15
三十分位経っただろうか、ひたすら質問に答えていると、ドアを叩く音がした。
「アメリア様、渡り人の連れを、連れて参りました」
そこで梗汰との話を中断すると、アメリアはコホンと咳をする。
「よし、入れ」
扉からは、ロランを押しのけるようにしてサイラが梗汰に向かって駆け寄ってきた。
そのまま梗汰の前まで駆け寄ってきた。
「コータさんー、王様と二人っきりで色々話してたみたいですねー、私もコータさんの話はまだ詳しく聞いてないのにずるいです」
そう言うサイラの目は笑っていなかった。
なんか異様なオーラを背負ってるぞ・・・・・・。
え、なにこれ?罰ゲームかなんかですか?
「あ、あはは、ごめんごめん、サイラにも後で話してあげるから」
「約束ですよー、絶対ですからね?」
「分かった分かった」
「なら許してあげます」
サイラは瞬時に柔らかな雰囲気を取り戻した。
サイラの元気な姿を確認して、梗汰は少し意識が和らいだ。
ふぅ、サイラはほんとに心のオアシス的な存在だなぁ。
梗汰は自身がサイラに軽くコントロールされていることに気付いていない。これは、自分が愛して止まない子供に勝てない大人の図に近いだろう。
「その話は私も興味があるな、私にも聞かせてもらえないだろうか?」
「ニーナもかよ・・・・・・」
「お姉さまだけに聞かせるのはずるいだろう、私にも聞く権利はあっていいはずだ」
「・・・・・・え?」
え?えええええ?お姉さま?今、お姉さまって言ったかコイツ?誰のことだ!?さすがにサイラのことじゃないよな・・・・・・ん、同じ色の赤い髪・・・・・・あっ!まさか!!
「おぉ、ニーナではないか、久しぶりだな」
「お久しぶりです、アメリアお姉さま」
ニーナとアメリアは、まるで旧知の仲であるように挨拶を交わした。
「え?なに?お前等・・・・・・まさか」
「ん?気付いてなかったのかコータは」
「俺達は従姉妹同士だ、髪の色とかがそっくりだろう?」
「い、言われてみれば確かに」
アメリアはそう言って自分の頭を指差す。
しかし梗汰の視線は、
うーむ、胸の大きさも残念なくらい似ている。
ふと、鋭い視線を感じた。
「・・・・・・おい、コータ、お前どこを見て納得しているんだ?」
「あ、いや、ニーナのふく・・・・・・服があまりにも普通だったからさ・・・・・・」
「?」
何を言っているんだオレは。
つーか言われるまで全く気付かなかったぞ・・・・・・でも今思うと”面白いモノ”が好きなあの性格と、所々で出た似たようなセリフ、よく見りゃ目の色も一緒じゃねーか!なぜ気付かなかったオレ!
梗汰が気付かなかったのも無理はない、王の体面を保つための化粧と、豪華な服に装身具、それにより発生する印象の大きな違いと微妙な顔の違いによって、共通点は見出せても、あの状況で一目でこの二人が血縁であると気付ける人は少ないだろう。
「オレはとんでもない奴と一緒に旅をしてたんだな。色々と悪かったニーナ」
そう言うと、ニーナは慌てて反応してきた。
「・・・・・・コータ、今更私に対する接し方を変える必要はないぞ。うん、そのなんだ。そこまで改まられると寂しいと言うか、短かったがコータ達と一緒に過した時間も悪くなかったと言うか・・・・・・」
「あぁ、それなら良かった、んじゃこれからも適度にいじるから、改めてよろしく」
「って、おおおおい!そのっ、多少敬意を払おうっていう心というか、そういうものはないのか!」
「だって、今までので良いって言ったじゃん」
「ぅぐ・・・・・・それは」
そうやって言い合っているとアメリアからくつくつと笑う声がした。
「あっはっはー、どうやらニーナ、お前は良い友人を持ったようだな」
「姉さま!こいつのどこが良い友人だと言うのですかっ、いつも私を馬鹿にしているんですよ!」
「お前は今までそのような歳の近しい友人は居なかったではないか」
「ぅぐ・・・・・・確かにそうですが」
「そういう軽口を言い合える間柄と言うのは貴重なものだ」
そう言うアメリアの顔には、自分も体験してきたかのような表情が浮かんでいる。妙に実感のこもった言葉だ。
ニーナの親は大商人、血縁は王族、それが理由で同世代の人がニーナと接するときは、極端に畏まれるか、こちらに取り入ろうとするか、いずれにしても腫れ物みたいに扱われていたのであった。
そのため、ニーナは商人としての教育を終えるとすぐに、幼い頃からお世話になっていた錬金術師や鍛冶屋、知り合いの商人などと仲良くなり、商隊についていって旅をしたりしていた。今回の旅は一人での経験を積んでいる最中だった。
「コホン、うんまあ、そうだな、姉さまが言うのなら仕方ないな、うん、コータ、お前を特別に私の友達としてやろう」
すかさず梗汰はつっこんだ。
「あほか、友達というのはな、作ろうと思って作るものじゃない、勝手に出来てしまうものが友達なんだ」
「・・・・・・そうか、では私ではダメのようだな」
ニーナは俯き声のトーンを急激に落とし呟くように言った。
アメリアからの視線が少し痛い。
というかニーナは気分の落差の激しい奴だな・・・・・・さすがにメンドクサイぞ。
「違う、最後まで聞け、つまりだな今回の旅でオレとお前は既に友達になっていたという訳だ、今更確認する必要などない、友達とはそういうものだからな、もちろんサイラもアズールもだ」
「ほっ、ほんとうか?」
「そうですよー、ニーナさんは友達です」
「そうか、良かった・・・・・・」
そう言ったニーナの目からは涙が零れていた。
何か湿っぽい雰囲気になっちゃったな。よしここは大人としてフォローに回らねば。
「おいおいニーナ、急に泣き出す奴があるか、コレで拭け」
そう言ってコータはスーツを買ったときに付いてきた、ハンカチの様な布をニーナに差し出す。
それを見るとニーナは、ハンカチを吹き飛ばしコータの襟を掴み胸に顔を押し当て、声を押し殺し泣き始めた。
・・・・・・え?なにこれ、なんでオレが慰めてるみたいな感じになってんの?あの・・・・・・空気さっきより湿っぽいんですけど・・・・・・なんでハンカチ、スルーされたの?つーかなんでオレの胸で泣いてんの?冷た、あ、服が湿ってきた。
梗汰はハンカチを前に差し出した状態で固まっている。
アメリアは嬉しそうに頷いている。
つーか襟ひっぱんな!首が絞まって苦しい!
「ふぅ、コータさんも仕方がない人ですねぇ、人恋しさに付け込むようにして・・・・・・私と合わせて二人目ですか?どんどん増えて行くんですかこれは?ねぇどうなんですか?」
ねえ・・・・・・サイラさん、なんだか性格変ってきてませんか・・・・・・なんでそんなに勢いよくマントを引っ張るんですか!現在ニーナに襟を掴まれてくっつかれてるから首が絞まって苦しいんですけどおおおおおお!
「さ、サイラさん落ち着いて、これはなんというか、そう!ただの友達としての友愛表現ですよ」
「ニーナさんの気持なんて分かりません」
「くっくっく、面白いことになっているじゃないか。サイラとやら、こいつはどうやら、いつの間にかニーナとは、いつの間にかお前より仲良くなっていたようだぞ」
その瞬間、やや収まりかけたサイラのオーラ的な何かが再び増大したのを感じた。
アメリアは再び嫌らしい笑いを浮かべこちらを見ている。
つーか火に油を注ぐようなことを言うんじゃねええええ!
て、てめぇ!覚えとけよアメリア、いつかぜってぇ泣かす!
「おまえらあああああ!いい加減に離れろろおおお!!アズールカモン!任せた」
「ふぅ、はいはい、分かりましたよ、はぁ、私はもうコータ君達と話す予定は無かったのですがね・・・・・・」
アズールはそう言って、ため息を、だがどことなく嬉しそうに吐いた。
さっきと比べて大分雰囲気が軽く感じる。
アズールもこんな結末になるとは予想してなく、拍子抜けしたようだ。
「ん、アズールはそんなことを考えていたのか・・・・・・だからあの時あんなことを言ったのか、だがな、お前ももうオレ達とは友達だからな、そう簡単には離れられないぜ」
「ふぅ、分かりましたよ」
再びアズールはそう言うと、マントを引っ張っているサイラをなだめ始めた。
梗汰もそれに合わせてニーナをなだめにかかる。
「ニーナも、もういい歳してんだからいい加減泣き止めよ。みっともないぞ?」
ニーナは梗汰の胸にうずめていた顔を上げた、軽く梗汰を睨み付けるような顔をしている。
だが、梗汰とニーナの身長差のため上目遣いに見える、ニーナの目は泣いた影響で軽く赤くなっていていた。
「・・・・・・コータ、今の言葉はさすがにないんじゃないか?」
「え?だってニーナ17歳でしょ?もう成人してるじゃん」
「そういうことじゃなああああああい!まったくお前はっ、こういうときまで!なんてデリカシーのない男なんだ・・・・・・まぁいい、元気は出た、・・・・・・一応感謝する」
最後の方はぼそぼそ言ったため梗汰には聞こえなかった。
ニーナは梗汰から離れ、梗汰が差し出した状態のハンカチを手に取り顔を拭き始めた。
って!そこでハンカチ使うのかよ!最初からそっち使え!
そこで話題を変えるようにニーナは言う。
「ふぅ、久しぶりに泣いたらなんだかスッキリした、ところでみんな、もうこんな時間だ、どうだ?みんなで・・・・・・」
そこで きゅ~ ニーナのお腹から音がした。
あぁ、なんて空気の読めないお腹なんだ・・・・・・もうちょっと粘ればニーナから言い出せたのに。
「「・・・・・・」」
「そ、そういえばお昼がまだだっ「それ以上は言わないでくれ」・・・・・・分かった」
そこでアメリアが空気を読んだかのように、
「お前等は、昼食がまだであったか。そうだな、それくらいこはこちらで用意しよう、ロラン、給仕達に言っておいてけ」
「・・・・・・分かりました。私は召使ではないのだがなぁ」
「おい、何か言ったか?ここは今人払いがしてあって誰も居ないのだ、任せたぞ」
「はぁ・・・・・・」
ロランは軽くため息をつくと、再び扉から出て行った。
あの人もきっと苦労してるんだな・・・・・・。
その後しばらくして、マントを引っ張っているサイラもようやく収まり。
戻ってきたロランに連れられて、みんなと昼食をとることになった。
ここまで読んでいただけた方は分かると思いますが、
アメリアとニーナの性格がやや似ているのは仕様です!(’’ノ