと起きたわね」
梗汰の目の前に瞳の顔が出現した。
「うぉ、びっくりさせんなよっ」
「ふぅ、”びっくりさせないで”はこっちの台詞よ、傷は治ったはずなのに、しばらくなんの反応も無かったのよ?何度も起こそうとしたのに」
梗汰が模擬戦を終え、既に30分程度過ぎていた。
ここは先ほど梗汰が模擬戦を行った施設の中にある救護室である。
「あー、どうりで頭がぼうっとするわけだ、術の使いすぎかね」
それを聞くと、瞳は呆れた顔する。
「まったく、結界の外で鼻血を出して倒れていたのよ?癒し手に感謝することね、軽い火傷や傷以外は治してくれたわ」
「いや、そこは全部治そうぜ」
「細かい傷まで治すと、人の自己再生能力がどうのうこうのになって、ダメって言われてるの」
「あー、そうなんか、まぁこれくらい、すぐ治るか」
梗汰は破れた胸元を広げ、そこから覗く小さい火傷を見ながら言う。
「それにしても、最後のアレは何をしたの?」
その質問を待っていた、という感じで梗汰は笑みを浮かべる。
「あぁ、アレはな、岩盤の質量を限りなく減らして吹き飛ばしたんだ。んで、初速を与えた瞬間に質量を戻したんだ」
「???」
当然ながら、瞳には全く理解できない。
「あー、まぁ、岩を頑張って吹き飛ばしただけだよ」
「・・・・・・納得いかないけど、まぁいいわ。そう言う事にしておくわ」
本来、物の初速は、質量に比例し必要な運動エネルギー量が上昇する。
梗汰がやったことは岩石の質量を極限まで減らし、そこに全力で運動エネルギーを加えることで、梗汰にとっての最大の初速を生み出し、岩石から槍が離れる瞬間に、その質量を本来のものに戻したのだ。
ようはBB弾を撃つ程度の力でライフル弾を撃ったようなものだ、梗汰は恐ろしく少ない力で、物体に運動エネルギーを加えることができた。
「どうせ理屈が分かっても、あたしに出来ることじゃないだろうしね。今の模擬戦の内容も報告に加えておくわね」
「それにしても、お前は接近戦も凄まじいんだな」
「あら、術師が接近戦に弱くちゃ前衛にすぐ潰されちゃうでしょ?あたしは好きよ、殴り合い」
「・・・・・・そっすか」
さわやかな顔で凄いことを言うな・・・・・・。
「じゃあ、あたしは術師館に戻るわ。あなたも適度に休んだら、サイラちゃんのところにでも行ってあげなさいよ」
そう言って瞳は部屋から出て行った。
「うーん、なんか布団に入ってたら眠くなったな、もうちょっと寝てるか」
梗汰は布団を被り横になった。
今回は戦闘パートでしたが、上手く書けたか心配です(’’;