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大地の系譜  作者: Melon
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「さて、昨日のアズールからの報告だと、そろそろ来る時間なんだが、どうだ?」


 その空間に声が響く。

 誰から見ても分かる、豪奢な椅子 ――玉座に座っているそれは言う。

 その玉座の背後と左右には大きなステンドグラスが嵌められており、外からの光によりその姿を玉座を映し出している。その部屋を訪れた者には、七色の光に照らし出された玉座に座る王を見て、誰もが強烈な印象をいだくだろう。

 

「今、王宮の前についた模様です、もうしばらくすればここに到着することでしょう」


 それの声に答えるように、もう一つの声が響いた。


「そうか、あれ程の規模の反応だからな、どんな奴なのか楽しみだ」

「期待しすぎて拍子抜けしませんように」

「つまらない奴だったら、アズールをわざわざ派遣した意味がないな」

「そういえば、なぜアズールを派遣したのですか?」


「あいつはな、常に冷静にして狡猾だが、自分の気に入った相手や子供には極端に甘くなる。情でも移ればソレが確保対象の枷になるだろう、まぁ確保対象が奴の琴線に触れでもすればここに来るときは対象の意識はないかもしれないがな、昨日の感じだと前者の様だ」


「アズールを使って対象を縛る、と言う訳ですか」

「まあ、だいたいそのようなものだが、一番の理由は、そのほうが”面白い”から、だ。騎士団を派遣してもあっさり連れてくるだけでつまらないだろう、なにより奴は強い、奴一人の方が効率もいいだろう」

「アズール=ミラー、たしか戒殺騎士団かいさつきしだんに所属していましたか」

「そうだ、奴なら導師クラスの魔術師や、通常の騎士程度の相手なら何人相手にしても問題にならないだろう」

「ふぅ・・・・・・そろそろ国政や国の一大事などで遊ぶ癖をやめてもらいたいものですね」

「まあ、そう言うな、足音が聞こえるどうやら着いたようだ」


 


 玉座の間の扉が開かれた。





 王宮の門から玉座の間までは一本道のようだ、この通路にも両脇には、ところどころに豪華な装飾の鎧を着た騎士が立っている。

 梗汰はアズールの一歩後ろをついて歩いている。

(オレを呼び出した王ってやつは一体どんな奴なんだ・・・・・・)

 目の前を歩くアズールの足が止まった。

 梗汰達の目の前には、木で造られた両開きの扉がある。 


「開けますよ、コホン。アズール入ります」


 コンコン、ガチャ

 アズールは声を掛けた後、扉をノックし開けた。

 アズールは玉座の前まで行くと跪き


「アズール参上しました、確保対象はこちらです。名はコウタ=イナバ、反応付近に居たのを確保しました」

「ご苦労、下がれ」


 脇に立っている騎士が言うと、アズールは一礼して脇に下がる。

 玉座に座っていた王が立ち上がり近づいてきた。


「ふむ、これが反応の元か」


 値踏みするように梗汰を見てくる。

 梗汰が目にしたのは、七色の光に照らされた玉座に座った女性だった。その女性は赤く光沢のある長い髪を腰まで伸ばしており、頭には銀色のティアラを着け、髪の色と同じ真紅のドレスを纏っている。歳は20歳過ぎぐらいだろうか、見た目は若くまだまだ老いとは程遠いように感じる、その黒い瞳は見るものを惹きつける、彼女からは何年も生きてきたような確かな威厳を感じた。


 その脇には、厳つい鎧を着けた騎士が立っていた。歳は50前後だろうか、黒い頭髪は大分後退しておでこが大分広がっている。身長は190cmは越えているだろう、鎧の上からでもそのガタイの良さが伝わってくる。漂う雰囲気は一介の騎士のソレではなく、歴戦の戦士ようなオーラが出ている。


「俺の名は”アメリア=ルクセル”見ての通りこの国の王だ。この場は予め人払いはしてある、気にせず話せ、お前のことをな。コータ」


(オレの持っているカードは、オレ自身が渡り人ということと、コネクターであるということだけだ、上手く使わないと・・・・・・)


「オレは渡り人としてこの世界に渡ってきた、そして気付いたらあの森に居た」


 その言葉にアズールと王 ――女王の脇の騎士が反応するのが分かった。

 だが、アメリアだけは面白いおもちゃを見つけた子供のような顔をしていた。


「ほぅ・・・・・・なるほど、渡り人とは珍しい、あの反応が渡り人の発生と言われれば、まぁ納得できよう。だが、昨日アズールの報告で聞いたが精霊術が使えるそうだな、それで魔狼を撃退したそうだが、それはどうやった?渡り人とは精霊術が使えるものなのか?」

「それは分からない、最初から使えたんだ」


(相手側にも渡り人の情報はあまりないようだ、ならこれで誤魔化せるはず)

 梗汰がそう言うと、アメリアは形の良い顎に手をあて、少し思案するように言った。


「ふむ、こちらでは確かめようはないからな、お前を信用するしかないが・・・・・・ロラン、お前はどう思う?」


 アメリアの脇に佇んでいた騎士 ――ロランが応えるように言う。


「私に判断はできませんな、私は渡り人とは会ったことも、見たこともありませんので、渡り人自体は珍しいですが、何年かに一人の割合くらいで発生するらしい、と聞いています」

「ふむ・・・・・・そうか。コイツの処遇はどうしたものか、そうだな、この国で雇うというのはどうだ?」


 そう言うアメリアの顔は既に笑顔に包まれている。

 まるで、いたずらを考えている子供の顔みたいだと梗汰は思った。


「っ、アメリア様!いくらなんでも相手は見知らぬ人に変りはありません、得体の知れない渡り人ですよ!もっとよく考えてから!」

「何を言う、渡り人だぞ?こんな珍しいものを他の誰かに渡せるものか!この国で発生したのも何かの縁だ、そして精霊術師は珍しい、何よりっ、この状況は大変面白い!」


 キラキラと子供の様に目を光らせるアメリアの隣では、ロランは諦めたかのようにため息をついていた。


「まったく、こんなに面倒ごとを起こすなんて、普通の王では考えられませんよ」

「それは違うな、起こしたくて起こすものが王ではない!起こってしまうものが真の王なのだ。俺ほどの王になると向こうから面白いモノがやってくるものだ、こんな千載一遇の機会を逃せるわけがないだろう?」

「はぁ、もう何を言っても無駄なようですね・・・・・・」

「あっはっは、諦めろ、渡り人を召抱えるとなると箔もつくと言うものだ」


 再びロランのため息が聞こえた。




 ところで・・・・・・なにやら話が進んでいるようですが、え?オレの意思とかはどこいっちゃったのカナー? せっかく、覚悟決めて来たのにこのノリは一体何よ? オレの覚悟をどうしちゃってくれてんの!


「って、オレの意思とかはどこ行っちゃうんですかね!?」

「は?お前の意思なぞ、王であるこの俺の決定の前では全く問題にならん」


 カッチーン、さすがに温厚なオレでも怒っちゃいますよー。


「そんなことが有っていいのかよ!」

「ここの国を誰の国だと心得る?もちろん俺のだ!この国では俺が何をやろうと関係ないのだ、あっはっはー」


 アメリアは可笑しそうに笑う。


「逃げてもいいが、必ず捕らえるぞ?それに、お前は渡り人だろう、この世界では住む所も金も仕事もない訳だ、どうする? 一言「どうかこの国に置いてください」と言えばなんとかしてやるぞ?だがもし、万が一断ると言うなら、その服と宿の代金を払うんだな、ただしそうなった場合はあの宿を国で買い上げて、そのときの金額をとてつもなく高かったことにしてやろう」


 そこまで言うと、くっくっく、と再び笑った。

 ・・・・・・うぐ、このネーちゃん。いい性格してるぜ、なんつーか死角が見当たらん、逃げ場がねーぞ・・・・・・横暴すぎる!


「それにお前が断ったら、アズールを処刑する。渡り人をちゃんと連れてこれなかった罰としてな」

「っ、おい、お前それは本気で言っているのか・・・・・・?」


 梗汰は自分の心が急速に冷えていくのを感じる。


「まぁ、さすがにそこまではしないが、何らかの罰を受けてもらおうと思っている」

「うぐぐぐぐ、どの道オレには選択の余地はないってことか」

「そうだそうだ、諦めて俺の配下に加わるがいい、どうやらお前は多少学もあるようだしな、今からどう使うかが楽しみだ、そうだ、お前達と一緒に居たあの小娘、サイラと言ったか、やつの面倒も一緒にみてやってもいいぞ?」


 そこで全く予想してなかった単語が出てきた。

 んなっ、こいつ・・・・・・サイラのこと知ってんのか!


「ふふ、驚いた。と言った感じの表情だな、なに、この街にアズールが入ったときから監視役をつけておいたのだ」


 検問の時に確認してな、と付け加えた。

 梗汰は最悪の展開を予想してしまった。

 まさか、サイラも・・・・・・。


「ふふ、案ずるな、人質としようなどとは考えていない、無関係の子供を巻き込むのは、真の王がするような事ではないからな、お前が俺の物になればちゃんとした教育も受けさせてやろう」

「・・・・・・オレ一人に大した価値をつけてるようだが、後悔してもしらないぞ・・・・・・」

「気にするな、そうなったらそうなったで俺の目が曇っていたということだ、まぁ最悪、渡り人を配下に加えたという事実があればいい、それにお前の世界のことも気になるしな。純粋にお前自身に興味がある」


 どこか引っかかる言い方だな・・・・・・しかし、最悪サイラが無事なら問題ない。

 それに、ちゃんとした教育を受けさせるならば、恐らく学校のような場所があるとみていいだろう、そこで友達でも出来れば万々歳だ。

 渡り人を自分の物にしたいと言っていたから、オレは最悪でも死ぬことはないだろう。


「そう・・・・・・か、ならサイラの安全だけは約束してくれ、アズールにも罰は無しだ」

「いいだろう、おい、ロラン!こいつの連れをアズールと一緒に連れて来い、ついでにしばらくこの部屋には人を入れないように言っておいてくれ」


 もちろんアメリアにアズールを罰する気など最初からなかった、梗汰の意思を引き出す材料としたのだ。


「・・・・・・分かりました、少々お待ちください。ゆくぞアズール」

「はっ、分かりました」

「おい、渡り人よ、アメリア様には気を付けろ、そして出来るだけ言う事を聞いてやってくれ」


 ロランはそう言うとこちらの返事を聞かずに、アズールを連れ梗汰達の入ってきた扉から出て行った。


「ふぅ、ロランの奴め、普通は俺の心配をするものだろうに。まぁいい、ところでお前に聞きたいことがある、お前の世界では文明はどうなっているんだ」


 いきなり質問タイムですか、どんだけ暇なんだ・・・・・・。

 もう梗汰は反論するのを諦めた。


「・・・・・・言葉で伝えるのは難しいですが、オレの居た世界ではですね、科学と言うものが発展してまして、その技術は・・・・・・うぐぅ」


 その瞬間、梗汰の頭には強烈な痛みが走った。

 あぐぐぐぐぐ、しまった、この世界の枷か、すっかり忘れてた。




――――――― 世界の記憶 【世界の枷】―――――――

それはこの世界から与えられる縛り。

前の世界の技術を持ち込むなどをして、

この世界での急激な成長=歪みを発生させないための世界からの処置。

世界の枷は、前の世界での極端に発展した技術などを、

この世界で広めようとしたときに強烈な頭痛などとして発現する。

それは紙などに書いて残そうとしても発現する。

技術の塊を譲渡又は手放す行為もこれにあたる。

頭痛を無視して行為を行うと、その生命が絶たれることになる。

―――――――――――――――――――――



 梗汰は前の世界の科学について言おうとしたが、強烈な痛みによって中断された。


「あー、無理だ、元の世界の技術をこの世界に伝えることはできない、精々、景観やどんな人がいるか、その世界での暮らし程度しか言う事はできないみたいだ」


 そう言うとアメリアはがっかりし、という顔でため息をついた。


「はぁ、新しい技術を独占しようとしたが、虫のいい話だったか。まぁ色々な面白い話が聞けるだけマシか、そういえばまだ聞いてなかったな」

「え?」

「どうかこの国に置いてください、だ。さあ言ってみろ」


 く、くくくくく悔しいいいいいい、こいつ、分かっててやってるな・・・・・・。

 そういうアメリアは嫌らしい笑みを浮かべていた。


「ど、どうかこの国にっ、置いてっ、くださいませ!」

「くっくっく、よく出来ました」


 何たる屈辱・・・権力を盾に言わせるとは、汚いさすが王様汚い

 しかし、憎めない・・・・・・。


「あっはっは、どうとでも思うがいい、さあ、ではさっそく、他の事を聞かせてもらうぞ?」


 そう言うアメリアの目は本当に子供のようだった。

 それからしばらくの間、梗汰は元の世界での生活などについて質問され続けた。

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