スクールカースト最上位のギャルが噓告白をしてきたので付き合ってみた話【短編版】
「はい私の勝ち!」
「げっ……」
「あはは! じゃあ罰ゲームは由美に決定ね!」
放課後の教室でそんな声が聞こえてきた。 クラスの女子達が何か話をしているようだ。
「罰ゲームって何よ?」
「そんなの告白に決まってるじゃん!」
「は、はぁ? そんなの嫌に決まってるじゃん」
「あはは、別に良いじゃん。 何も本当に告白しろなんて言ってないしさ、噓告白でいいよ噓告白で!」
どうやらクラスにいる女子達は罰ゲームで噓告白をさせるらしい。 話し声からして、これは俺のクラスのギャルグループの面々だろうな。
「はぁ、しょうがないなぁ……それで? アタシは誰に嘘告白すればいいのよ?」
「んー、まぁガリ勉オタクの矢内辺りでいいんじゃない?」
「え何それ最悪じゃんww 由美可哀そすぎるーww」
「アイツ絶対に彼女いた事ない童貞だよw 由美に告白されたらめっちゃ挙動不審になってそうww」
そんな感じで今度は嘘告白をする相手の事で盛り上がり始めていった。
「え、ちなみにだけどさ、もしそれでオッケー出されたらアタシはどうすればいいのよ?」
「えー? あはは、そん時は付き合ってあげればいいじゃん!w どうせ噓告白なんだししばらくしたら別れちゃえば?」
「ってかオタク君が由美みたいな美人を振る訳なくない?w あはは、どうせならさぁ、ガリ勉オタク君にたっぷりと夢見させてあげれば? オタク君涙を流して喜ぶんじゃない??w」
「あぁ、いいじゃんそれ! ガリ勉オタク君としばらくの間ラブラブな生活してあげてさぁ、そんでしばらく経ったらネタバラシしてこっぴどく振るとかどうよ??」
「あはは! 何それ最高じゃん!ww オタク君の絶望する顔とか見てみたいわーw」
いや何とも悪魔じみた罰ゲームじゃないか。 これは噓告白に選ばれた男子学生には辛いだろうけど頑張って生きてくれと言ってあげたい。
「ちょっと、アンタらは何もしないからって好き勝手言わないでよ。 ってかそれだとアタシじゃなくて矢内君への罰ゲームになってない? 普通に矢内君が可哀そうじゃない??」
「えー、いいじゃんいいじゃん! ってか由美みたいな子から告白されるってだけでガリ勉オタク君からしたら幸せでしょー」
「はは、そうだよそうだよ! 少しの間だけでも幸せな恋人生活をプレゼントするんだからむしろ有難がるっしょw」
「う、うーん、そうかなぁ? まぁ、アタシはいいけどさ、別に今彼氏いないし」
「お! やった! じゃあ罰ゲームは明日からね! 流れとしては……」
というような会話を偶然にも俺は外の廊下で聞いてしまった。 まぁとりあえず先に言っておくんだけどさ……俺別にオタクじゃないんだけど!?
という事で今更だけど俺の名前は矢内圭吾、高校一年生の男子学生だ。 先ほどの女子達からガリ勉と揶揄されていた通り俺の成績はそれなりに良いのが特徴的で、それ以外は至って普通の男子学生だ。 性格は割と大人しいタイプであり、俺含めて周りの友達もどちらかというと陰キャ寄りの子達ばかりだから、先ほどのギャル達は俺の事を“ガリ勉オタク君”と呼んでいるのだと思う。
そして先ほど罰ゲームで俺に噓告白をする事となった女子の名前は水瀬由美という女子学生だ。 俺と同じクラスメイトの女子生徒で、見た目は明るく染めた金髪ヘアにピアスと指輪、さらに丈の短いスカートが特徴的な可愛いタイプのギャルだった。 もちろんスクールカーストは上位に君臨している陽キャの一人だ。
そしてそんな水瀬さんに俺はどうやら嘘告白をされるらしい。 でも最終的にはこっぴどく振られるらしいのだけど。 い、いや、何だよそれ……
(何だよそれ、めっちゃテンション上がるな!!)
まぁ噓告白な時点で普通の人ならブチギレ案件なんだろうけど、でも彼女いない歴16年の俺としては普通に嬉しかった。 だってどうせこのままだと俺は青春する事もなく卒業する事になっただろうしさ……
それに俺だって彼女を作って一緒にご飯食べたりデートとかしてみたりとかの青春生活を送ってみたいと思ってたからさ……それならこの噓告白には便乗させて貰うしかないよな! しかも水瀬さんってめっちゃ可愛いからね! そんな人と嘘だけど恋人になれるんだったら俺は別に騙されてもいいわ!
(あはは、それじゃあ明日が楽しみだな!)
という事で俺は水瀬さんからの噓告白を楽しみにしながら、彼女達の盗み聞きをしてたのがバレないように俺はさっさと帰宅した。
そして次の日の放課後、予想通り俺は水瀬さんに校舎裏に呼び出された。
「どうしたの水瀬さん?」
「あ、うん、えっと……アタシ、矢内君の事が好きになったんだよね。 だから、良かったら彼氏になってほしいんだけど」
「え!? 本当に!?」
という事で俺は水瀬さんから若干棒読みな感じは否めない告白を受けた。 いやまぁそりゃあ好きでも無い相手に告白するんだからこんなもんだよね。
でも可愛い女子からの告白には変わりないので、俺は本気で喜びながらその告白を受け入れた。
「水瀬さんからそんな事を言われるなんて凄く嬉しいな! いや実は俺も水瀬さんの事が凄く好きだったんだよね」
「え、そうなの?」
嘘である。 この男、別に水瀬さんの事が特別好きという訳ではなく、ただ告白してもらえてるからお世辞としてそう言っただけである。 まぁ思春期男子学生なんて皆そんなもんだよね。 思春期男子なんてバレンタインデーに義理チョコくれるだけでめっちゃ好きになるような人種だもん。
「うん、そうだよ。 もしかして意外だった?」
「え? あ、あぁ、うん、まぁ。 矢内君みたいな男子ってアタシみたいなタイプの子って苦手な気がしたからちょっと意外かも」
「え、そんな事ないよ? だから是非とも水瀬さんの彼氏にしてください!」
「う、うん、まぁそう言って貰えるなら……あ、でも」
「でも?」
「あぁ、うん、あのさ……アタシ、人に彼氏の存在を知られるのって好きじゃないからさ……だから私達が付き合ってるのは誰にも言わないってお願いできる?」
(あぁ、なるほどな)
これは噓告白だから、水瀬さんとしては俺達が付き合ってる事を誰にも言わないで欲しいのだろう。 最終的に水瀬さんが俺を振る事が前提なのだから、もし振る前に俺達が付き合ってる事が周りにバレてしまっては何かと面倒な事になりそうだしな。
「あぁ、うん、もちろん良いよ! じゃあ、改めてよろしくね!」
という事で俺は水瀬さんの提案を受け入れて、晴れて水瀬さんと付き合う事となった。 まぁ嘘のカップルではあるんだけど、それでも振られるその日が来るまでは全力で楽しむぞ!
◇◇◇◇
水瀬さんお付き合いを初めてから一週間以上が経過した。
学校の皆には秘密のお付き合いをしているので、俺達が一緒になれるのは帰宅時のタイミングくらいしか無かった。 それでも水瀬さんは律儀に毎日俺と一緒に帰ってくれていた。 意外と水瀬さんは約束とかはしっかりと守るタイプの子なのかもしれない。
「……でさ、そんな事があったんだよね」
「あはは、そうなんだ」
という事で今日も俺は水瀬さんと一緒に学校から帰宅している所だった。 水瀬さんは俺の話をよく聞いてくれるし、笑いながら相槌も打ってくれるのでとても話しやすい……のだけど、水瀬さんの笑顔は何というか嘘っぽく見えるんだ。
(いやまぁ、そりゃそうだよなぁ)
だって水瀬さんと俺は偽物の恋人だからな。 別に好きでもなんでも無い男の話を聞いても面白くは無いだろうしさ。 まぁでも、それでも水瀬さんの時間を貰って俺は付き合って貰ってる訳だし、少しくらいは水瀬さんにも楽しんで貰いたいと思いながら俺は喋っていた。
(……ん?)
そして水瀬さんと話している時に、ふと水瀬さんが手に持っていたスマホが気になった。 いや、スマホというよりもスマホカバーの方が気になってしまった。 水瀬さんのスマホカバーには何か小さい写真が貼られていた。
「水瀬さんのスマホカバーに貼ってるそれって何なの?」
「ん? あぁ、これ?」
そう言うと水瀬さんは俺の方に自分のスマホを渡してきた。 俺はそのスマホを受け取り、貼られている写真を見てみると……そこには幼い少女が大きな犬をぎゅっと抱きしめてる様子が写っていた。
「これは……ひょっとして子供の頃の水瀬さんなのかな?」
「あ、わかる? うん、そうだよ。 小学生くらいの頃のアタシの写真なんだ」
「へぇ、そうなんだね。 あ、それじゃあこっちの子は水瀬さんの家で飼ってる犬なのかな? 名前は何て言うの?」
「あぁ、うん、毛並みが真っ白だったからさ、“おもち”っていう名前なんだ。 良い名前でしょ?」
「なるほどー、あはは、確かに全身真っ白で美味しそうな名前だね」
「ちょっと、可哀そうだから食べないでよ、あはは。 まぁでもさ、私が小学生の頃におもちは悪い病気にかかっちゃってね……そのまま治らずに亡くなっちゃったんだ」
「え……? あ、そ、そうなんだ……それは、その……何かごめんね」
「ううん、別にいいの。 もうだいぶ昔の話だしね。 それでこの写真はさ、おもちが亡くなる前に一緒に撮った最後の写真なんだ」
「そっか……水瀬さんはおもち君の事が凄く大切だったんだね」
「うん、もちろんだよ。 アタシにとっておもちは本当に大切な家族の一人だったんだ」
そう言うと水瀬さんは懐かしそうな顔をしながらその写真を見つめていた。
「……アタシさ、小学生の頃は動物のお医者さんになりたかったんだ」
すると突然、水瀬さんは昔の話を始めた。 水瀬さんが自分の話をするのは初めてだったので、俺はその話に耳を傾けた。
「へぇ、そうなんだ。 それはやっぱり……おもち君の事で?」
「うん、そう。 アタシさ、子供の頃から動物が好きで、両親が休みの日にはしょっちゅう動物園に連れていって貰ってたんだ」
「それは凄いね! あれ、俺よく考えたら動物園には行った事が無いかもしれないな」
「あ、そうなの? あはは、意外と楽しいから良かったら行ってみて欲しいな。 まぁ話を戻すんだけどさ、アタシは動物の中でも犬が特に大好きなんだ。 だからおもちの事も家族と同じくらい大切な存在だったから……おもちが病気で亡くなった時は本当に悲しかったな」
そういう水瀬さんの表情は本当に悲しそうな顔つきをしていた。
「それでね、アタシみたいに悲しんでる人を少しでも減らそう! って思ってさ。 それで小学生の頃のアタシは獣医師になりたかったんだよね」
「……なるほど、うん、それは凄い良い夢だね! ……あれ、でもさ、何で過去形なの?」
それは本当に素晴らしい夢だと思って俺は素直に尊敬したんだけど……でも語尾が過去形だった事に俺は違和感を覚えて尋ねてみた。
「あはは、だってさぁ……アタシ凄い馬鹿だからさ、獣医になるなんて無理だって気付いちゃったんだよね。 ほら、矢内君もアタシの成績知ってるでしょ?」
「え? あ、あぁ、まぁ……ね」
この学校では全校生徒の成績は廊下に張り出されるシステムになっている。 流石に生徒全員の成績を覚えるなんて事は無理なんだけど……でも水瀬さんは下から数えたらすぐに見つかる順位だったから、俺は水瀬さんの成績は何となく知っていた。 水瀬さんはちょっと……というかだいぶ悪い方の成績だった。
「いやこれでも小学生の頃は本気で勉強してたんだよ? でも中学入った辺りで少しずつ授業についていけなくなってさ……それで仲の良い友達と現実逃避がてら外でヤンチャな事しまくってたらさぁ、もう授業には完全についていけなくなっちゃってね。 ってか友達との遊びの方が楽しくなってきてさ、それで最終的にこんな感じになっちゃったって訳よ、あはは」
そう言いながら水瀬さんは自分の体に手を当てながら笑っていた。
「ま、結局こっちの方がアタシには合ってたって事が早い段階でわかって良かったよ。 って、あ、そんな変な話してたらもう駅に着いちゃったね。 それじゃあ、また来週ね」
「え? あ、あぁ、うん」
今日は金曜日なので次に水瀬さんに会えるのは来週の月曜日だ。 このままだとこの二日間は水瀬さんと会う事は出来ない。
「あ、ごめん、ちょっとだけ待って!」
「うん? どうしたの矢内君?」
俺は水瀬さんを悲しい表情にしてしまったままこの二日間を過ごすのは嫌だった。 俺達の関係は嘘の恋人でしかないけど……でもやっぱり彼氏としては彼女には楽しい顔で休日を過ごしてもらいたい。
「ねぇ、明日休みだし、良かったらさ……二人でデートに出かけない?」
「え? デート?」
という事で俺は意を決して水瀬さんをデートに誘ってみた。 正直断られる気しかしてなかったんだけど、でも水瀬さんは割とすんなりと受け入れてくれた。
「うん、まぁ学校休みだしそれくらい全然良いけど。 何処か行きたい所でもあるの?」
「あぁ、うん、良かった。 それじゃあさ、ここから近くにある動物園に一緒に行かない?」
「え? 動物園に?」
「うん。 さっきも言ったんだけど、俺は動物園に行った事が無いから凄く興味が湧いてきちゃってさ。 それに俺も動物は好きだからさ、水瀬さんと一緒に行ってみたいなって思ってね」
俺がそう言うと水瀬さんは若干目を輝かせながらうんうんと顔を頷いてきた。 その仕草だけで本当に動物が好きなんだという事がわかった。
「そ、それはちょっと魅力的な提案だね。 アタシも最近は全然動物園には行ってないし、矢内君とおもちの話をしてたら久々に行きたくなってきたなぁ……うん、それじゃあ一緒に行こうか」
「うん、わかった、それじゃあ明日はよろしくね! えっと、時間と場所については……」
という事で突発的だけど明日は水瀬さんとデートをする事が決まった。 そしてこれが付き合って初めてのデートとなる。
(あ、そういえば水瀬さんの私服を見るのもこれが初めてだな)
水瀬さんの私服ってどんな感じなのかな? やっぱりギャルっぽい服装なのかな? それとも甘い系の服装とか? まぁどんな服装でも水瀬さんなら何でも似合いそうだけどね!
そんな感じで俺は水瀬さんの服装を頭の中で妄想しながら、明日のデートを楽しみにしていった。
◇◇◇◇
翌日の土曜日の朝。 俺は待ち合わせ場所で水瀬さんが来るのを待っていた。
「矢内君、おはよう」
「あぁ、うん、おはよう」
唐突に後ろから声をかけられたのでそちらの方向に体を向けると、そこには私服姿の水瀬さんが立っていた。
(なるほどー、そう来たかー!)
俺はそのまま水瀬さんの服装を眺め始めた。 水瀬さんは黒いスキニージーンズと白いパーカーを着ており、頭には帽子を深めに被っていた。 さらにいつも身に着けていたピアスや指輪等の小物類も全部外していた。
「ん? どうしたの、矢内君?」
「え? あ、あぁ、いや、何というか……学校の時とは全然雰囲気が違うね」
俺は素直にそう感想を伝えた。 水瀬さんの服装は俺が想像していたよりもかなりラフかつシンプルな服装だった。
「え? あぁ、これの事?」
「うん、そうそう」
そう言って水瀬さんは自分の恰好に手を当てたので、俺は顔を縦に振って頷いた。
「いや、まぁ動物との触れ合いコーナーもあるしさ、今日はなるべく動きやすい服装にしといたんだ。 あとはピアスとか指輪とか動物達が誤って口の中に入れちゃったら大変だから全部外してきたんだ」
「あぁ、なるほどね」
水瀬さんがそう言ってきたので俺は全て納得した。 あぁ、やっぱり水瀬さんは動物が本当に好きなんだな。
「んー? あはは、もしかしてさぁ……もっとギャルっぽい服装の方が良かったとか?」
「え!? あ、あぁいや、そういう訳じゃなくて……」
俺が黙って水瀬さんの恰好をじっと見ていたら、水瀬さんはニヤニヤとしながらそんな事を言ってきた。
「あはは、別にそんな否定しなくてもいいのにさ。 そんなに見たかったんなら、次にデートする時はオシャレな服で着てあげるよ」
「え!? またデートしてくれるの??」
「え? そ、そりゃあもちろんするけど?」
まさか次もデートをしてくれるなんて思ってもいなかったので俺は大きな声を上げてしまった。 そしてそんな俺の態度を見て水瀬さんは怪訝そうな表情を浮かべていた。 い、いやだってさ……今日が水瀬さんとの最初で最後のデートだと思って臨んでいたからさ……
(……あ、でも、そうか)
よく考えたら俺が噓告白に気が付いてるって事は水瀬さんは知らないんだよな。 それじゃあ、まぁ、水瀬さんに変に勘繰られても困るので俺は惚ける事にした。
「あ、いや、何というか……今日が生まれて初めてのデートだからちょっと舞い上がってる感じなんだ、あはは」
「ふ、ふぅん、そうなんだ? それじゃあせっかくだし今日は楽しまなきゃだね」
「あ、あぁ、うん、そうだね」
それで水瀬さんは納得してくれたので、俺はほっとしながら目的地の動物園へと向かって行った。
「うわぁ……懐かしいなぁ」
「あ、もしかしてこの動物園にも来た事あるの?」
「うん、もちろん!」
動物園に到着すると水瀬さんは目を輝かせながらそう言ってきた。 そしてその表情はいつも俺に見せる愛想笑いとは違って本当に楽しそうな顔をしていた。
「よし、それじゃあ早速中入ろうか」
「うん、そうだね、行こう!」
そう言って俺達は動物園の中へと入って行ったのであった。
◇◇◇◇
それから数時間後、辺りが暗くなってきた頃に俺達は動物園から出た。 そして今は帰宅するために最寄りの駅へと向かっている所だった。
「いやぁ、楽しかったね」
「うん、そうだね」
その帰り道に俺が水瀬さんに向けてそう言うと、水瀬さんも同意してくれていた。
「そっか、水瀬さんも楽しんで貰えたなら今日誘ってみて良かったよ! それにしても一緒に動物園に行ってみて改めて思ったけど……水瀬さんは動物の事が本当に大好きなんだね」
動物園の中にあった触れ合いコーナーで、水瀬さんは嬉しそうな顔を崩す事無く大好きな犬とずっとじゃれついていた。
「う、そ、そんなに顔に出てた?」
「うん、バッチリね。 あはは、でも俺もすっごく楽しかったよ。 うん、水瀬さんの彼氏になれて本当に良かったよ! 改めて今日はデートに付き合ってくれてありがとう!」
「……そ、そうね」
俺がそう言うと水瀬さんはばつが悪そうな顔をしていた。 いやそうだよな、デートって言っても俺は本当の彼氏って訳じゃないしさ。 まぁ、でも……それでも水瀬さんが振ってくるその日までは俺も彼氏面をさせて貰おうと思う。 だから……
「ねぇ、今からでもさ、勉強頑張ってみない?」
「……え?」
だから俺は大切な彼女のためにそう言ってみた。
「確かに今から獣医になるための勉強は凄い大変かもしれないけどさ、でも動物に携わる仕事に着きたいって夢があるんだったら頑張ろうよ。 俺も付き合うからさ、一緒に勉強頑張ろうよ」
俺がそう言うと、水瀬さんは困惑した表情をしながら俺の事を見てきた。
「……な、何でそんな事を言うの?」
一瞬の沈黙が流れた後、水瀬さんは困惑とした表情のまま俺に向かってそう尋ねてきた。 なので俺は真面目な顔をしながら水瀬さんにこう言った。
「俺は水瀬さんのその将来の夢の話を聞いた時さ……水瀬さんの事がすごく羨ましく思ったんだ」
「え……? 羨ましい?」
「うん、俺はさ、今まで将来の夢とか何も考えた事が無くてただ目的も無く漠然と勉強してたんだ。 だから水瀬さんの夢を聞いた時は本当に羨ましく思ったし、それに凄く尊敬したんだ」
俺がそう言いながら水瀬さんの顔をじっと見つめた。 すると水瀬さんは少したじろいだ態度を見せてきたけど、でも俺は気にせず話を続けていった。
「だから、もし水瀬さんが本当になりたいんだったら俺は全力で応援したいし、水瀬さんの手伝いもしたいと思ったんだ。 だって俺は前にも言ったけど……水瀬さんの事が好きだからさ」
「……っ」
俺がそう言うと、水瀬さんは顔を赤らめながら俯いてしまった。 し、しまった、もしかしたら水瀬さんに不快な思いをさせてしまったかもしれない……
「ご、ごめん、もしかしたら要らないお世話だったかもしれないね……」
「う、ううん、そんな事ないよ。 で、でも……うん、それじゃあさ……迷惑じゃなければ色々と教えて貰えたら嬉しいな」
「うん、もちろん良いよ! それにほら、俺は勉強だけならめっちゃ得意だしさ、もういつでも頼っていいよ、あはは」
「……うん、ありがと。 それじゃあ……色々と頼りにさせて貰うね、矢内君」
「うん、わかった。 って、あ、ちょうど駅に着いたね。 それじゃあ……また学校で会おうね、水瀬さん」
「あ、うん、また学校でね、矢内君」
そんな話をしていたら駅にちょうど駅に到着したので、そのまま俺は水瀬さんが駅の改札に入る所まで見送る事にした。 そして俺はそんな水瀬さんの背中を見送りながらこれからの事についてを考えた。
(いつ水瀬さんに振られる事になるかはわからないけど……うん、でもその日が来るまではこの関係を大切にしよう)
俺と水瀬さんは噓の告白から始まった出会いだ。 だからいつかは必ず終わりが訪れる恋人関係なんだけど……それでもこの関係が完全に終わるまでは、水瀬さんとの縁を大切にしようと思った。
「……あ、矢内君」
「うん? どうしたの水瀬さん?」
俺がそんな事を心の中で思っていると、ふと水瀬さんは俺の方に体を向けてきた。 そして水瀬さんはそのまま俺の顔を見つめながら……
「……本当に楽しかったよ、今日はその……色々とありがとね」
水瀬さんはそう言って満面の笑顔を俺に見してくれた。 それはいつも俺に見してきた作り物の笑顔では決してなく……本当に嬉しそうな笑顔を俺に向けてくれたのであった。
(終)
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