人間との暮らし
「ふぅーお腹いっぱい!」
「僕も食べすぎちゃったよ!!!」
二人とも満腹になり満足している。
女の子は久しぶりのまともな食事に感激した。
そして、食事が終わった頃を見図りゼノンは質問を始める。
「人間よ。お前は何故、鎖で繋がれていた?」
女の子はハッと思い出し手首を見るも既に鎖はなかった。
「鎖ならゼノン様が外したよ!」
困惑している女の子にライムが説明する。
「そ、そうだったんだ。あ、あのね、私はお父さんとお母さんに売られたの」
その言葉を聞き、ゼノンとスライムは目を見開く。
何かあったのだろうとはおもっていたがまさか、実の親に売られているとは思いもしなかった。
続けて女の子は語る。
「それでね、男の人の所に連れて行かれて、鎖を付けられた。でもね、お兄ちゃんが男の人を吹き飛ばして逃げてって叫んだの。だから足に鎖を付けられる前に逃げれたの。後ろから真っ直ぐ走れってお兄ちゃんは叫んでた。それで疲れていつの間にか寝ちゃったみたい。そしたらここに居たの」
事の経緯を知り、ようやく納得した。
「なるほどな。お前の名はなんと言う?」
「私に名前は無かったよ。お兄ちゃんにも無かった」
「そうか」
名前すら付けて貰えないという事は、産む前から商人へと売るつもりだったのだろう。
人間とは愚かな生き物だとつくづく思うゼノン。
そんな中、ライムは何か閃いたのか急にとびきりの笑顔をこちらに向け、、、
「なら、ゼノン様に付けて貰えばいいよ!!!」
「えっ?いいの?」
いきなりの名付けに流石のゼノンも驚きを隠せない。
ここまで驚いた事が過去にどれ程あっただろうか。
何せ、名付けなどしたことが無い。
「何? 私か?・・・・・・むむっ・・・・・・」
人間に見合った名前を捻り出そうと頭を悩ます。
その時だった。
「ムム?・・・・・・いい名前!!!」
何を血迷ったのか、ただゼノンは考え事をしていただけなのに、それが名前だと思ったようだ。
それも気に入った様子。
「むっ?・・・・・・違うぞ。私は考えていただけでな」
訂正しようとするもライムと女の子は二人で「ムム!!! ムム!!!」とはしゃいでいた。
そんな二人の様子を見て流石に否定をすることも出来なかった。
何より、当の本人が喜んでいるのだから。
「まぁ良いか」
こうして、思いがけず名付けてしまったが女の子の名は『ムム』と決まった。
「スライムさん!!! 私の名前はムムだよ!!!」
「いい名前だねムム!!! 僕の名前はライムだよ!!!」
「ライムね! ライムとゼノン様!」
二人は何時までもはしゃいでいた。
初めての自分の名前にテンションが上がっているようだ。
そして、これからが本題である。
「ムムよ、お前はこれからどうしたい?」
ゼノンは今後の方針について決める為、ムムに聞いた。
ゼノンはスローライフを送る為に、人のいないこの洞窟に来たが
人間の子を一人抱えるとなると、果たしてゆっくり過ごせるのかはわからなかった。
それでも、ムムがここに居たいと言うなら住まわせてあげるつもりである。
「私は・・・・・・ここにいたい・・・・・・ゼノン様とライムと一緒に居たい。あのお家には帰りたくない・・・・・・」
ムムは泣きそうになりながらもそう答えた。
「そうか。ならここに居るがいい。ライムよ、ムムを風呂に入れてやれ。クリーンを使うよりも風呂の方が気持ちよかろう」
てっきり追い出されるものだと思っていた。
だが、待っていたのは暖かい言葉。
ムムは零れる涙を拭き取り、風呂という言葉に歓喜する。
「はーい! ムムお風呂入ろう!」
「お風呂に入れるの?!!!」
「そうだよ! 行こう!!!」
「わーいッ!!!」
ライムとムムは走って風呂に向かった。
(スライムと人間の子で三人の暮らしか・・・・・・ふっ)
ゼノンはこの不思議な関係に思わず笑を零していた。
スローライフを送るつもりがまさか、人間の子供付きとはな。
そう思うと思わず微笑んでしまった。
そして風呂から出るとそこには、髪はツヤツヤになり顔や体の汚れも落ちたて綺麗になった、ムムの姿があった。
「風呂は気持ちよかったか?」
「はいっ!!! 初めてお風呂に入った!!! ありがとうゼノン様!!!」
「僕が頭とか洗ってあげました!!!」
「そうか!よくやったなライム。ではもう眠るがよい」
「はーい!!! ライム! 一緒に寝よう!」
「うん!!! あっ、でもまだ片付けが・・・・・・」
落ち込んでいるライムを見たゼノンが
「私がやっておく。今日は一緒に寝てやるが良い」
「ありがとうございます!!! 一緒に寝よー!!!」
「ゼノン様! ありがとうございます!!!」
二人は寝室に向かうもゼノンが呼び止めた。
「ムム、待て」
急に呼ばれて驚くムムは、立ち止まって振り返り「はい?」と返事をする。
何か悪いことをしてしまったのだろうか。
不安になる気持ちを抑えオドオドしていた。
しかし、それも直ぐに杞憂だったと知る。
「髪が濡れたままでは風を引くぞ。こっちに来い」
ムムは言われた通りに、ゼノンの前に立った。
「あっちを向け・・・・・・『ドライ』」
ムムに背を向けさせ髪に手を添えて魔法を使用する。
ムムの髪の毛はあっという間に乾きサラサラの髪になった。
そんな髪を見てムムは嬉しくなったのかずっと触っている。
「ゼノン様! ありがとうございます! おやすみなさい!」
「ゼノン様! おやすみなさい!」
「あぁ。」
ムムとライムは寝室へと入っていった。
(おやすみなさい・・・・・・か)
ゼノンは今まで小さい子の面倒を見る機会など一度もなかった。
どう接して、何を話せばいいのかもわからない。
人間との暮らしは未知であり、不思議な体験だった。
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