呼吸
エンレカの真似をしたインプレイマンの背後より突如現れる
エンレカ本人。
インプレイマンの首目掛けて剣を突き立て、この勝負は幕を閉じた。
「なるほどな。 お前達の力は大体わかった。
お前達の世界でもトップクラスの力を持っているようだ。
それに、愛弟子の頼みでもある。
いいだろう。 訓練をつけてやる」
皆もインプレイマンに苦戦すること無く勝利した為、フリードから認められることに成功した。
というより、こんな試すような事をしなくても、元々メフィの家族という事実だけで訓練をしてくれたのだろう。
こんな世界に住んでいるがフリードは面倒見がよく、心優しい人物なのだ。
「それで、どういう訓練をするの?」
メフィが訊ねるとフリードは顎を触れながら思考する。
「そうだな。 お前に過去やった訓練でいいだろう。
今から全ての能力をあげるなど、いくら時間があっても足らぬ。 つまり、お前達のステータスでずば抜けている部分を更に磨く。 シン、お前は『速さ』 バリアン、お前は『力』を
リリア、お前は『魔法威力』、フレイ、お前は『魔力操作』
そして、最後にエンレカ、お前は『体術』だ」
その言葉に皆が頷く。
確かに、今フリードが言ってくれたものは自分でも得意と思っており、自他ともに認める才能だ。
だが、それも限界を感じてきており最近はなかなか成長する事を感じられない。
「更なる速さを目指せると? 一体どうやって、」
シンはこの中でも一番力を欲している為、その理由を早く知りたい様子。
いや、皆もシンと同じだ。
フリードの顔を見つめていた。
「そうだな。 例えばシン、お前は脚を速くするにはどうする?」
「脚を鍛え、走り込む」
何を当たり前のことを聞いているのだ? と言わんばかりに不快な顔をするシン。
「そうだ。 だが、全ての生き物において、限界値はある。
その限界値までいけるものは極わずかであろう。
だから、普通のもの達が限界という壁にぶち当たることは無い。 何故なら、普段からそこまで鍛錬をしていないからだ。
だが、お前達は違う。 日々弛まぬ鍛錬を積んだおかげで
限界値まで皆が来ている。 ならば、脚を鍛えたところで上がらないのは当たり前。 ならば、どうするか。 他で上げるのだ。 シン、お前に課す訓練は『呼吸法』だ。 ただの呼吸と侮るなよ? これから血反吐を吐くほどに訓練してもらうからな。 そして、ちゃんとした呼吸法を手に入れれば、お前は誰よりも速く走れるだろう」
シンはフリードの言葉を馬鹿になどしない。
何故なら自身でも色々試したからだ。
走る際の呼吸が大事なのは知っている。
だが、その訓練は効果に身を結ばなかった。
だから、諦めたのだ。
だが、目の前にはちゃんとした教師がいる。
シンは諦めかけていた呼吸を次こそはモノにする為、やる気に満ち溢れていた。
「バリアン、お前も同じだ。 そして、リリア、フレイ、エンレカ。 皆が呼吸法を練習してもらう。
ちなみに私はふざけてなどいない。 反論は受け付けぬぞ。
命あるもの、全てが呼吸を必要とする。
そして、動く時もそうだ。詠唱する時もそうだ。
集中する時もそう。 全ては呼吸から始まる。
何故、地上世界で呼吸を学ばせないのか理解に苦しむが、
お前達はここで学ぶことによって、遥高見へと登れるだろう」
シン以外の四人も頷く。
「ちょっと待って! 私の訓練内容は?」
突如メフィが手を上げる。
「ん? お前は既にこの工程を終了しただろう。
これ以上強くなって何がしたい?」
メフィは既に呼吸法もクリアしている。
ゼノンに次いで強いのだから、これ以上強さを求めてもあまり意味がない気はする。
そして、メフィも今までは力を必要としていなかった。
だが、それでも今のメフィには力が必要なのだ。
愛する人が魔神と戦うため、自分だけで背負い込もうとしているのだから。
妻として、愛するものとしてゼノンを支えると誓ったから。
「私は愛する者を守るために強くなりたい。 フリード、お願い。 更なる高みへ私も登らせて」
いつもはほんわりとした彼女が真剣な面持ちでそう訴えてくる。
ここまで言われてしまえば流石に無下にはできない。
「ふぅ、久しぶりの再開と思ったらこれか。
だが、お菓子を貰った恩もあるしな。 俺は一方的な恩を貰うのが一番嫌いだ。 恩には恩を。 よかろう。 メフィ、お前は後で俺が訓練を施してやる。 だが、途中で投げ出すな。最後までやり遂げろ。 愛する者を守る為ならな」
フリードの力強い眼差しにメフィも大きく抜き頷く。
「もちろん。 私は逃げない。 絶対に!」
「ふふっ、 いいだろう。 では早速お前達の訓練を始める。
呼吸とは生きる為には不可欠なものだ。 加えて、必要な動きの時に必要な呼吸を合わせてやれば、効果は二倍となる。
水に潜る時も水面で深く早い呼吸をすれば普通よりも長く深く潜ることが可能となる。 そして、走る時も二度吐き、二度吸えば
普段よりも長く、速く走ることが出来る。
つまり、この原理を利用してお前達の呼吸法を作り、さらなる強さを目指してもらう」
五人は頷きメフィは見守る。
ただの呼吸法とはいえ、エンレカはまだだが、四魔将の四人は既に限界値を踏み込んでいる。
そんな彼等を更に上へと登らせるのだから、そんな簡単にいくわけがなかった。
何せ限界突破させるのだから。
当然、呼吸法を身につければ次は身体の訓練も行う。
限界を超えて動けば身体が悲鳴をあげてしまう。
つまり、この訓練の先はまだまだ長いということだ。
悪戦苦闘しながらも、訓練に励む五名。
だが、この訓練が終わった時、彼等は全くの別人へと成り代わるのであった。
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