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大地の系譜  作者: Melon
12/45

10

 梗汰が鉄の塔を建て三十分が経過した。

 魔狼は今尚梗汰たちの足元に居座り続けている。

 馬は既に一部を残し元の姿を確認できる部位が無くなっている程、盛大に食い荒らされていた。


 そんな凄惨な光景を残す地上とは裏腹に、鉄の塔の上では世間話に花が咲いていた。


「へー、ニーナさんは商人の家の人なんですかー」

「そうそう」

「とんだ災難でしたね」


 ローブ姿の御者の名前はニーナ。

 彼女は旅の商人で王都へ行く途中だったようだ。

 ニーナは現在17歳で、その外見は身長155cm前後、濃い赤の髪色のショートヘアー、力強いその黒い瞳は見るものに勝気な印象を与える。快活な性格の持ち主だ。


「全くだよ、王都に荷物を運んでいる途中だったんだけどねー、見ての通り馬車はアイツにめちゃめちゃにされちゃった、全くとんだ災難だよ」

「でもその割には、あまり困った感じじゃないですね」

「まぁね、一番大切なものは常に身に着けてるからね!それに、面白いものも見れたしね」


 そういってこっちを向くニーナ。

 オレすか?と自分を指差す。

 そうそう、とニーナは頷く。


「精霊術師は珍しい」

「そうなんですか?」

「うん、ただ、君の場合は二つの意味でね、精霊術師は血によって遺伝する能力だからね、仕事以外で見られることは滅多にないんだ」


 だからこそ、精霊術師の家系はどれも有名なんだけどね、と付け加えた。


「もう一つの意味ってのは?」

「それなんだよ、さっきも言ったけど精霊術は遺伝により伝わる、それ以外の方法はありえないはずなんだ。だからそういう意味で、私が私の知らない精霊術師に会うのが珍しい。私は商人の家に生まれたから、色々な人に触れる機会があってね、だから色々な情報に明るいんだよ。名だたる精霊術師の家系は全て知っているはずなんだ・・・・・・・・・・。」


 なんか分からんがオレって怪しまれてるぽい?


「じゃあ、その情報に穴があったってことですね」

「うぐ、それを言われると立つ瀬がないな」


 あはは、と苦笑いを浮かべ頬を掻くニーナ。


「もしくは、有名じゃない家系かもしれませんしね」


 と、アズールが言う。

 ははは、と今度は梗汰が乾いた笑い声をだす。

(オレがコネクターってのは、言わないほうがいいかな・・・・・・)


「自分の家が有名だなんてことは聞いたことないですし、多分そうなんだと思います」

「なるほどねー、道理で中途半端な力の使い方な訳だ」

「う・・・・・・まぁ自分が未熟だってのはオレが一番分かってますよ」

「うんうん、それは良いことだ。後でちゃんとした力の使い方を教えてもらうといいよ」

「だけど面と向かって言われると腹立つ!」


 あはは、と今度はサイラも一緒になって笑う。


「さて」


 話題を変えるように、立ち上がりながらアズールが言う。


「魔狼の方はどうなっていますかね」


 その言葉に釣られるようにみんなして下を眺める。

 頭をかなり突き出しているサイラが見ててなんか危ない。


「おい、危ないからあんまり頭出すなよ」

「わ、分かっています!」


 子ども扱いはしないでくださいよ、と小さな声で言うのが聞こえた。

 サイラはかわいいなー、と思わず頭を撫でてしまう。

 それに対して更にサイラが可愛らしく文句を言う。

 見ていてとても和む光景だ。

 ニーナはそれを見てニヤニヤしていた。


「はいはい、皆さん。どうやら魔狼はしばらくここを離れるつもりはなさそうですよ」

「「「えっ?」」」


 見てみると、魔狼は動きを止めた馬車の隣で座っていた。

 ただ、さっきと違うのは、馬を食べているのでもなく、休んでいるのでもなく、白く濁った目で、ジッとこちらを見ているということだった。

 塔の上のオレたちに興味を持っているのか?

 

「おい、コータ」

「ん?」

「この場所からアイツを倒すか追っ払えたりしないか?」

「ここから!?」

「そうだ、精霊術師ならやれるだろ」

「どんな理屈だよ・・・・・・」

「まぁダメでもいいからやってみてくれ」

「うーん、ならまぁやってみるか」


 依然魔狼は座ったままこちらを見上げている。

 梗汰は狼を視界に納めるように顔をだしながら胡坐あぐらをかく。

 とは言ったものの・・・どうしようか。

 しかし、相手が動かないのは好都合。

 とりあえず針でも生やすか。

 地面と接している場所ならどこでも使えるのが地の精霊術、ならば、今この時点でも、鉄の塔を介して地面に触っていると言えよう。

 梗汰は手を前に突き出すようにして両手を合わせる。梗汰の呼びかけに答えた地の精霊を感じる。

 梗汰は魔狼を貫く意志を地に込め、

 「オラァッ!」

 解き放つ!

 その瞬間、魔狼が何かを察知したようにその場から飛びのいた。

 ドガァッ

 魔狼がさっきまで座っていた位置に円錐状の石の針が飛び出る。

 魔源マナの動きでも察知しているのか?

 精霊が術者の意思に従い事象を発生させるとき、その影響で魔源が僅かに動く、それを察知して避けているのかもしれない。

 だが、一発で当たらないなら数を増やすまでだ!

 ドガガガガガガッ

 しかし、魔狼はまるでが飛び出てくる場所が分かるっているかのように、次々に飛び出す針を発生前に避けている。度重なる針の発生によって塔の下は針山のようになっていた。

 グルルル・・・・・・

 威嚇する魔狼の声がここまで届くように感じる。

 ウォオオオオオオオオオオオン


「きゃっ」


 魔狼は今明確な敵意を込めて吼えた。

 サイラはビクッと体を震わせた。

 梗汰自身も、ビックリして塔から落ちそうになってしまった。

 おおおおお落ちるかと思った。

 心臓がバクバクと音を立てているのが分かる。

 こ、こええええええええ、怒らせちゃったか・・・・・・?


「アズールさん、どうしよう・・・・・・怒らせちゃった」

「・・・・・・ここで私に振らないでくださいよ」

「アズールさんは騎士なんでしょ?あれくらい倒してよ!」

「無茶を言わないでください、あれ程の個体となると、やや腕の立つ騎士でも最低で五人は必要ですよ、それに、私の仕事は人相手が主なんです」

「そか・・・・・・」

「いや、このままだと倒せるまでいけそうだ」


 ニーナの声に皆の視線が集まる。


「何か良いアイデアでも?」

「ほんとか!」

「まぁ落ち着け」

「コータ」

「ん?」

「コータは相手を攻撃するとき、どこを狙いっている?」

「そりゃ、相手の居る場所だけど」

「ふむ、コータは精霊術を都合の良い道具かなんかだと思っているんじゃないか?」

「え?」

「例えば、人と殴り合いをしているとして、コータはただ相手を狙って殴るだけなのか?」

「あー」


 言われてみれば、梗汰の今までの攻撃は全て相手の現在居る位置に限られていた。


「そうだ、相手にこっちの攻撃を当てるながら追いには、相手の動きを先読みしたり、攻撃にフェイントや罠を仕込む必要がある。それらを頭に入れ、徐々に相手を詰めるように戦えば攻撃はちゃんと当たるはずだ。それに、精霊術は道具じゃない、自分の意思を込めた事象の発生は、簡単に言うと自分の意思と直結してるとも言える。意思を直接、事象として発生さえる精霊術は手足を動かすより素早く正確にコータに応えてくれるはずだ。幸いこっちは安全が確保されているしな、色々試してみるんだ」

「なるほど・・・・・・ありがとな」

「気にするな、こっちは助けてもらっている身だ、私の知識程度ならいくらでも貸そう、だが、後でちゃんとした人に教えてもらいなよ、言っておくが私の知識は全部受け売りだからね」


 それでもニーナ、お前は今最高にかっこいいよ。

 梗汰の頭にこの状況を打開するためのアイデアが浮んだ。

 梗汰はそれを実行するために静かに目を閉じた。


「よーし、ちょっと集中する」


 感じる、自分の呼びかけに集まってくれた精霊を、これはオレ自身の意思に応えてくれる。オレの意思そのもの、なら!地を介するものならオレが考えたことをその通りに再現することが出来る、はず!

 いつの間にか梗汰の元へ集う地の精霊の数は、先ほどとは比べられないものになっていた。 

 この膨大な数の精霊をオレの意思の元に制御・・・・・・一つの事象に統一する!

 梗汰は目を開け魔狼へ目を向け、精霊の力を放つ。

 

 「はぁっ!」


 ドンッという音と共に魔狼の周囲半径3mのあたりから魔狼を囲む円状の壁が出現した。

 それは、瞬く間に魔狼を多い尽くすドームとなった。

 その発生速度は今までの比ではない、発生するまでの過程が視認することができなかった。

 魔狼が慌てて壁に飛びつく、が既に手遅れ、魔狼は既に闇の中。

 その壁の材質は土ではなかった、それは鉄、魔狼を閉じ込める絶対の意思を込めた鉄の檻がそこに完成した。

 さて、可哀想だが、とどめだ!

 それは絶対に避けることの出来ない”死”。

 はぁっ!梗汰は再び精霊に指令を下す。

 ドンッガガガガガッバキッぐちゅぐちゃびちゃ・・・・・・

 ドームの中で何かが激しくぶつかる音が響いたが、それは厚い鉄の壁と10mという高さに阻まれ、梗汰達の元まで届くことはなかった。微かな振動音が聞こえるのみである。


「ふぅ、なんとかなったかな?」


 梗汰は鉄の檻を解く。

 するとそこには、全身に穴が空いた魔狼だった物の残骸が在った。中には千切れて体から離れた場所に落ちている部位もある。

 円形のドームへ閉じ込めての全方位からの攻撃、さすがに魔狼も避けることが出来なかったようだ。

 梗汰は自分以外がそれを見ないよう、お墓の意味も込めて地面に埋めることにした。

 魔狼だった物体は地面にめり込むようにして大地に刻まれた針と共にへ消えてゆく。

 先ほどまで魔狼が居た場所には、既に魔狼がいたという痕跡は存在していなかった。全てを大地が取り込んだのだ。

(これは、確かに便利な道具じゃないな・・・・・・)

 これは兵器だ、一個人が持つには余りに大きな力だと梗汰は思う。

 まだ精霊術の本質というモノに気付いたばかりの梗汰には自分の力がどこまでいくのか想像できなかった。

(ちゃんとしないとな、この世界ではこの程度は当たり前だとしても、さすがに怖いな・・・・・・)


「大丈夫ですよ、コータさん」


 不意に背中から抱きつかれた。

 梗汰は、またか、と思いながらも、自分の意識が現実に引き戻されるのを感じた。

 自分の心の闇が晴れていくようだ。さっきまでの暗い思考が、もうどこかへいってしまった。


「あぁ、悪いなサイラ、オレはもう大丈夫だ」


 ありがとな、とサイラの方を向き頭をなでる。

 サイラは嬉しそうに目を細めた。

 それにしても、サイラはいつもオレがやばそうなときにオレを助けてくれるな。

 世話になりっぱなしとは、大人としてちょっと情けないかな。

 そう思うと、急に羞恥心がこみ上げてくる。


「も、もう大丈夫だよサイラ。手を離してもらっていいかな」


 サイラは困ったように笑う梗汰と目を合わせ、一瞬ニコッと微笑むとそこでやっと手を離した。

 い、今のは破壊力があったな・・・・・・いや妹としてだけど!

 サイラのそれは見るもの和ませる笑みだった。

 するとタイミングを見計らっていたかのようにニーナが寄ってきた。

 空気を読んで声をかけてこなかったようだ。

 ナイスだニーナ、あそこで何か言われてたら、オレはダメージを受けていたかもしれん。


「正直、さっきまでのコータは見ていられなかったぞ、まるでどこかに行ってしまうように感じたよ、サイラはもしかしたらそれを感じ取ったのかもね」


 自分はそんな姿を晒していたのか。

 梗汰は若干の恥ずかしさと共に、自分の心の弱さを実感した。


「だが、本当に魔狼を倒してしまうとはな、有名な家系じゃないと言っていたが、コータは才能があるのかもしれないな」


(まぁコネクターは本来あれくらい軽くやってしまえるのかもしれない、やっぱオレが未熟なだけだよなぁ)


「あはは、そうだと嬉しいけどね」


 梗汰はてきとうに笑って誤魔化した。


「じゃあ、さっそく私達を地面を下ろしてくれ」

「あーそうだったな、了解した」


 地面から生えていた鉄の塔は地面に吸い込まれるように、ゆっくりと大地へ還っていった。

いつもみたいに意識が遠くなるのを感じない。

 うし違和感なし!

 正直、毎回気絶とかかっこ悪いし、異常がなくてよかった。


「さーて、この壊れた馬車どうするかな」

「品物だけ取り出して歩いたらどうです?」

「・・・・・・それが出来たら馬車なんて使わないんだけどね」

「そうれもそうだな」

「では、持てるだけ持って歩いて行くことにするか、もちろんコータも持ってくれるよね?」

「え゛」

「コータはこんなか弱いレディだけに荷物を持たせようと言うのか」


 ニコッ

 ・・・・・・なんて凶悪な笑みなんだ。


「そ、そーですね、ニーナさんはか弱いレディでしたね・・・・・・」

「そうだ、分かればいい」


 そうして偉そうに胸をそらすと梗汰にだけ聞こえるように”ありがとな”と小さく言い、馬車に荷物を取りに行った。


 そんな微笑ましい光景だったが、梗汰が魔狼を撃退した後から、アズールだけが梗汰のことを冷静な目でジッと見ていた。

(これは、私が思っていたより大事おおごとなのかもしれませんね・・・・・・)

 アズールは梗汰達と一緒にニーナの荷造りを手伝いながらも、今後のことについて考えていた。

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