11
ニーナは壊れて使い物にならなくなった物と、大きすぎて徒歩だと運べないものを、バキバキに砕いたりして処理した。
理由を聞くと
「自分の売り物だったものを誰かに利用されるなんて嫌だろう?」
だそうだ、まぁなんとなくその気持は分かる。
ここから王都まではまだしばらく掛かるらしい、魔狼の件で時間を浪費してしまったので到着は夜になるそうだ。
「日が暮れる前に着く予定だったんですけどねぇ、まぁ仕方ないですかね」
「そうか、あ、そだ、サイラは馬なくても平気か?王都まで歩ける?」
「コータさん・・・・・・コータさんが私をどう見ているかよ~~く分かりました。私はあの森で一人暮らしをしているんです!これくらいヘッチャラですよ!」
サイラは頬を膨らませて怒ったように言う。
「あぁそうだったな、ゴメンゴメン」
そういいながら頭をポンポンと軽く叩く。
サイラはますます頬を膨らませた。
「だからも~、子供扱いはダメです、ダメ!絶対!」
「分かった分かった」
「ほんとですか~?」
「もう完璧!」
「なら許してあげます」
そのやり取りを見ていたニーナから声がかかった。
「コータ達は、本当に仲がいいな」
「まぁね、オレは一応妹みたいなもんだと思ってるが」
「大事なお客様です」
「ぷぷっ・・・そうかい」
おい、笑うんじゃねぇ!とニーナにツッコミを入れるがサッっとかわされてしまう。
「兄妹にしては顔立ちも髪の色も違うしね、恋人にも見えないし、ちょっと興味がわいてね」
「色々あるんだよ、ほっとけ」
「まぁまぁ、どうせ王都まで一緒に行くんだ、楽しくやろうじゃないか」
「そういうノリは嫌いじゃない、いいだろう、ここは親睦を深めるために質問タイムといこうか」
「お、いいねぇ、交互に質問していこうか」
「了解した」
「あー私もそれやります!」
「ではさっそく、こっちから質問といかせてもらおう」
★
そんなこんなでしばらくの間、質問合戦が続いた、お互いの趣味や好物など、くだらないことを質問しあっていた。
梗汰は自分の知識から無難な解答をしていった。
梗汰が自分の好物を聞かれたときには
「あぁ、オレが好きなのはカルラの実だ」
てきとうに知識の中から探して答えた。
食べたことねーし、味も知らないけどな。
まぁ昔から色々な所で栽培されているみたいだし平気だろう。
「っえ、コータはアレが平気なのか、私にはとても無理だ」
「えっ」
もしかして、なんかダメな奴だった?
軽く焦りだす梗汰。
と、そこでサイラが耳打ちをしてきた。
(コータさん、カルラの実はとても刺激の強い植物の実で、主に殺虫液として使われているんですよ。調理の仕方では美味しくなるらしく、中には好んで食べる人もいるらしいですが)
おい、殺虫剤が好物ってどんな変態野郎だよオレは!
この偏った知識を補完せねば、いつかもの凄い墓穴を掘りそうで怖いぞ。
王都へ行ったら図書館を探すことを心に決めた梗汰だった。
「ま・・・・・・まぁ、いつも食べるって意味の好きってことではなく!上手く調理してあるモノを偶に食べるのが好きだってことなんだ、あはは・・・」
必死だ、必死すぎるぞ・・・オレ。
「なんだ、そうだったのか、私はてっきりあの強烈な味が好きな、味覚障害者なのかと思ったよ」
「そんなやつ居ないでしょ」
「あっはっは、言われてみればそうだな」
「では次は私からの質問です!コータさんに!」
「オレかよ!」
「コータさんは今やりたいこととかないんですか?」
やりたいこと・・・・・・ねぇ、まだ知ってるだけで何も分かってないからなぁ、なにも思いつかん。
ん。まてよ、それを目標にすればいいか。
「そうだな、この世界のことをもっと色々分かりたいから、いつか世界一周旅行でもして世界を見てまわりたいな」
「そうなんですかー、じゃあそのときは一緒に付いて行ってあげますね」
「はは、そいつは嬉しいね」
「ふふっ、ほんとに仲がいいな、コータは、だがコータのその志は凄いと思うぞ、私は商売柄色々な人と会ってきたが、そんなことを言う奴は滅多に居ない。もし世界を回ったら本でも書いてみたらどうだ?案外面白いかもしれないぞ」
「オレには文才は無いんだがなぁ、まぁそれも面白そうだし、その時の気分次第ってやつだな」
「そうか、では次の質問は私からだ、連続で悪いなコータ」
「はいはい、全然構いませんよーっと」
「コータは武器は持たないのか?」
「武器?なんで?」
「旅に出るのにナイフ一本持たないのは危ないだろ?」
そこですかさず梗汰が声をかける。
「サイラっ」
「はいっ」
サイラは梗汰が背負っていたサイラの荷物から調理用の果物ナイフを取り出した。
刃渡りは10cm程だろうか。
とても息の合った行動だ。梗汰はサイラに向かって軽く頷く。
よくやったサイラ!
サイラからも返事のような頷きが返ってきた。
ばっちりでしたね!
ニーナを前にして頷きあう二人だった。
ほんっとにこいつ等は・・・・・・という声が漏れてきそうな表情のニーナである。
「・・・・・・そういうことじゃなくてだな」
「これじゃダメなのか?」
「ちがああああう、自分達の身を守る為の武器が必要なんじゃないのかと言いたいんだ私は!というかツッコミ待ちだろ?そうなんだろ!」
「あはは、ごめん、武器とかはオレは持ってないよ、サイラは分からないけど」
「私はちゃんと持ってきていますよー、ナイフ一本ですけど、弓もあるんですけど、そっちは嵩張るので置いてきちゃいました」
そういってサイラは腰に挿してある小ぶりのナイフをアピールするように叩いた。
「あんた等は・・・・・・唯一の武器持ちが妹扱いの女の子て、コータあんた何を考えているんだ!それに弓を嵩張るから置いて行くって、どんな安全が約束された旅だよ!そこは少し嵩張ろうとも頑張って持っていこうよ!」
はぁーはぁー、一息でツッコミを入れたニーナは、力説しすぎたのか、なんか荒い息をついていた。
おぉ、良いツッコミだ。
梗汰は思わず拍手しそうなった。
まぁ絶対文句言われるからしないけどね。
「まぁまぁ、アズールが居たから平気だと思ってたんだよ」
「む、確かにそれは正論ではあるが」
「さっきのような状況もあるかもしれないし、盗賊とか夜盗なんかも出るかもしれないだろ?そういうときのための護身用にだよ」
「そう言われてもねぇ、オレ武器とか持ってないし持ったことも無いよ?」
「夜はコータさんが壁を造って安全確保できますしねー」
「対人戦なら私を当てにしてくれていいですよ」
アズールがそう言う。
梗汰の、「アズールが居るから平気だと”思っていた”」と言う言葉に何かを思うところがあったのかもしれない。
「まぁそういう訳だ」
「うぐ・・・・・・だ、だが聞きたいことは分かった、ここからが商人としての私の出番だな」
「ん?」
「私は武器を持っている、買わないか?」
「持っている。って、どこによ?」
「ふふふ、これだ!」
そう言って、ニーナは自分を覆っていたローブを盛大に捲り上げた。
「あぁ、オレそういう女の武器とかそういうのはいいんで・・・・・・」
梗汰は顔を背けながらきっぱりと言う。
「ちがあああああああう、こっちを見ろ!これだ、これ!こっちのコレを見てくれ、頼むから・・・・・・」
「冗談だよ」
ニーナは軽く涙目になっていた。
それを見ながら梗汰は、ニーナをからかうのはサイラの相手をするのと同じくらい面白いな、などと本人を前にしてかなり失礼なことを考えていた。
「んで、そのアクセサリーがどうかしたのか?」
ニーナのローブの内側を見ると、色々なアクセサリーの類が紐でつながれて垂れ下がっていた。インナーのようなベストにもポケットが沢山ついていて、何かが入っているのを主張するかの様に膨らんでいた。
あれは・・・・・・絶対に胸の膨らみじゃないな。って何を考えているんだオレは。
再びローブ内を見てみる、なるほど、ゆったりとした大き目のローブを被っていたのは、服の内側のコレを隠すためでもあったのか。
しかし、これが・・・・・・・武器?アクセサリーじゃなくて??
それが何か分からない、とような梗汰の顔を眺め、ニーナは嬉しそうな顔をしながら言った。
「これはな、こう使うんだ」
ポケットの中の一つから宝石のような物が付いた銀色のイヤリングを一つ取り出し言った。
「変われ」
次の瞬間、ニーナの手に在ったイヤリングは一本の剣になっていた。
その剣を重そうに両手で持つと、ニーナはそれを地面に突き刺した。
「どうだ?面白いだろう」
「ふむ、それは・・・変成器ですか、ですが私の知っているのとは少し違いますね」
「おぉーよく分かったね、その通り!だけど、今はそうは呼ばないんだ、私達はこいつを変成器と呼んでいる。今までのはもっとでかくて携帯するには不便だったし、武器になるまでの時間も長くて色々使い勝手が悪かったからね、しかも職人気質みたいな剣士とかは使わない人も居る、そのせいもあってあまり広まっていなかった」
へんせいき、トランサー、と言う言葉には梗汰の知識に思い当たるものがあった。
――――――― 世界の記憶 【変成器】 ―――――――
へんせいきとも言う。
特殊な鉱石と魔術により作成された物質、
それは一つの固有空間を発生させることが出来る。
それを器となんらかの物体に取り付けることで、
器を媒介として固有空間に対となる物体をとりつけた武器などを保管することができる。
固有空間に存在する物体は、現実に存在する器と入れ替えることができ、
その原理を用いて作られた武器などを変成器と呼ぶ。
変成器は持ち主が変成の言葉を、物体と器の置換言語として設定することができ、
その言葉を呼び出す意思を込めて言うことで、物体と器を置換することができる。
―――――――――――――――――――――――――――――――
ニーナが持っている変成器は、どれも身に付けやすいアクセサリーだった。
「ふっふっふ、聞いて驚け!ここにあるのはウチの知り合いの錬金術師と鍛冶屋が協力して完成させたばかりの物なんだ。他に発明した人がいなければ、今これを持っているのは世界で私の商会だけだ」
いいだろ~とか言いながら地面に刺した剣を見せびらかすように動かす。
「なるほど、ここまで小型化、それに発生までの時間短縮ができるとは・・・・・・素晴らしいですね」
「そうだろう!」
「私の所属する国に売ってみませんか?」
これは他国に渡すには惜しい、是非私の国で独占したいものですね。
「ふむ、悪くない、これはまだ売り手も決まっていなくてな、この商品を一気に広めるためにこの国の王都で売ろうと思っていたのだ」
「丁度いいですね、では王都に着いたら会ってもらいたい人がいます、そこで」
「いいだろう、ただし、大量に仕入れるつもりなら覚悟をしたほうがいい、言っておくがとても高い、大量生産できない一点ものだからな」
「分かりました、そう伝えておきましょう」
「結構」
すっかり商人の話し方になってるなニーナ、最初からこれが目的だったのか・・・・・・?
ぐ、偶然だよな。でも、売り込むことには成功したようだな。
「でも、ニーナ、さっきオレに買わないか?とか言ったけど、オレは金なんて持ってないぜ?」
「んなっ、ならどうやって王都で過すつもりだったんだ」
「そこら辺は、アズールさんになんとかしてもらおうと」
「まぁ、連れて行く側なのでそうなりますね、経費で落としますし」
「そ、そうか」
「つーわけで、その変成器とか言うのは買えない」
そこでニーナは一瞬考え込むように顎に手を当てる。
「うーむ、なら、変成器を一つ上げよう」
「っえ、まじで!?」
「うむ、しかし、無料じゃないぞ、簡単に言うとお前の未来に投資するんだ」
「どういうこと?」
「つまりだな、簡単に言うとコータは精霊術師として有名になりそうなので、ウチの商品を沢山使って色々と宣伝して欲しい、使わなくても宣伝はして欲しい、そう言う訳だ」
「なーるほど、って、宣伝ばっかだな。それにオレにそこまで期待をかけられても困るぞ、今のところ有名になる気なんてこれっぽっちもないしね」
「まー気にするな、そうなったらそうなったで私の目が曇っていたと言うことだ、それにさっき面白いものを見せてもらったし一応助けてもらったからな」
「コータ君は運が良いですね、こちらはお金を払って仕入れるというのに」
「そっか、助けてもらったのはこっちもだけど、うん、そういうことなら遠慮なく貰うよ」
「うむ、さて、武器の種類は何がいいか、コレなんかはどうだ?」
そう言ってニーナは”変われ”と言い、剣をイヤリングにしてポケットに突っ込み、次に銀色っぽい腕輪を取り出した。
「変われ」
腕輪は漆黒の刀になった。
ニーナがそれを振るとブォンという風きり音と共に
梗汰の顔に向かって飛んできた。
「うおっ、あぶねええええええ」
梗汰はそれをギリギリでかわした。
「おまっ、おまっ一体なにするんだ!」
「す、すまん、手からすっぽ抜けてしまったのだ」
ニーナはすまなそうに頭を下げながら謝った。
それからすぐに飛んでいった刀を拾う。
ニーナは元の位置まで戻ってくると、コホンと咳をし、言う。
「で、コレはどうだ?普通の剣じゃつまらないと言った錬金術師と武器を作成した鍛冶屋によって作られた刀だ」
今のはニーナの中でなかった事になったようだ。
どうやら武器の扱いに優れているわけではないようだ。
「いやー、オレは剣とか刀なんて使えないんだよね、刀なんて型とか持ち方とか色々あるし、オレなんて初心者が持ってもさっきのニーナみたいになるか、すぐに折れちゃうかのどちらかだよ」
そう言いながら、高校の授業で剣道をしてたときのことを思い返す。
「さっきのことは言うな!ふむ、確かに刀剣類は扱う者の技術が重要な武器ではあるな、まぁこれは武器全般にも言えることだがね」
「まぁそうなんだけどね」
「ならどういう物がいいんだ?」
「そうだな、振り回すだけで相手を倒せるような物ってないかな、それだと楽だし」
「・・・・・・」
ニーナはとてもがっかりしたような表情をしながら緩慢な動きでポケットの中を探る。
自慢の商品を全否定しちゃったかな・・・・・・他の武器の説明も聞いてあげればよかったかも。
「これならどうだ」
そういって取り出されたのはシンプルな銀色の指輪だった。
「変われ」
現れたのはニーナの身長を遥かに上回る巨大な槍、だがそれは通常の槍とは違い、穂先の刃とは別に斧頭が、そして反対側に突起が付いている。”ハルバード”と呼ばれる武器だ。
その無駄に意匠の凝らされ洗練された形状は、美術品と言われても納得してしまうだろう。
ドンッ、斧槍は横に倒れた。
「「・・・・・・」」
「重かったん「それ以上は言わないでくれ」・・・分かった」
「っふん、お前にそれが持てるのか?」
偉そうに言うニーナ。
それほど持てなかったことを悔しがっているのか。
梗汰は柄の部分を手に持ち、
むんっ
持ち上げた。
「・・・・・・」
あっ、空気読んで一回目は落としたほうがよかったかな?
ニーナが無言でこちらを見ている。
ニーナには悪いが、思ったほどの重さを感じなかった。
思ったより軽いのな、これなら振り回せそうだ。
その斧槍の全長は約2・5m、重量は6kgを越える。
本来の物は重くても4kg前後だが、これは作成者側が個人の趣味に力を入れすぎて、武器の素材や刃、柄の部分の棒にもこだわりここまでの重量になってしまったのだ。
しかし、渡り人として通常の人より強い体を持つ梗汰には、それほど重くは感じなかった。
通常、実戦でこれだけ重量のある武器はそれだけで致命的と言えよう。
「・・・・・・やる」
「ん?」
「それは、お前にやると言ったんだ!」
「まぁまぁ、そんなにプリプリ怒ると可愛くないぞ」
「うるさいっ、どうせ私は可愛くない!」
「うーん、いや結構美人な方だと思うぜ?」
「っえ」
「なぁ、アズール?」
「え、あぁ、はい確かにニーナさんの顔の造形は優れていると思います」
とっさに話を振られたアズールは困惑しながらも答えた。
「そ、そうか」
ニーナもどことなく嬉しそうだ。
頬を微かに赤く染めながらそっぽを向いた。
少し恥ずかしがっているようだ。
ふぅ、危機は回避されたか。
よし、今の勢いに乗って言ってしまおう。
「なぁ、ついでにサイラにもなんかくれよ」
「い、いいぞ」
「ちゃんと聞いたぞ」
「っえ、あっ!」
サイラは指輪から変成できる丈夫なフライパンを貰いました。
ハルバード
斧槍、鉾槍などと呼ばれる。
長さは2.0メートルの物から3.5メートル程の物まであり、
重さも種類により2.5キログラムから3.5キログラムまである。
槍の穂先に斧頭、反対側に突起が付いている。