裁かれる者
緊迫した空気の中、ボレロは苦虫を噛み潰したかのような顔をしていた。
それもそのはず。
目の前には口止めをしていた部下の姿があったのだ。
そして、大将であるフーデルは激昂している。
それだけで答えはわかる。
部下達が喋ったのだ。
自分は教皇の親戚であり、裏切ればどうなるかは分かっているはずだ。
だから、絶対にバレることは無いと思っていた。
過信しすぎたのだ。
いや、メフィの能力がなければバレることは無かっただろう。
運が悪かった。
フーデルだけではなく、側近達も皆が険しい顔をしている。
今までは教皇がバックにいる為、ボレロが好き放題しても
特に咎めはしなかった。
だが、今回は違う。
人間界の滅亡の危機が掛かっていたのだ。
教皇どうこうの話では無い。
そして、部下が軍律違反を犯したものは海軍大将の権限により本来、王へ任せる処罰を独断で行ってもいいことになっている。
つまり、ボレロの命はフーデルが握っているも同然である。
フーデルは厳しい顔でボレロを睨み口を開く。
フーデル「全てはこの者たちから聞いた。お前の愚行をな。最後に言い残すことはあるか?」
フーデルの言葉から発せられる『最後』という言葉。
それはボレロに重くのしかかっていた。
海の皇帝を攻撃したのもほんの、出来心であった。
三大恐慌の一柱を殺れば莫大な富と名声が得られる。
自分の実力も分かっていないボレロは、有頂天になっていたのだ。
何をしても上司も誰も責めはしない。
その為、自分は強いと思い違いをし今回の行動に移ってしまった。
ボレロは必死に懇願する。
ボレロ「ち、違うのです! 海の皇帝はこの基地のすぐ近くまで来ていたのです! 私は追い払う為にやったのです! 決して独善的に行動した訳ではありません!
そ、それに私は教皇の親戚ですよ?! 私に何かあれば貴方の立場も悪くなるのでは?!」
ボレロはここでも墓穴を掘ってしまった。
本当に国の為にとった行動ならば、教皇という後ろ盾を出して脅す必要はなかった。
つまり、ボレロは自分で認めてしまったのだ。
自己中心的な行動だったと。
フーデルはゆっくりと目を瞑り口を開く。
フーデル「ボレロ少佐に告ぐ。貴殿は重大な軍律違反、いや
国家違反を行った為、即刻打首とする。異議のあるものはいないな?」
フーデルから告げられる処刑宣告。
そして、周りの重鎮達も頷く。
ただ一人を除いて。
ボレロ「いやだ・・・・・・いやだァァァ!!! 俺は教皇の親戚だぞッ!!!
俺を殺したらお前達も皆殺しだッ!!! いいのかお前達!!!?」
フーデルは一枚の紙をボレロに放り投げる。
ボレロはその紙を拾うと、そこに貼られている刻印に見覚えがあった。
ボレロ「こ、これは叔父上の刻印・・・・・・中身は・・・・・・」
『軍律違反をしたならば、ボレロの処罰はフーデル海軍大将に采配を任せる』
そう書かれていた。
つまり、助けるつもりは無い。
死ね、という事だ。
それを見てとうとうボレロは真っ白になった。
部下にも売られ、叔父である教皇にも見放された。
ボレロは俯きながら兵士に連れられ外へと出る。
ブツブツ呟きながらも心ここに在らずといったかんじであった。
数分後、一人の兵士が木の板にボレロの首のみを乗せフーデルに
報告しにやって来た。
その首を見てフーデルは口を開く。
フーデル「フーデルだけの責任では無い・・・・・・今までの小さな軍律違反をワシは見て見ぬふりをしていた。教皇に恐れていたからでは無い。ボレロにチャンスを与えるためだ。だが、それが裏目に出て今回の事件を起こしてしまった。ワシの責任でもあるのう」
そう話すフーデルに重鎮達は否定をする。
フーデルは善人すぎるのだ。
皆に好かれる男であり、大将としての器は抜群である。
しかし、優しすぎるのも良くは無い。
時には厳しい一面も見せなければ海軍大将は務まらない。
確かに、フーデルがしっかりと叱っていればボレロは、今回の愚行を犯すことは無かったであろう。
だが、ボレロが死んだ今、それは実証されることは無い為、知る由もない。
続けてフーデルはゼノンとメフィに頭を下げた。
フーデル「ワシの部下の責任を主達に押し付ける形となり、誠に申し訳なくおもっている・・・・・・本来ならワシらが自分達でなんとか
しなければいけないのだが、相手は三大恐慌である。ハッキリ言って我々では実力が不足し過ぎている。どうか・・・・・・どうか主達に頼めないだろうか?」
部下が止めるのもお構い無しに頭を下げるフーデル。
ゼノン「それは構わぬが討伐はしなくても良いのだな? 人間界に手を出させなければ良いのだ?」
改めてフーデルに問うゼノン。
てっきり断られると思っていたフーデル以下部下達は驚愕の顔をしていた。
フーデル「あ、あぁ、それでも構わぬ! 報酬は国王にワシから話して上げて貰うよう伝えよう。どうか、人間界を頼む!」
その言葉をゼノンは了承する。
ゼノンからすれば簡単な任務で大金が得られる。
むしろ有難い話であった。
ゼノンはすぐ様ここを立つと言った為、そのまま海へと向かった。
少し歩きゼノン、メフィ、カリファは3人で海辺へと着く。
メフィ「それじゃあ、行ってくるからカリファはここで待っててね!」
カリファはずっと不安な顔をしていた。
この2人はこれから三大恐慌へと向かうのだ。
本来なら国家戦力で立ち向かうべき相手にたった2人だ。
誰が聞いたって止めるはず。
いや、ゼノンを知るもの達なら笑顔で見送るだろう。
ゼノンはカリファの肩に手を置く。
ゼノン「日暮れ前に戻る。待っていろ」
ゼノンの優しく落ち着いた声色に、なんだかカリファまで落ち着きを取り戻してしまった。
ゼノンの言葉に思わず頷くカリファ。
そして、メフィが海へと手を向ける。
メフィ「それじゃあ行きましょうゼノン♪ 氷の道」
メフィが手を出すと、地平線まで伸びる氷の道。
カリファが見送る中、2人は氷の道を歩き進める。
2人の後ろ姿を見て両手を合わせ祈るカリファ。
カリファ「どうか、ゼノン殿とメフィーロ殿に神の御加護を」
次第に小さくなっていく2人の姿を何時までも見つめるカリファであった。
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