ムムの両親
ミノタウルスも増えた事により、ゼノン一家は4人暮らしとなった。
召喚しても戻す事は可能だが、ムムが駄々をこねる為、ミノタウルスも召喚したままになっているのだ。
つまり、ムムの遊び相手として。
とはいえ、ミノも満更ではないようで毎日飽きもせずムムと遊んでいた。
こんなミノタウルスは世界ひろしといえどここにしか居ないだろう。
洞窟は元々、広く作っていたこともあり、ミノタウルスが入ってもだいぶ余裕がある。
そして今日も朝食を皆で食べていると、ムムが口を開く。
「ゼノン様? あの、ムムのお兄ちゃんも連れて来ていーい?」
いきなりの質問にゼノンは驚く。
(ムムの兄というと、ムムが捕まっている時に逃がしたんだったな。だが、そんな事をしてしまった以上、何かしらの罰は受けているだろう。下手をすれば既に・・・・・・)
最悪のケースが頭をよぎる。
とはいえ、ここでソレを言うのは酷だと思い踏みとどまる。
「どうだろうな。ムムの家の特徴を教えろ。私が確認してきてやろう」
ムムを連れていく訳には行かない。
どっちにしても、見たくないものを見せることになるだろうから。
しかし、当の本人たるムムはその場を飛び跳ねる。
嬉しいの舞だ。
「本当っ?!!! ありがとうゼノン様! ムムの家はボロボロで2階まであって、ドアに鳥さんマークがあるの!」
普通の人ならそんな情報では途方に暮れるだろうが、生憎と世界最強の魔王である。
ゼノンなら一瞬だ。
「ふむ。それだけ情報があれば可能だろう。私はムムの家に行ってくる。ライムとミノタウルスはムムを見ていてくれ」
ムムを一人残しては何があるか分からない。
信頼出来る側近と屈強な配下をムムの傍に置く。
「はーい!!!」 「モ゛ォウッ!!!」
ムムは再び大きな声でお礼を言う。
「ゼノン様! 本当にありがとう!!!」
「うむ。では待っていろ」
ライムの機転とミノタウルスの力があれば大抵の事は防げるだろうと予測する。
外に出るとゼノンは「飛翔」と言って空へと飛び立つ。
目指すはムムの兄の元。
ある程度進む。遠くに村が見えてきた。
距離的に考えてもあそこの村がムムの住んでいた場所だろうと確信する。
村人に見つかっては面倒くさい為、街の手前で降り、更に「変装」をかけ、村に入った。
当たり前ではあるが魔王のまま入ったら、村中がパニックに陥ってしまう。
村に入り暫く歩くと、村は貧しく物乞いが数多く居る。
空気も悪く、草木も枯れている。
村と言うより廃村の方がしっくりくる。
(辺鄙にある街というのはこういうものなのか。そしてムムもここで育った・・・・・・)
想像以上の劣悪さにゼノンは感慨深くなっていた。
そんな中しばらく歩くとムムが言っていた特徴通りの家があるのを目にした。
扉に鳥のマークがある。
(ふむ。これだな)
「入るぞ」
人間の常識なんて知らない。
ドアには鍵が掛かっていたが「解除」を使用して勝手に入る。
(む。この臭い・・・・・・)
部屋に入ると物凄い異臭を放っていた。
嗅いだことのある臭い、、、それは戦場でだ。
そしてその臭いの元を辿ると、8歳位の男の子が果てているのを見つけた。
体を見るとそこら中に痣があり、血も流れている。
血を見るに、まだ死んでからそんなに経ってないようだ。
ソレを見てゼノンは少し『安堵』する。
(この人間がムムの兄で間違いないな。ムムを逃がした事により、親か奴隷商に殺されたか。さてどうしたものか)
この後の事を考えていると誰かが家に入ってきた。
もちろん、ゼノンはすぐに気づいた。
そして、ドカドカと足音をたてながら部屋へと入ってきた二人は目を見開く。
「誰だテメェ!!!」
「人の家に勝手に入って、何してるのよ!!!」
ムムの両親だ。
小汚い格好をしてはいるが、ムムやそこで死んでいる男の子よりも肉付きはいい。
そんな2人に対してゼノンは冷静に答える。
「人探しをしていてな。5歳のピンク色の髪をした女の子の家はここで間違いないか? そしてそこで死んでいる男はその子の兄か?」
ゼノンの言葉に二人は目を合わせ頷く。
それも不敵な笑みを浮かべながら、、、
「もしかして、アンタはあの子の居場所を、知っているのか? 確かに俺らの子供だ! そして『それ』はその子の兄だ!あの女を逃がした罰で殴ってたら死んじまってな! 元々、あの子以外は金にならんしどうってことはねぇ!」
死体を指さし、それ呼ばわりする男。更に死んだ事を笑いながら話す男。
ゼノンは特に何も思わないがいい気分でないのは確かだ。
更に続けて母親が口を開く。
「さぁ、早くその子を返しな! ピンクの髪は珍しいからね! 高く売れるのさ! それなのにソイツと来たら、渡す直前で逃がしやがったのさ。全く誰がここまで育ててきたと思っているんだい!やんなっちまうよ!」
二人の会話は子の親とは思えない程、腐った会話だった。
劣悪な環境に人外の両親。
自分の子供だというのに人間として扱わず物として扱う。
こんな場所にいては命がいくつあっても足りない。
(ふむ。私にはそこまで感情はないが、流石に聞いていて不愉快だな)
そう思って考えているとまたしても女が口を開く。
「早くあの女を連れてきな! ここ最近まともなまんまを食いっぱぐれているんだよ! あの子にはなんの取り柄もない! だったら奴隷にしてあげた方があの子の為にもなるんだよ! 私達の役に立てるんだからさ!」
ゼノンの右眉がピクッと跳ね上がる。今までの言葉には対して何も思わなかったが、その言葉には僅かながら怒りを感じた。
ゼノンは母親の元へゆっくりと歩く。
「な、なんだいそんな顔して!こ、こっちに来るんじゃないよ!」
ゼノンの険しい顔。
まるで死神が近付いてくるかのように、母親は恐怖に陥っていた。
父親の方も危機感を持ったのか、手に木の棒を取りゼノンの背後より攻撃を仕掛ける。
しかし、ゼノン虫を払うかの如く振り払う。
次の瞬間、木っ端微塵に壊れてしまった。
触れていないのにだ。
そもそも、ただの人間が魔王に適うはずも無い。
まさか相手が魔王なんて思いもしなかっただろう。
それも世界最強の。
「ひ、ひぃッ!!!」
ゼノンは父親を睨み、頭を掴む。
父親の体は簡単に宙に浮き、食い込む指の痛さに思わず叫んでいた。
「ぎゃーーーッ!!! 離せッ!!! 離せーーーッ!!!」
頭蓋骨が軋む音がする。
父親は必死にもがくが、ゼノンの手から逃れることは出来ない。
そして、その光景見ている母親はというと、恐怖のあまり腰を抜かして座り込んでいた。
それも床を濡らしながら、、、
これが夫婦とは難儀なものだとつくづく思うゼノン。
「正直私はお前達に恨みは無い。その人間を育てて殺すのもお前達の勝手だ。---だがな、ムムを、、、あの子を侮辱されるのは許せぬ。あの子はよく働き、よく学ぶ。何より優しさに溢れている。こんな親の間から産まれたとは思えない程にな。そんなあの子になんの取り柄もないだと?奴隷しか生きる意味がないだと?いい加減にしろ。貴様ら---骨も残ると思うなよ。地獄の業火」
男を握っているゼノンの手から炎が吹き出す。
この世に存在しない黒い炎。
それはまさに地獄の炎であった。
「あああぁぁぁッ!!!!!! 熱いッ!!! 痛いッ!!! 助けてッ!!! ぎゃああああッ!!!!!!・・・・・・」
叫ぶだけ叫びわずか数秒で灰と化す。
そのまま今度は女を見ると恐怖に顔は歪み、更に失禁していた。
旦那が焼けて無くなるのを見ていたのだから生きた心地もしないだろう。
「い、いやだ!!! お、お願い!!! 助けてくれっ!!! 全部その男の指示なんだ!! なっ、いいだろ?!」
自分の命が一番可愛い。
それは当たり前だ。
だが、ここにきて更にゼノンをイラつかせるのは得策でなかった。
「それ以上、囀るな。ムムは私が責任持って育てる。お前等は、もう用済みだ・・・消えろ」
「い、いいのかい?! あの子にとってはたった一人の母親なんだよ? その母親を殺すってのかい?」
必死に自分の命を助かる為に尚、説得するもゼノンには無意味な事だった。
「母親か。ならお前はあの子に何をした? カビたパンと草のスープを与え、まともに食べさせず、暴力を振るい傷だらけにした。そしてあろう事か、その子供を売ろうとしたな?どの口がほざいている。いい加減黙るがいい。沈黙」
女は声を出そうとするも何も発する事が出来なかった。
必死に口を開いているが無音である。
「あの子はまだ5歳だぞ。貴様には永劫の地獄を見せよう地獄の深淵」
母親が座り込む床が突如割れる。
先程までの風景とは打って変わって異様な光景が目の前に拡がっていた。
地獄を具現化したような光景。
炎から、焼かれたミイラの様な異様な者達が次々に這い上がり、母親を下に引きずり込もうとする。
足に捕まり、引っ張る亡者達。
しかし、女も落ちまいと、必死に床に掴まる。
落ちれば助からないことは目に見えてわかるから。
「あの世で懺悔するのだな」
ゼノンは母親を見下ろす形で前へと立つ。
なんの迷いもなく掴まっていた母親の手を踏みつけそのまま落としたのだ。
口は開いているが何も声は出ていない。
何せ、サイレントを使っているのだから。
女が絶望のまま堕ちると割れた床はくっつき、元通りになっていく。
さて、この少年だが・・・・・・。
ゼノンはムムの兄である男の子の近くへ行き手を出す。
「蘇生」
すると男の子の傷は、みるみる治り体には血が巡り、真っ青の肌に色が戻る。
時が経ってしまうと使用できないが何とか間に合った。
しばらく待機をしていると、
「ゴホッゴホッ!!!」
咳をして目を開くと目の前には怖い男が立っていた。
「あ、あれ?! 僕は死んだはずじゃあ・・・・・・」
「ふむ。記憶に問題は無さそうだな。お前は死んでいたが生き返らせた。さっさと行くぞ」
「えっ?! 生き返らせた?! そんな魔法聞いたことがない、・・・・・・それに行くってどこへですか?」
突然のことに頭が回らない。
だが、ここにいる訳にもいかない。それなら、
「お前の妹が待ってる。掴まれ」
男の子は驚きながらもゼノンの服の端を掴む。
すると魔法陣が真下に出て、そのまま消えた。
目を開くと外に出ており洞窟の前に立っていた。
見たことない景色に戸惑っていると更に中から、ミノタウルスとスライムが出てきた。
「うっ! うわあぁーーーッ!!!」
初めて見る魔物に腰を抜かす男の子。しかし、よく見るとミノタウルスの肩に見覚えのある女の子が座っていた。
「にーに!!!」
父母の下にいた時とは違う元気な姿、自分を呼ぶムムの声に少年は涙ながら応えた。
「!!!?あっ!生きていたのかッ!!!」
ミノタウルスは下にムムを降ろしてあげると、ムムはお兄ちゃんに駆け寄り抱き着いた。
二人はいつまでも泣きながら抱き合っていたのだ。
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