20
「コータさんは精霊術の勉強をしてたんですね~」
「そうそう、方向性が決まったから、大分使いやすくなったかな」
「それは良かったです」
ここはニーナとサイラの部屋、
その広い部屋でサイラと梗汰は昼食を食べ終わったところだ。
ニーナは現在商談中らしく、街に出かけている。
「それにしても、ここのご飯は無駄に豪華だな、昨日の夜オレが食べたものとレベルが違うぞ・・・・・・」
梗汰は昨日の晩御飯はサイラ達とは別にとっていた、サイラ達の部屋を見た後、自分の部屋を案内され、その時点でお腹が減っていてサイラ達の部屋からも離れていたので、兵舎の食堂を利用し一人で食べたのだ。
「そうなんですかー、私は昨日の夜も凄いの食べましたよ!」
サイラは興奮した様子で喋り出した。
「変なお肉とかありました!」
「ほー、そいつは見てみたかったな」
「他にもですねー」
サイラは昨日の夜食べた物について熱く語りだした。
昼食に続き夕食にも、自分の見たこともない料理が出たから珍しかったのだろう。
「それは良かったな、でも、あまり食べ過ぎると横に成長しちゃうぞ」
「むー、そう言うイジワルを言うコータさんは嫌です」
サイラはやや不機嫌そうに口を膨らませる。
不機嫌オーラも少し出ている。
「わるいわるい、サイラはスレンダーな体型だから沢山食べても平気だよね」
梗汰がそう言うと更に不機嫌なオーラが増した。
え?今オレ何か返答ミスった?
バタンッ!
その空気を断ち切るように、部屋の扉が開いた。
扉の向こうには瞳が立っていた。
「探したわよっ」
見るからに怒っているといった表情だ。
どうやら梗汰を探していたようだ。
「ど、どうした」
「どうしたって、あなたねぇ・・・・・・床!また壊したでしょ、直してから出て行きなさいよ!」
「・・・・・・あ」
梗汰は自分が落とした本が床を突き破ったのを思い出した。
「あーそういえばそうだった。わるい、今から直しに行くよ」
「当然だわ、まったく、どうしてあなたは毎回床を壊すのかしら」
「毎回って、まだ二回目じゃん」
「十分です!」
さっそく席を立とうとして、梗汰は気付いた。サイラが瞳のことを、じっと見ていたのだ。
「サイラ?何見てるん?」
その声に反応したのか、サイラは梗汰の方を向いた。
「梗汰さん・・・・・・あの人は大きいですね・・・・・・」
「大きいって?」
背は梗汰と一緒くらい、梗汰が172cmなので瞳も恐らくそのくらいだろう。
(大きい?女性としてはでかいのか?しかし、アメリアん時は大きいとか言ってなかったな・・・・・・あっ)
そこまで考えると、梗汰はサイラが何のことについて言っているのか思い当たった。
「あ・・・・・・あぁ、そう言う事か」
梗汰は納得したように手を叩く。
瞳はさっきから困ったような表情でこちらを見ている。
「・・・・・・?あたしがどうかしたの?」
「いや、サイラがお前のことをでかいって言っててさ」
「・・・・・・あたしってそんなに背大きいのかな・・・・・・?」
少し悲しそうに呟く瞳。
「いや、背のことじゃないと思うよ、本人に聞いてみたら?」
「そうね・・・サイラちゃん、だっけ?なんの話なのかな?」
サイラはその質問を聞くと、席を立ち瞳に近づいていった。
「これです!」
そう言って手を突き出す。
「ひゃっ、なっ何するのよ!」
サイラがその手で掴んだのは瞳の胸だった。
「これは・・・・・・どうやったらここまで大きくなるんですか!」
「そ、そんなの知らないわよ!というかいつまで掴んでいるの、さっさと離しなさい!」
サイラはその言葉を軽く流し、なおも掴み続けている、というか揉んでいる。
その動きに反応するように悲鳴が小刻みに聞こえる。
「こんなに柔らかいものなんですね・・・・・・それにあったかいです」
サイラの手によって、ローブの上からも分かるくらいに瞳の胸は形を変えていた。
瞳は術師に配布されいてる、なんだか丈夫な処置が施されているローブを着ていた、下は足元まである長めのスカートである。
ええええええ、サイラさんなんで胸を揉んでいるんですか。つか、不知火さん顔赤くなってますよ・・・・・・やっべ、なんだかめっちゃ恥ずかしいな。
そうして見てるのも恥ずかしくなった梗汰は、
「あの、なんだか居づらいんで・・・・・・先術師館行ってますね、サイラもほどほどにしておくんだぞ、また後でな」
一人お先に部屋を抜け出すことにした。
「ちょ、ちょっと!っん、あなた、この子止めさせなさいよ!っう」
その言葉に瞳は顔を赤くしながら叫んだ。
「うーむ、しかたないな」
梗汰は瞳に張り付いていたサイラを背中から抱き上げた。
「はーいはい、そこまでにしようねー」
「むー、まだ直接触った感触を試していません」
サイラはまだまだ知りたいことがあったようだ。
手を目の前に突き出しながらニギニギしている。
梗汰はサイラを離し、頭をポンポンと叩いた。
つか、生で触るつもりだったんかい!
「こういうことは、本人に許可をとらないといけないんだぞ?」
「うー、わかりましたー」
「よし」
「誰が許可を出すもんですか!」
瞳は両手で胸を抱きながら、顔を真っ赤にしている。
梗汰はそんな瞳の近くまで行くと
「まぁ、サイラは諸事情があって、今まで人と触れ合うことがなかったんだ、大目にみてやってくれ」
梗汰は瞳の耳に小声で伝えた。
「・・・・・・ん、ならまぁ・・・・・・ちょっとは・・・・・・うん、仕方ないわね。今回は許してあげるわ」
「そうか、すまんな」
深く詮索してくれなくて助かる。
「よし、オレはそういう訳で術師館に行くけど、サイラはどうする?」
「私はお勉強しないといけないので、この部屋にいます」
「そうか、ではまたなー」
「はい、またー」
「次からはいきなり触ったりしないでよ?」
そう言って、梗汰と瞳は部屋を出た。
★
「んー、こんなもんでいいか」
梗汰が穴を開けた床は、すっかり元通りになっていた。
梗汰の直した場所だけ板の色が違っている。
貰った板を形状変更させて固着させたのだ。
「やっぱり地属性は便利ね」
「ん?」
「精霊術だと、他の属性は実戦以外だとあまり役に立たないのにね」
「そうなのか、便利そうなイメージがあるけど」
「まあ、水が飲みたいときに水を出せるけど、それなら水道を使えばいいじゃない?火も同様に火をつける道具もあるわ。便利って言うなら便利なんだけど、地属性は日常生活での汎用性が高いと思わない?」
言われてみれば、確かに地形を変えたりするなどの方向で使うなら、道路などを作るなどの作業に便利そうである。
「確かにそうかもなぁ」
「地属性だけ実体と言っていい物を操作するからね、他の属性の力は大体がエネルギーだけだから、その分質量で力負けすることもあるわね」
「そうなんだ、エネルギーだけの方が強いイメージがあるけどなぁ」
「ようはどんな力も使いよう、ってことね」
「なるほどね」
戦いを前提とした話か、うーんオレにもそういう機会がくるんかねぇ、もしくるなら今のうちに他の術師の戦い方とか見てみたいもんだなぁ。
「梗汰、あなたせっかくだし、あたしと模擬戦でもしてみる?」
「え?」
「せっかくだから、精霊術師としての年季の差ってやつを教えてあげるわ、力の違いも分からないと後々苦労することになるわ」
「たしかに・・・」
それにしても言ってくれる!
よほど自分の力に自信があるようだ。
だが、これは好都合、どんなもんか験させてもらいたい・・・・・・が、
「でもな、オレ、怪我とかするの嫌だぞ?知り合いに怪我をさせるのも嫌だし」
梗汰の考えももっともである。
「安心しなさいな、仲間内での能力の向上のための模擬戦なんて珍しくないわ、そのための設備もあるから大丈夫よ」
「なら安心、か」
「では、中庭にある施設まで行くわよ、ついてきなさい」
「りょーかい」
★
梗汰は瞳に連れられ、中庭の施設のまで来ていた。
こざっぱりとしたその場所は、天井がとても高く、百平方メートルくらいだろうか、自由に動き回るのには問題ない程度の広さだった。
中は、壁と天井がある競技場のような感じだ。
まばらに人が居たが、現在使用している感じではない。
見た感じ、どうやらここの職員のようだ。
「よかったわね、誰も使用していないから待たなくてもよさそうよ」
瞳は建物の中央まで進んで行く。
梗汰もそれを追いかけた。
「おーい、オレはまだこの施設のこと何もしらないんだぞ?怪我を心配しなくていいってどういうことなんだ?」
「この施設はね、模擬戦を想定して作られているの、その模擬戦で術師や騎士に、怪我人ないしは死人を出してしまったら大きな損失だわ、そのためにこの場所にはある仕掛けがしてあるの」
「ある仕掛け?」
「そう、この場所には、ここの建物を覆うように作られた、大きな結界状の術式が仕掛けてあるの、それを発動させた状態だと、その中で人が一定以上の身体的ダメージを受ける又は、一撃で死に繋がると判断された攻撃が身体に触れると、結界自体がその攻撃を防いで、その人は強制的に結界の外まで飛ばされるようになっているの」
「おー、そうなのか」
「それに、一応”癒し手”も常駐しているの、だから安心してくれていいわ」
「なるほど、それなら安心だな」
話しながら梗汰と瞳は建物の中央まで来ていた。
「武器は、まぁ使いたかったら使ってもいいわよ。では、はじめるわよ?」
話しながら瞳は梗汰から離れる。
瞳は右手を挙げ、何かの合図を職員らしき人に送る。
ブゥゥゥゥゥン
場が振動し、何かに発動したような感じがした。いや分からんが・・・そんな気分!
「さぁ、準備はいいわね?では存分に戦いましょう」
ぶぉおおう
瞳の周囲の地面から陽炎が立ち昇った。