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ここは王宮内の別室
豪華な装飾のされた円形テーブルには、一般人では一年に一度食べることが出来るかどうか、というレベルの食事の用意がされていた。
つーか、これ本当はご飯食べるような場所じゃないだろ。
梗汰達が今居る部屋は、通常は会議室として使われている場所である。
少数で集まることを想定されたその部屋の円形のテーブルには、十二脚しか椅子が置かれていない。
最初は、通常の食堂に案内されたのだが、アメリアの
「こんな細長いテーブルでは話しにくいな、円形のテーブルが置いてある場所があったろう?そこで食べることにする、そちらの方へ配膳を頼む」
その一言により、急遽、会議室を食堂の様にテーブルセッティングし直させたのだ。各自、自由に話せるようにバイキング形式になっている。
そうして梗汰達が連れてこられたのがこの会議室、給仕や使用人はアメリアの要望により締め出され、今この部屋に立ち会っているのは、
アメリア、アズール、サイラ、ニーナ、ロランそして梗汰の六人。
会議室に食事が配膳されなおすと、ニーナとサイラがもの凄い勢いで料理を食べ始めた。
「お腹、減ってたんだな」
「ぅ・・・・・・ング、うるさい!な、泣いたからお腹が減ったんだ、つまり私がこんなに食べているのは、お前のせいでもある!ふ、普段からこんなに勢いよく食べている訳じゃないからな!」
口に詰め込んだのを一気に飲み込んでから、焦ったようにニーナが弁解する。
(こんな身内ばっかのところでそんな食ってても、誰も気にしないのになぁ)
「そーすか、まぁ頑張って」
梗汰が適当にそう答えると、
ニーナは一瞬、ムッとした表情になったが、隣を一瞬見ると、すぐさま再び食べるのを再開した。
ニーナの隣には小さな暴食者が居た、それはニーナが梗汰と話している間も、もの凄い勢いで周囲の料理が取り込んでいた・・・・・・というかサイラだった。
このちっこい体に、よく入るな。
「サイラもよく食べるんだな」
「私は、ゴクン、お腹ペコペコでしたー、見たこともない料理が沢山あるので制覇したいです!」
「おー、沢山食べとけよ、沢山食べないと肝心なところが成長できないからな・・・・・・どこぞの偉そうな誰かみたいに」
「ほぅ、それはどこの誰のことかな?まさか俺のことではないだろうな?」
梗汰が殺気を感じて振り向くと、お皿に綺麗に小分けされた料理を手に持っているアメリアが、梗汰見下ろしていた。
えぇ~、なんであんなに小声で言ったのに聞こえてるんだよ・・・・・・。
つかこの人、オレより背がでけーぞ・・・・・・妙な圧迫感を感じる。
アメリアの身長は、ハイヒールを履いているという事もあるかもしれないが、身長172cmの梗汰より5cmほど高かった、確かにでかい・・・・・・身長は。
うぅ、なんて目力だ・・・・・・。
ここで、貴方の胸の成長期は終わっていますね、アハハ
とか、冗談でも言ったら・・・・・・殺られる。
「・・・・・・アメリアさんの事ではありません、決して!」
「ならいい、返事があと少し遅れていたら、俺が直々に上手に生きるコツを教えることになっていたかもしれん、それと、俺のことはアメリアでいい、気にせずそう呼べ」
「でも、一応年上には敬意とか」
アメリアはやれやれといった風に首を振った。
「さっき聞いたがお前は21歳なのだろう?俺は今年で22だ、たった一年くらい気にするな、それにお前は一応ニーナの知り合いだからな、呼び捨てでも別に構わん、気にする程のことではない、まぁそれでも知り合い以外には様を付けさせるがな、体面もあるのでな」
「そうか」
「それに、上辺だけの敬語など聞いていて嫌気が差す、いつか、お前も含めて全ての者が心から俺に敬意を払うようになる予定だ」
「そ、そっすか」
なにやら、壮大な計画を聞いてしまった。だがこの人は本当に実現させそうで怖いぞ・・・・・・。
と、そこで梗汰はマントが引っ張られるのを感じた。
「コータさんコータさん、肝心なところの成長とは一体なんのことでしょうか?」
・・・・・・え、それ出しちゃう?あの件は今のアメリアとの話で終わったんじゃないの?
「そうだな、俺も聞いてみたい、肝心なところとは一体どこか?」
アメリアは嫌らしい笑みを浮かべている。
こ、こいつ・・・・・・。
「っく・・・・・・い、いや、沢山食べることで胃袋とかさ・・・・・・あ、あとサイラは身長とかも」
「とか?」
「身長です!」
「そうですかー、もうちょっと高いほうがいいんですかね?」
「ん、そう言われると今のままでもいい気がするけど・・・・・・って、あああもう、めんどくさい!子供に大きくなれーとか、成長しろよー、とか言うのは恒例の挨拶みたいなもんだから気にしないでっ!!」
周囲から、微妙な視線を感じる。
特に、ニーナの”ふふん、へたれが”みたいな視線が気に喰わねぇ!
「そうですかー、コータさんが今のままでもいいって言うならいいです」
ふぅ、よかった。どうやら今のは生存ルートだったようだ。
「ですけど・・・・・・子ども扱いはしないでって、言いましたよね?」
・・・・・・ここは地雷原かよ。
「そ、そうだったな、ごめんな」
「・・・・・・まあいいです」
サイラはそう言うと、チラッと隣のニーナに目を向け、再び食べる作業を再開させた。
★
そしてしばらくし、現在はお皿に盛られた料理もかなり減ってきていた。
ニーナは椅子に座りながら、ナプキンで手を拭いており、サイラはナプキンを折って何かを作っていた。
「ふぅ、さすがに、これはあの宿の料理よりも美味いな、少々食べ過ぎてしまった」
「お前等・・・・・・あれだけ食べておいて少々ってことはないだろ」
「黙れ」
「・・・・・・はい」
サイラからも返事が返ってくる。
「私も満足ですっ」
「それは良かったな」
「はい!」
サイラもニーナもかなり満足したようだ、デザートも食べ終え、現在は椅子に座って二人してゆったりしている。
「お前等も、もう満足したようだな、俺もなかなかに楽しめた、ではニーナ、いきなりですまないが変成器の取引の話といこうか」
「これは、いくらお姉さまでもお安くはできませんね」
「うむ、承知した。では別室で、ロラン、お前もついてこい」
「っは」
ドアから出て行く直前に、アメリアは唐突に梗汰の事を呼んだ。
「おいコータ、そういえばお前はこの国の精霊術師と会いたいそうだな」
「会えるもんなら、会ってみたいですね」
「うむ、よかろう、俺の国には、精霊術師はそれ程ではないが居る。その他にも魔導師は色々な種類のが在籍している、興味があるなら、そっちの方も参考までに会っておくのもいいだろう。アズールに案内してもらうといい」
「ぉー、精霊術師以外も居るのか、そいつは 」
「”面白そう” だろ?」
「はは、そうですね、ありがとうございます」
「うむ」
アメリアは満足そうに頷くと、ニーナを連れ別室へ向かった。
「ところでさ、アズールの言ってた、変成器の取引での会ってほしい人って、アメリアのことじゃないよな?」
「そうですね、本当は軍事顧問あたりと交渉してもらう予定でしたが、王と直接取引きするのだったら、そちらの方が早いでしょう」
「そっか、ではこっちも行きますか、案内は任せた、サイラも行くぞー」
「分かりましたー」
「とりあえず精霊術師の所にいきましょうか」
「りょーかい」
さっそく梗汰達は、精霊術師のもとへ行くことになった。