ムムの外出
朝日と共にゼノンは目を覚ました。
そして、居間にてコーヒーを飲みながら落ち着く。
人間の子供はいるが、スローライフは順調といえば順調である。
そして、しばらくするとムムとライムも起きてきた。
「ゼノン様おはようございます!!!」
会って早々またしても、挨拶をするムム。
「あぁ」
ゼノンが一言返すも、何故かムムは不服そうな顔をしている。
「ゼノン様は言わないの?」
いきなりの質問になんの事かわからなかった。
「ん? 何をだ?」
「おはようとかおやすみだよ! 朝起きたらおはようって言って、寝る時はおやすみって言うの!」
そんな言葉は発したことない。
魔界で挨拶をする者などほとんど居ないのだから。
「・・・・・・そうだな。そのような言葉は言ったことがない」
その言葉を述べるとムムはムスッとした顔で寄ってきた。
「同じ屋根の下で暮らしいているなら言わなきゃダメなんだよ!」
「そうなのか?・・・・・・おはよう」
「はい! おはようございます!」
ゼノンが朝の挨拶をするとムムは満足そうに微笑んだ。
人間というのはなかなか面倒くさいものだとゼノンは少し思うのであった。
「朝食が出来ました! 食べましょう!」
料理はライムの仕事だ。
ただ、今回はライムだけではないようだった。
「うむ」
「私も作ったんだよ!」
「そうか」
三人で席に座る。
「いただきます!」
その言葉をライムは真似をする。
「いただきます!」
ゼノンはフォークを手に取ると何やら視線を感じた。
ムムとライムが見ている。
(?・・・・・・ふむ。なるほどな。)
ゼノンはフォークをテーブルに置き「いただこう。」と言う。
すると二人は笑顔になり食事を始めた。
(人間というのは何かをやる前に、毎回何かを言わなければならないのか)
不思議に思いながらもゼノンはムム達に付き合ってあげるのだった。
朝食を食べ終わると、ムムは椅子から降り食器を片付けようとしていた。
「食器はそのままでいいよムム! 僕が体の体に入れてすぐ綺麗にしちゃうから!」
ライムは汚れた皿を体に入れた。
ムムはその様子を見ると、ライムの体の中で汚れがありどんどん落ちるのが目に見えた。
少しすると先程の汚れた皿がピカピカになっているではないか。
これにはムムもマジックを見たかのように驚いている。
「すっごーーーいっ!!!!!! ライムはなんでもできるんだね!!!」
「へへへっ!」
満更でもない顔をするライム。
「次はお掃除しよう! 雑巾で床磨きするね!」
「そんなに頑張らなくていいよムム! 僕がヒョヒョイとやっちゃうからさ!」
そんなムムを見てゼノンも口を開く。
「ムムよ、お前はまだ子供だ。仕事よりもする事があるだろう」
ムムは今まで家事以外にはたまに本を読むことくらいしかしてこなかった。
その為、なんの事だかさっぱりだ。
「? それはなーに?」
「子供なら外で遊んで来い。それがお前の仕事だ。但し、外には魔物もいる。護衛を連れて行くがいい」
遊んで来い。 最初のその言葉でムムは目を輝かせた。
ゼノンが言い終わると床に手を付け『召喚ミノタウルス』
そう呟いた。
すると召喚陣が現れたと思うとすぐに光だし中からミノタウルスが出てきたではないか。
体長は2メートル程あり、手には戦斧を持っている。
もちろん、強面であり大人でも失禁してしまうだろう。
なにせ、A級ランクの魔物だ。
この辺ではまず見ないような強者である。
そんな屈強なミノタウルスに近づき指示を出す。
「ミノタウルスよ、その子供を守れ。よいな?」
すると強面のミノタウルスは吠えて返事をした。
ゼノンが召喚したのだから当たり前ではあるが、完全に従っていた。
そんな中、ムムはミノタウルスを見上げている。
初めて見るミノタウルスに興味津々だ。
「わぁーーー・・・・・・大きい・・・・・・」
ミノタウルスはそんなムムを見てしゃがんで、肩を指差す。
「えっ?乗っていいの?ありがとう!ミノ!」
ムムにはミノタウルスという言葉が難しかったようで、早速短縮していた。
ミノタウルスも心做しか笑っているように感じる。
「日が暮れる前に帰って来い」
「はーい!」と返事をし、ミノタウルスは吠えて返事をする。
ムムはミノタウルスに肩車をしてもらい、頭の角に捕まって
「ミノ! しゅっぱーつ!!!」
と元気よく家を出て行った。
ムムはミノタウルスの肩に乗り、木の実を食べたり花で王冠を作ってミノタウルスの頭に乗せてあげたりと遊びを満喫していた。
初めての遊びはとても楽しく、どれも初めての経験である。
こんなに遊んだのは生まれて初めての経験。
こんなに笑ったのも初めてだ。
まだまだ、遊び足りないがゼノンとの約束もある為、ミノと共に帰路へとつく。
すると帰り道の森の中から突如ゴブリンが5体出てきたのだ。
ライムやミノとは違う。
野生の魔物であり、人間を襲う魔物である。
ムムは初めて見る、凶悪な醜態をしているゴブリンに恐怖を覚えた。
傍から見ればミノの方が恐ろしいが、ミノはゼノンが召喚した事もあり平気であった。
だが、目の前のゴブリンは違う。
ムムは恐怖に怯え、ミノの角に震えながらしっかりと握っていた。
そんなムムの顔を見てミノも何かを感じたのか「モ゛オォ!!!」と、まるで任せろと言うような表情で返事をする。
ムムも何かを感じ取ったのか、小さく震えた声で御礼を言う。
そしてゴブリンが棍棒を手に持ち、こっちに駆けてくる。
凶悪な顔を迫る。
ゴブリン達は知能が低いが故に、この後起きる悲劇を予測できなかった。
目先の娘に囚われ、ミノへの注意が怠ったのだ。
「ズバババッ!!!」
ミノのたった一振で二体のゴブリンの体が上下に分かれる。
ゴブリンは所詮Gランク級。
ミノタウルスに叶うはずも無かった。
そして、仲間がやられた事により、ようやくことの事態を察知するも既に遅い。
ムムに触れさせまいとミノが更なる猛撃を繰り出す。
次々にゴブリンの断末魔が響き渡る。
足に擦り傷を喰らうも難なく5体のゴブリンを倒すミノタウルス。
まさに一瞬である。
全てが終わり、目をしっかり瞑ってるムムを見てミノタウルスは「ブモォ!」と、「戦いは終わったよ」と伝えてあげた。
ミノの声でようやくムムは目を開けて、ミノタウルスの目を見た。
恐る恐る目を開くと、確かにゴブリンの死体が散らかっていた。
「ミノ、ケガしてない? 大丈夫?」
ムムはすぐ様ミノの心配をした。
自分を守る為に5体ものゴブリンと戦ったのだから。
ムムからすれば、どちらが強いかなどよく分からなかった。
だから、心配するのも当たり前である。
しかし、ミノタウルスは元気よく「ブモォーッ!!!」と筋肉ポーズを取り全然大丈夫だよと伝えた。
そもそも、かすり傷程度ならミノタウルスからすれば傷のうちに入らないのだ。
だが、ムムはミノタウルスの足をよく見ると血が少し流れていたのを見つけた。
ムムは慌てて「降ろして!!」とミノタウルスに言い降ろしてもらう。
ミノタウルスは訳もわからずムムに言われるがまま降ろすと、ミノタウルスの傷に手を添えて目を瞑る。
そんなムムを不思議そうに見ていると急に傷口が光り、そのまま傷は消えてしまったのだ。
ミノタウルスは驚いた表情をしているがムムは笑っている。
何が起きたか分からないがムムを見て御礼をいいニコッと微笑んだ。
まさかのゴブリンと遭遇するも無事に倒すことが出来た。
家への道中は、2人で仲良く手を繋ぎ帰るのであった。