影の者
血を吹き出し倒れる男。
ゼノン「・・・・・・いつまで倒れている」
「ッ?!!! 俺は死んだはずでは?!」
ゼノン「貴様の服に監視の目が付いていた。それ毎、貴様を切って目の持ち主を謀っただけだ。回復」
ゼノンはその男の傷口をヒールで回復する。
皮膚の薄皮を大きく切っただけの為、直ぐに傷口は塞がった。
だが、目の持ち主には彼が死んだと思ったはずだ。
「何故俺を生かした?」
ゼノン「元々殺すつもり等無かった。最初に貴様を見た時から他の者達とは違い目が死んでいなかったからな。
アビスヘルムに何か止むを得ず入る理由があったのであろう。そして、その理由もわかった。貴様は先程死ぬ間際に
レイラと口にしたな? お前はレイラの何だ?」
ゼノンは何となくわかっていた。
しかし、敢えて聞く。
「レイラを知っているのか?! いや、この国で知らない者などいないか。彼女は教皇の野望のせいで犠牲になった由緒正しき聖女なんだからな。俺はレイラの『父』だ。彼女がまだ赤ん坊の頃、俺と妻はレイラを修道院に預けた。収入はあったが病気がちである妻を
養うだけで精一杯だったんだ。それなのに子供を作っちまってな。最初は殺そうと思ったんだが、そんな非道な事は出来なかったよ。
だから修道院に預けることにしたんだ。結局妻は直ぐに他界したよ。俺への罰だろうな。そして、気付いたらレイラは聖女に成り
上がっていた。でも、またあの子の親に戻りたいとは思わなかったよ。1度捨てたんだからな。だが、陰ながら応援はしていた。そんな時、教皇がレイラを除け者にしようって噂を耳にしたんだ。
俺一人で彼女を救えるはずも無く、今日の下に付いて錯乱してやろうと思ったんだ。ここ最近はレイラの噂が丸っきり聞こえなくなったからもしやと思ったんだ・・・・・・それでも俺は信じたくなかった。だから、必死に金を稼いでレイラに何不自由なく暮らせるように金を貯めていたんだ。娘の為とはいえ、逆にあんたの子供達を狙っていたんだ。気が変わったなら殺してくれ。最早レイラのいないこの地で俺に生きる意味は無い。長くなってすまなかったな。」
この男が最後まで話終わるまでゼノンはずっと黙って聞いていた。
まさか、こんな所でレイラの父親に会うとは。
しかし、この男は使えるかもしれない。
危険ではあるがやる価値はある。
ゼノン「レイラが生きていると言ったらどうする?」
「ッ?!!! 本当か?!!!」
先程まで絶望していた男の目に生気が宿る。
ゼノン「うむ。レイラが幼い頃から顔見知りでな。1年以上前に王都を歩いていたら偶然追われる身であったレイラと会ったのだ。今は私の家で匿っている。」
「本当なのか?!!!・・・・・・よかった・・・・・・レイラ、生きていたのか・・・・・・俺はてっきり・・・・・・ありがとう。
本当にありがとう」
娘が生きている事を知り涙を流す男。
その姿は本当に娘の生を喜ぶ父の姿であった。
ゼノン「今は私の娘として生きているが、レイラにお前の
ことを伝えて2人で暮らすことも出来るぞ。」
ゼノンは2人の幸せを考えてそう提案した。
本当ならレイラも自分の娘となった為、離れるのは辛い。
それにムムなんて特に慕っていた為、号泣するだろう。
だが、目の前に本当の父親が現れた以上無視することは出来ない。
レイラにとって本当の父親は目の前にいる男なのだから。
男は俯いて何かを考えている。
「・・・・・・いや、やめとこう。捨てておいて今更父親面なんて出来ない。あんたの元にいたおかげで生きていられたんだろ? 俺は何もしていない。レイラは幸せそうか?」
まさかの返答であった。
この男も娘と暮らしたいはずだ。
しかし、レイラの事を考えて引いたのだ。
ゼノン「うむ。毎日笑顔で溢れているぞ。今では仕事もしているしな。」
「なら尚更だ。悪いがレイラには俺の事は黙っていてくれ。頼む。」
ゼノン「よかろう。これからもレイラは責任もって私が育てる。
そこでなんだが、レイラの為に私の元で働かないか?」
「えっ?!!!」
いきなりの提案に驚く男。
敵である自分を今度は味方に置く。
信頼など何も無いはずの赤の他人の自分を。
ゼノン「今日より、お前は私の耳となれ。教皇はいずれ
始末しなければならないと思っていた。そして、それは
レイラの自由への切符でもある。レイラの為であるなら
お前は私を裏切りはしないだろう?違うか?」
ゼノンの言う通りだ。
レイラの為と言われれば、断るはずがない。
むしろ、こちらからお願いしたいくらいだ。
本来なら死んでいる身。
そして、ゼノンはレイラの命の恩人。
断るわけが無い。
「・・・・・・こちらこそ頼む。いえお願いします。今日より私
ガルムは貴方様の耳となりましょう。そして我が忠誠を貴方様に」
跪き頭を垂れるガルム。
ゼノンの鑑定ではガルムはかなり強い部類に入っていた。
恐らくSクラスに近いAクラスであり、シリュウに二歩及ばないくらいである。
あのシリュウに二歩差である為、人間にしては相当強い。
そして、何より彼の適正魔法が優秀であった。
ゼノン「貴様は『影魔法』の使い手だな?」
影魔法は多数相手にはそこまでの脅威はないが1体1、つまり暗殺や情報収集にはもってこいの魔法である。
魔界にもこの魔法を使えるものはほとんど居ない。
ガルム「さすがは主様。鑑定持ちでしたか。その通りです。私は影魔法を得意とします。その為、情報収集はお任せ下さい。」
ゼノン「ふむ。では、早速貴様は教皇の元へ行き情報を集めろ。永続変装魔法も掛ける故、万が一教皇に見られてもバレることはあるまい。」
ガルム「ありがとうございます。して、教皇の何を調べればよろしいでしょうか」
ゼノン「いや、教皇ではない。恐らくだが教皇に指示をする更に上の者が居るはずだ。」
ゼノンの言葉に驚くガルム。
教皇は国王に次ぐ、いやほとんど並んでツートップである。
その教皇に指示を出せる人間等、国王しかいない。
だが、それはありえない。
以前のレイラの話曰く、教皇は国王を毛嫌いしている。
それどころか自分が王になろうとしているのだ。
つまり、国王でもない。
ガルムは考えてもわからなかった。
ガルム「その様な者が本当に居るのでしょうか?」
ゼノン「私の推測だ。だが、恐らく居ると思っている。
だから、お前の耳で確実にしたいのだ。この金を持っておけ。宿で寝泊まりする事になるだろうからな。」
そういうとゼノンはぎっしり入った金貨をガルムに渡す。
生かしてもらえた上に大量の金貨。
ガルムは改めて感謝の言葉を述べる。
ゼノン「うむ。では何か情報が手に入ったら俺の元を訪ねろ。無理はするなよ。行け。」
ガルム「はっ!!!」
ゼノンの話が終わるとガルムは影に入り消えていった。
ここにきて協力な助っ人が手に入ったのはデカい。
アビスヘルムのメンバーが言っていたあの御方が教皇なら
簡単な事だが、教皇のバックにあの御方が居るとしたら厄介なことになる。
とにかく、これであの御方の企みは防ぐ事に成功した。
ゼノンは引き続き、子供達の勇姿を見る為に会場へ戻るのだって。
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