温かいスープ
目の前には洞窟。
ゼノンが選んだ場所。それは人間の国の辺鄙の村の近くにある洞窟。
過去に一度通った事があり、ずっと覚えていたのだ。
近くには川が流れ、森があり山がある。
そして、目と鼻の先に小さな街があるが問題はない。
ここの洞窟なら自分を知る者も居なければ人もやって来ない。
ここからゼノンのスローライフは始まる。
「ふむ。やはり良い場所だな。そう思わんかライム?」
「そうですね! ここならまったりできそうです!」
「しかし、この洞窟は狭いな。ちょっと待っていろ。想像魔法・拡張」
ゼノンは洞窟に向かって想像魔法を使う。
この想像魔法は彼が産まれた当初から持っていた魔法であり、彼だけのユニーク魔法だ。
「とりあえず三階分くらいでいいな、後は家具に生活品も作っておくとするか」
次々に想像魔法で作り出しあっという間に住める空間に変わった。
「流石はゼノン様です!!!」
「うむ、部屋の仕切りも作ってある。これで私の快適ライフが始められるな。」
一日目は部屋作りに家具作りで一日を終えた。
待ちに待ったスローライフ。
ようやくゼノンのスローライフが始まるのだ。
そう思っていたが、翌日に早速一難がやって来る。
翌朝
いつもは早起きをして魔王の職務に務める。
が、今は魔王を辞めスローライフを送っている為、ゆっくり眠っている。
気持ちよく寝ていると、すごい勢いで、扉を開けライムが入って来た。
「ゼノン様ァーーー!!!!!! 大変ですッ!!!!!! 起きてください!!!!!!」
「んんっ? 朝からそんなに慌ててどうしたライムよ」
眠い目を開けながらも、慌てた様子のライムに問う。
「洞窟の外に! 洞窟の外に小さな女の子が倒れています!!!」
その言葉には流石のゼノンも驚きを隠せない。
何故、このような場所に人間が、それも子供がいるのか。
「何?・・・・・・私も確認する。ついて来い。」
「はいっ!!!」
一先ず確認しなくては何も始まらない。
ゼノンは洞窟から出ると、そこにはライムが言っていた通り、
女の子が倒れていた。
しかも腕は鎖に繋がれている。
(ふむ、奴隷か・・・・・・逃げてきたのだな)
女の子は5歳くらいであり、ボロボロの服にボサボサの髪の毛をしていた。髪色は珍しくピンク色をしていた。靴は履いておらず、足の裏はボロボロだ。
「人間の国は子供でさえ、まともに暮らす事ができぬのか」
「ゼノン様ァ? この女の子どうしますか?」
ライムの質問にゼノンは悩んだ。
ゼノンは子供は疎か、嫁さえ作ったことがない。
それなのにいきなり、子供を育てることは可能なのか。
ましてや、人間の子供をだ。
かといってここに放置するのも後味が悪かった。
考えに考えた、ゼノンは決心した。
「ここに放置する訳にもいくまい。我々で面倒を見るとしよう。親が居るなら届けることも可能であろう。ライム、その人間をベッドに運んでくれ」
「はい!ゼノン様!!!」
ライムは腕のような触手を出し自分の上に乗せ、そのままベッドに連れて行く。
そして、夕方になると女の子は目を覚ました。
「ん? ここはどこ?」
周りを見渡すも自分の知らない場所で困惑する。
知らない天井に知らない部屋。
誘拐されたのかもしれないという恐怖と共に怯えていた。
怖がりながらも辺りを見回す、すると扉が急に開いたのだ。
「あっ!!! 起きたんだね! 体の方はどう? 痛くない?」
凄い勢いで詰め寄るライム。 しかし、女の子は怯えていた。
突如現れた魔物。
初めて見る魔物の為、女の子は怯えているのだ。
「えっ?! スライム?!!! お願い! 食べないで!」
女の子は見たことはないが、スライムが人間にとって敵である魔物だという事は知っていた。
「アハハハッ! 大丈夫だよ! 僕は人間を食べたりしないよ!」
「本当に?」
「あぁ! それよりも体の方はどう?」
「んーとね、あれ? 怪我して足も痛かったのに治ってる!!!」
「ゼノン様が治してくれたんだよ!」
「・・・・・・ゼノン様?」
その時、バタンとドアを開け一人の男が入ってきた。
頭には角が二本生えており白髪で瞳は赤く目つきは鋭かった。
女の子はぶるぶると恐怖に震えていた。
「ゼノン様!!!」
「えっ?!・・・・・・この人が、ゼノン、様?」
目の前にいる怖い人が助けてくれた。
確かに、見た目は怖いが不思議とゼノンから恐怖は感じなかった。
「うむ。起きたか人間。色々聞きたいことはあるがまずは飯を食べろ。こっちに来い。」
女の子は恐る恐るゼノンに付いて行くと、テーブルと椅子があり
テーブルの上には肉や魚等たくさんの料理が並んでいた。
「・・・・・・すごい・・・・・・」
ゼノンは立っている女の子を注視する。
(細すぎる・・・・・・肉は無く皮と骨だけではないか)
「さぁ食べろ。腹一杯になるまで食べろ。まずはそれからだ。」
「この料理は僕が作ったんだよ!!! ちなみに素材の魔物はゼノン様が取りに行ってくれたの!!!」
ライムは笑顔で女の子に話す。
「い、いただきます、」
困惑しながらも、まずはスープをゆっくり口に運ぶ。
一口飲むと女の子はスプーンを止め、下を向き涙を流しはじめた。
ゼノンは、急に泣き出した女の子を不思議に思い聞く。
そんな様子を、ライムも心配そうな顔で見つめていた。
「どうした? 人間の口には合わなかったか?」
ゼノンの言葉に慌てるライム。
「えっ?! ごめんね・・・・・・新しいのすぐ作るね!!!」
椅子を飛び降り厨房へ向かおうとすると、、、
「違う!!!!!!」
急に女の子は叫んだ。
「違うの・・・・・・こんなに美味しいご飯を食べたことがなくて、それであまりにも美味しくて、泣いちゃったの・・・・・・いつもは、カビたパンと雑草の入ったお湯のスープを一日に一回だったから・・・・・・ありがとうスライムさん」
(それでこの体という訳か。体にも傷が沢山あった。恐らく親に虐待されていたのだろう・・・・・・愚かな・・・・・・)
女の子の細すぎる体、そして傷だらけの体を見ていたゼノンはそう推測した。
「そうか。全部お前の物だ。腹が膨れるまでゆっくりと食べるがよい。」
「あ、ありがとう、ございます。二人も一緒に食べよう?」
(こんな幼い子がこんな極限の状態であるにも関わらず、他者を気にするか。人間とは面白い生き物よ)
魔物なら自分が一番。
いや、魔物に限らず全ての生き物がそうなはず。
ましてや、今のこの少女の状況なら尚更。
人間について少し興味を持つゼノン。
「なら三人で食べるとしよう」
「一人増えるだけでも明るくなりますねゼノン様!」
ライムが嬉しそうにそう話すも、ゼノンは何も言わずに食事を続ける。
その瞳はずっと少女に向けられていた。
そんな中ライムと少女は楽しく食事をするのであった。
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