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昼食を終えてから約30分後
梗汰達は、アズールに案内され王宮から少し離れたところある、術師館と言う巨大な建物の一画にある、精霊術師が居るという部屋に案内された。
さっそくアズールがドアをノックし、
「失礼します」
どうやら鍵は開いているようだ。
梗汰はアズールの後に続くように入る。
その開けられた扉の隙間から梗汰が顔を出す。
部屋の中はとても広く、部屋の中にも他の部屋への扉がいくつかあった。
その他にも個人デスクと思われるものが数台、豪華なソファーなど様々な調度品などが置かれていた。
「中は意外と広いんだな」
「そうですねー」
梗汰が視線を落とすと下にはサイラの頭が見えた。
「アズールよ、誰も居ないんじゃないか?」
あの話し合いが終わってから、アズールを呼ぶ時の”さん”と言う敬称がなくなっていた。
梗汰の中では”知らない人”から”友達”と言う枠組みに組み込まれ、すっかり遠慮がなくなっていた。
「ふむ、不在なのでしょうかね?」
「どうする?他の所にいくのか?」
もし不在ならこれからどうするか、アズールが答えを出そうとした時、
「ちょっと待ちなさい!今行くから!」
声が聞こえた。
どうやら女性のようだ。
ガタガタと扉を急いで開けるような音が聞こえる。
「ふぅー、来るなら予め来るって言っておきなさいよ!急にこられるなんて迷惑だわ」
扉を開けるなり、その女性は心底面倒だ、と言う風に言った。
その女性は、見た感じとても大人びた容姿で、黒い髪は方まで掛かる程度まで伸ばされており、ストレートでクセの全く無いその髪には、時折天使の輪が見える、顔立ちは綺麗なのだが、その細く切れ長の目は、見る人によってはキツイ性格に見えてしまうだろう。
・・・と言うか話し方からしてそんな気がするぞこの人。
「すみませんね、なにぶん急だったもので」
「まあいいわ、用件を言いなさい」
「はい、精霊術について教えてほしいという方が居まして」
そういってアズールは梗汰の方を見る。
「あ、オレは稲葉梗汰って言います、よろし」
「あなた、精霊術を教えてとかふざけているの?」
梗汰の言葉は、その女性の声によって遮られた。
急な問答に梗汰は固まってしまう。
「え・・・・・・と」
「精霊術は血によってしか使えない魔法なのに、話を聞いただけで使える訳ないじゃない。今名前も聞いたけれど、そんな苗字の精霊術師の家系知らないし、時間の無駄だわ。さあ帰りなさい」
普通の人からすればもっともな意見だ。
「あー・・・・・・オレは、なんつーか渡り人でさ、この世界にきてから精霊術が使えるようになったんだ」
梗汰は驚いたようなその女性の表情を確認すると、自身の言葉を証明するかのように術を発動した。
「おりゃ」
床板を突き破り、先の尖った岩が突き破って現れた。
「・・・・・・っ、その石が飛び出る時、確かに地の精霊の動きを感じたわ。どうやら本当のことみたいね、新たな地霊術師の家系の誕生ってわけね」
そこまで言うと一度地面を見て、それからもう一度梗汰の事を見た。
「・・・・・・なんで渡り人がここにいるの?」
梗汰の中でその答えは一つしかない。
「アメリアに捕獲された」
その女性は、軽い頭痛を抑えるかのように頭に手をあてた。
「あの王様は・・・・・・また変なことに手をだして・・・・・・でも、あの人のやることなら仕方ないわね。まあいいわ、私の名前は、不知火 瞳。火霊術師の家に連なる者です」
「不知火さん、ね。よろしくな」
「ふぅ、ではさっそくだけど、あたしにあなたの現状と、今あたしに何を望むかを言いなさい」
梗汰は、自分が現界してから今までの出来事を話しはじめた。
自分が繋がりを持つモノであるという点を除いて。
★
「ふむ、渡り人が精霊術を使ったと言った話は聞かないけど、それが全てに当てはまるとも言えないですし・・・・・・今言った言葉が本当にあなたの言うとおりなら、あなたは地霊術師なのでしょうね」
アメリアが納得したと言う事実と、先ほど梗汰が発生させた地霊術によって、通常在り得ない現象を許容できたようだ。
(ふー、信用してもらえたか。後は滞りなくコツとかを教えてもらえたらいいんだけどな)
「ですが、精霊術はその家系によって教えも力の使い方も異なると聞きます、私が教えるなんて、精霊の感じ方や、効率よく制御したり動かしたりする程度の、初歩ことだけになるわ、それでもいいの?」
梗汰にとってはそれが一番知りたいことだ。
「それだけでも教えてもらえたら嬉しいです!」
「いいでしょう、ところであなた、歳は?」
「オレは21歳ですね」
それを聞くと瞳は少し考悩むように顎に手をあて、ぼそぼそと何かを呟く。
「あたしの方が年下か・・・・・・それだと、こっちから呼び捨てはまずいかしら?だからと言って呼び捨てされるのも嫌だし・・・・・・でもこの場合はこっちが先生だから立場は上よね・・・・・・」
「へー、瞳さんは年下なんだ」
「そうよ、あたしは今年で18歳、よし、あたしは梗汰と呼ぶから、あたしの事は”不知火さん”と呼ぶのよ?」
おい梗汰!ここで嘗められていいのか?いや、断じて否!ここのままの流れだと立場が一生変らない気がする!
「おい、それはさすがに」
「あたしは教える立場、あなたは教えを請う立場、なにか問題でも?」
「さすがに・・・・・・今日は疲れてるので明日からお願いしていいでしょうか?」
梗汰の抗議はどこかに消滅した。
「ふふ、こういうのもなかなかいいわね」
瞳は目を細めて満足そうに微笑んだ。
梗汰はその言葉に悪寒を感じた。
むしろ嫌な予感しかしない。
「では、また明日ここに来なさい、あたしが居る時間にくるのよ?」
「そんなの分かるかっ!」
「あら、あたしが居なかったら出直せばいいだけじゃない?何か問題でも?」
「・・・・・・ありません。ではまた明日」
梗汰達がそのまま部屋から出ようとすると、
「ちょっと、梗汰まちなさい」
「・・・・・・なに?」
「床」
「ん?」
「床を直していきなさい」
「・・・・・・!」
その後、梗汰は岩を消し、床を張替えるまで部屋から出してもらえなかった。
次の言葉のように短縮形で登場することもあります(’’ノ
地の精霊術→地霊術
火の精霊術→火霊術
水の精霊術→水霊術
風の精霊術→風霊術
地の精霊術師→地霊術師
火の精霊術師→火霊術師
水の精霊術師→水霊術師
風の精霊術師→風霊術師
【天使の輪】
艶のある髪。
白く光る艶が確認できる髪のこと。