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「・・・・・・ん、おでこ痛い」
辺りはまだ薄暗い。
目覚めた梗汰は、おでこに手を当てようとして、自分の左腕が動かないことに気付く。
横になったまま左を向くと、毛布の塊が梗汰の左腕を枕にして眠っていた。
「なんだ・・・・・・って、なにしてんすか、サイラさん」
梗汰は自由に動く右手で毛布に包まれた顔を確認する。
それは頭から毛布を被って寝ていたサイラだった。サイラは半ば梗汰の毛布に潜りこむようにして寝ていた。
サイラを起こさないように起き上がろうにも、サイラの手は梗汰の服を握っていて離れそうにもない。
ふぅ、起こさないでってのは無理そうだな。
サイラを揺する。
「起きろー、多分朝だぞー」
「う・・・・・・ん」
全く起きそうにない。
「手ぇ離すぞー」
仕方なく、空いている手で服を掴んでいるサイラの手を解こうとすると。
「ん・・・・・・一人にしないで・・・・・・」
と呟いたかとおもうと、ギュッと服を掴んでいた手で梗汰の手を握った。
それはずるいだろ・・・・・・そんなん言われたら動くに動けない。
今までは誰かと一緒に寝るなんてことはしてこなかったのだろう。その小さな手には確かな力強さを感じた。
(こういうの見るとほんとに子供みたいだなぁ)
正直妹に頼られている感じで嬉しいが。
「さて、どうするか」
既に目は覚めてしまった。
一度起きてしまうと枕にされている腕がどんどん辛く感じるが・・・・・・。
「もう少しだけこうしておくか」
「優しいんですね、コータ君は」
横手から急に声がかかってきた、アズールだ。
「アズールさん起きてたのか」
「はい、最初から見ていましたよ」
「うげ・・・・・・」
さっきまでの葛藤をずっと見られていたかと思うと、なかなかに恥ずかしい。
「私のことは気にしないでください。あ、そうでした、起きてからでいいのでこの壁片付けてくださいね」
言われて周りを見ると、昨日の夜に梗汰が造り出した壁が聳え立っている。
空はすっかり青い、だが梗汰達の居る場所だけ薄暗かった。壁が太陽の光を遮っているようだ。
「もうお昼近いですよ」
「っえ」
「起こし辛かったのでどちらかが起きるまで待っていました」
「そっすか・・・」
まだ薄暗いから朝だと思っていたら、もうお昼近かったのか
「私は朝食を作るので、壁は任せましたよ」
「え、どうやって?」
「どうやってって、コータ君、貴方は精霊術師でしょう。精霊術をうまく使ってなんとかしてくださいよ。私は精霊術のことは分かりませんので」
「・・・・・・そうですよね」
要するに、自分でやったことだから自分で戻せと、そういう訳ですね。
梗汰は今までものを発生させるだけで、自分で出したものを元に戻したことはやったことがなかった。
うーむ、どうしたものか。
「まぁ、とりあえず、サイラを起こすところからか」
再びサイラを見る。
幸せそうに寝ているサイラは起こし辛いが・・・・・・。
ごめんね、そう呟き、サイラに握られていた手をなんとか解いて、頭に被っている毛布を取った。
茶色の髪が顔に散らばり、サイラはうっとおしげに鬱陶しげに眉を細めた。
「サイラー、起きろー、朝だぞー」
右手で肩を揺すりながら声を掛け続ける。
おいっ、眠り深すぎるだろ。昨日はオレより早起きだったのに。
肩を揺らす力もだんだん強くなる。
「おーい、いい加減におきろー」
頬をパチパチと手で叩く。
「んむ・・・・・・もうあさですか・・・・・・?」
「朝どころかもうお昼近いみたいだよ」
「そうですか・・・・・・おやすみなさい・・・・・・」
「おやすみ。って、ちげええええええええええ。起きろおおおおおおおお!」
「ふひゃぁ・・・・・・何するんですかコータさん・・・・・・うるさいじゃないですかっ」
梗汰の声に驚いたのか、サイラはバサッと体を起こして辺りを確認して言う。
「辺りもまだ薄暗いし、こんな早く起こさないで下さいよう、まったくもう!」
「今すぐ自分の体を確認して、そこからどいてくれ、それにもうお昼だ」
「体を確認って、コータさんまさか私になにか・・・・・・」
「してねーよ!そういうことじゃねーよ!オレの服から手を離してくれ!」
サイラは言われたとおり自分の体を確認する。
サイラは梗汰の服をガッチリ掴んでいた右手を発見、そして自分は今梗汰の左側に抱きつくようにして寝ていたことに気付く。
「あわわわわ、すみません、今手を離しますね・・・・・・コータさんの中、あったかかったです」
手を離しながらとんでもないことを言う。
「っておいっ、なんだその意味深な言い方は!」
「え?コータさんの毛布はあったかかったです。と」
「もういいです・・・・・・」
★
梗汰は現在壁の前に座っている。
さて、この壁をどうにかしますかね。
えーと、元の地形を思い浮かべて、と
「って、覚えてねえええええええ」
「コータさんうるさいです」
「出来るだけ早くしてくださいね」
二人は現在遅めの朝食中である。
「オレにも食わせてくれよ」
「壁、早くしてくださいね」
「・・・・・・はい」
くっそー、お腹減った・・・・・・。
えーと、地面に手を当てて集中っと。
目を閉じ、何も無い平地を思い浮かべる。
(精霊は感じる、あとは制御と自分の思った通りの現象を起こす意思!)
「はぁあ!」
ズズズズズズ
地鳴りのような音と共に少しずつ壁が地面に埋まってゆく。
少しすると、周囲を取り囲む壁は完全に無くなっていたが、壁が生えていた場所は、機械で均したかのように辺りと比べると不自然に平らになっていた。
うげ、石で作った地面みたいになってる。まぁいいか。
それにしても、ふぅ、頭が少しクラクラするな・・・・・・。
「今度は気絶しなかったようですね」
「あ?あぁ、ちょっと頭に違和感がある程度だわ」
「鼻血は出てないみたいですねっ」
「サイラさん!もういい加減に鼻血引きずるのやめようよ!」
そして前回よりもスムーズに力を使えた気がするが、
うーむ、まだまだ発生が遅いなぁ。
もっとこう、一瞬でバッっと出したり消したりしたいんだけどなぁ。
「はいコータさん、ごはんですよ」
「ありがと」
「荷造りはしておいたので、コータ君がそれ食べ終わったら出発しますか」
遅めの朝食は干し肉の入ったスープとパンだ。
んむ、美味い。
旅の二日目が始まる。