父の想い
娘と極力会わないように避けていたにも関わらず、出会ってしまった。
冷静沈着なガルムであっても、さすがのこの事態には動揺を隠せない。
「ガルムさんすみません!! 急いでエリシアを追い掛けていたらぶつかってしまいました!」
尻もちをつきながらも赤ちゃんをしっかりと抱いている。
そして、ようやく我に返ったガルムはレイラがゼノン達の赤ちゃんを抱いたまま転んでしまった事に気が付くと、急いで駆け寄る。
「す、すまない! レイラ、無事か? ルナお嬢様も無事か?」
優しく腕を持ち、レイラを立たせる。
どうやら、二人ともに怪我はないようだ。
ルナに万が一怪我でもさせたら大変なことになる。
ガルムは安堵すると、再び口を開く。
「本当に済まなかったレイラ。 私も考え事をしていた為
注意散漫していたようだ。 ルナお嬢様も無事だな?」
その時、何故かレイラはガルムの顔から目が離せなかった。
今までも何度かは軽く話したことはあるが、二人きりの状況はなかったのだ。
レイラは彼が自分の実の父親だとは知らない。
だが、何故か他人には思えなかった。
「ガルムさんって、私と同じ水色の目をしているんですね。
知りませんでした。 髪も所々銀色ですし、、、なんだか不思議ですね♪ ありえないのに、なんだかガルムさんが消えたお父さんに見えてきましたよ!」
「ッ?!!! 確かに私に娘がいたらレイラの様な見た目の子が産まれそうだな。 君みたいな子が娘だったらどれだけ幸せか・・・・・・」
感慨深そうに話す。
今すぐ『私が父親だ!』、そう伝えたい。
だが、そんな事は許されない。
レイラは今、ゼノンという新たな父を見つけたくさんの家族と共に幸せを手にしている。
今、自分が出ればその幸せは一気に瓦解するかもしれない。
何せ、理由はあれど自分は実の子供を捨てたのだから。
これでいい・・・・・・。
彼女の顔さえ見れれば。
影から彼女を守ることが出来れば。
例え父と呼ばれなくても、彼女が生きてさえいればそれでいい。
ガルムは言いたい気持ちを抑えた。
「長話をしてすまなかった。 では、私はもう行くとしよう。
あんまり走って怪我をするんじゃないぞレイラ」
そう言ってガルムは再びレイラの横を通り過ぎその場を後にした。
『お父さん』
突如聞こえたその単語に、ガルムは思わず振り返る。
しかし、ここで振り返るのはそれを認める事。
ガルムはやってしまったと後悔するも既に遅かった。
「やっぱりそうなんですね。 貴方が私のお父さんなんですね。
やっと会えた・・・・・・。ずっと、、、ずっと私の目の前に居たんだ、、、うぅっ、、、お父さん、、、」
その場に泣き崩れるレイラ。
ここで否定すれば、まだ自分が父であるという事を防げる可能性はあったかもしれない。
だが、そんな事は無理だった。
目の前で娘が泣いているのに、娘が父と呼んでくれたのに、
それを無視など出来るバスがなかったのだ。
「レイラッ!!!」
ガルムはレイラに駆け寄り抱きしめる。
ルナを潰さないように優しく抱き締める。
「すまない、、、本当にすまなかった。 お前を修道院に預ける形にして、、、本当にすまなかった」
涙を流す、レイラ。
そして、ガルムもようやく父としてレイラに会えた事に感動して涙が止まらなかった。
レイラはただただお父さんと、そう何度も連呼していた。
しばらくの間、二人は涙を流しながらも涙を流しながら抱きしめ合う。
家族の温もりを肌で感じていたのだ。
どのくらいたっただろうか。
二人の涙もようやく落ち着いた頃、急に地面を素早く這うものがやってきた。
「何やらルナお嬢様を連れて行った方がいいご様子!
このライムに任せてよ!!! レイラは久しぶりにお父さんと
お話しな!」
「あ、ありがとうライムさん」
突如現れたスライムのライムに戸惑いながらも、ここは甘えて
ルナを渡す。
すると、そのままライムはルナと消え、ここには自分と父の二人だけとなった。
実に18年振りの再開である。
いや、ガルムは何度も陰ながら見守っていた為、レイラだけである。
二人になり、先程たくさん涙を流し、何やら気まずい空気が流れる。
「あ、あの、、、お父さんは私に近付く為に、お父様、、、ゼノン様に近付いたのですか?」
目の前に実の父がいる為、レイラはゼノンの呼称を言い直す。
「いや、それは違う。 確かにお前の事は前から見守っていたが、私はゼノン様を殺そうとしていた。 お前を守るためにな。
だが、結局返り討ちに合い、今はこうしてゼノン様の下で働かせてもらっている。 そして、お前を失うその日からの全てを話そう。 本人であるレイラには知る必要があるからな」
レイラは自分を産んで捨てるまでの経緯を全て聞いた。
そして、母が病弱で自分を捨てて直ぐに死んだ事も知った。
更に、修道院にいる時に、名も知らない誰かから自分宛に良く金銭が届いたが、その人物が誰かもわかった。
ガルムだ。
レイラは聖女という立場から、何度か攫われたことがある。
しかし、不思議とその攫った相手全てが倒れ、気付けば自分は無事だったのだ。
そして、記憶を思い出せば、あれは確かにガルムの後ろ姿。
いつもいつも、ガルムは自分の為に動いてくれていたのだ。
前教皇から守る為に、陰でずっと守ってくれていたのだ。
レイラは感謝こそあれど、恨むことなど一つもなかった。
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