第三の島
「中々に楽しめますね。この島は。 ここまでの力を解放するのはそれこそゼノン様と戦って以来ですよ」
次なる島へ向かいながらそう語るジグルド。
実際、元いた世界では三大恐慌が本気を出す様な相手はいない。
それこそ互いに戦えば本気でやり合えるが、それこそ世界が滅んでしまう。
流石の三柱も、そこまで鬼畜では無い。
無害なもの達をこちらから殺るのは気が乗らない。
それ以前にゼノンに堅く禁じられているのだ。
もし、約束を破り人間たちやエルフ達、ドワーフや獣人族に魔族を殺ったとあったらゼノンに自分達が殺されてしまう。
そんな悪手は絶対に踏まない。
「それに、先程の牛もあの魔法が完成していなかったら
通じる技は無かったでしょう。 まぁ、魔力が枯渇しても大丈夫なら一つだけ必殺技はありましたが」
「なんやわれ! まだ隠し玉を残しておったんか!」
「それは実に気になるのう」
「大丈夫ですよ。 そのうち見れます。 きっとその技を出しても厳しい相手がこの先にいるでしょうから」
そうこうしているうちに次なる島へと辿り着く。
しかし、今までの二つの島とは構造が全く違う。
「密林か?」
そう。今までは草原で見晴らしがよかったが、今回の島は
ジャングルなのだ。
一本一本の木も高く、森の中は薄暗くなっている。
そして、この島の相手が見当たらないのだ。
魔力探知にも引っ掛からない。
「おかしいぞえ。 本当にここに敵はいるのか?」
シエンが不思議そうに首を傾げる。
この島には自分達四人の魔力反応しかないのだ。
産まれたての赤ちゃんでさえ多少の魔力はある。
つまり、魔力探知を遮断する何かがあるのだ。
「ほんまやな! この森のせいやろか?」
「なんだか気持ち悪いですね。 中に入るのは得策ではなさそうです」
目の前のジャングルに不気味さを感じる三柱。
そんな中ゼノンはただ森を真っ直ぐ見据えていた。
「魔力探知ばかりに頼るな。 殺気を感じろ。 奴はこの島に入ってからずっと私達を見ているぞ」
ゼノンの言葉に驚く三柱。
そして、すぐ様臨戦態勢をとる。
確かに僅かながら、鋭い殺気を感じる。
この目の前の森の中から。
「面白いのう。 二人は一回ずつ戦った。 次は妾の番じゃな」
シエンがそのまま、森に向かい歩き出す。
「おい! 気を付けろよ! どこから来るか分からねぇんだからよ!」
「シエンさんに限り後手は踏まないでしょうが、油断なさらないように」
「行ってこい。 お前ならやれるだろう」
三人がそれぞれエールを送るとシエンの口元が緩み微笑んでいた。
そんな自分の姿に自分でも驚く。
(今、妾は笑ったのかえ? 不思議じゃな。 これが仲間の想いというやつかのう。 ならば余計に負けられぬな)
シエンは心の中でそう思いながら森へと入って行った。
森の中は外から見るよりも暗く不気味であった。
当然生き物もいないし風も無い為、何も聞こえないのだ。
聞こえるのは自分の足音のみ。
こんな場所に普通の人間が入ったら発狂してしまうだろう。
それほどに森だけでも危険な場所だ。
シエンは周りを警戒しつつ、そのまま歩を進める。
「なるほどのう。 ここの敵はお前か。 随分と怖い顔をしておるのう。 初めて見るよりも魔物じゃ」
シエンが見つめる木々の奥からコチラを睨み付ける一体の魔物。
体はオレンジ色に黒い模様があり、爪と牙は鋭く尖っている。
そして何よりその顔が恐ろしかった。
ここの相手は『虎』である。
今までの二体とは比べ物にならない程の強さを持っているだろう。
そして、驚くべき事に虎を前にしても魔力は感じられなかったのだ。
「コヤツ、魔力を持っていないだと? そんな生き物がこの世に居るのか?」
今までそんな生き物は聞いたことが無い為、シエンが不思議に思っていると、虎は急にやってきた。
「ガアアッ!!!」
先程まで遠くにいたのに、突如目の前にまで跳躍してきた虎。
この虎は実際に魔力はなかった。
だが、魔力が無い代わりに圧倒的な身体能力を神より与えられていたのだ。
腕の一振で倒れる大木。
岩をも砕く顎。
そして、敵を見失うことの無いその目に耳。
その全てがほかの生き物より数段も秀でているのだ。
「面白い! まずは小手調べじゃ! 龍の息吹」
人間形態ではあるものの、手をかざし獄炎魔法を撃ち放つ。
周りの木々は一瞬にして、燃炭へと変わるも虎は多少の火傷しかしていなかった。
どうやら、虎の体毛には耐熱性がある様子。
それもかなり高度な。
となると、次に試すは近接戦。
シエンの爪が鋭く伸びる。
それはまさにドラゴンの爪だ。
「次は硬さを調べようかのう!!! 龍の爪撃」
五本の爪から虎に向かって斬撃を飛ばす。
その斬撃は大木をも切り裂き、そのまま虎目掛けて飛んでいく。
当たると思われたその時、虎は背中を丸め斬撃に向けていた。
避けることなく自ら当たりに来たことに驚くシエン。
だが、その理由も直ぐにわかった。
シエンの飛ばした斬撃は、虎に当たるも、そのまま逸れてしまったのだ。
まるで受け流したかのように。
「ほう? 中々やるのう。 硬い上に火も通らぬか。
となると、妾の苦手分野の相手じゃな」
余裕の表情でそう語るも、実際にそんな余裕はない。
何せ、シエンの技は尽く跳ね除けられているのだから。
そう考えていると虎はすぐ様飛びかかってきた。
一撃一撃が致死的なその攻撃。
シエンといえど、当たれば再起不能になるのは当たり前。
虎の攻撃をなゆとか避けつつ躱していく。
そして、今まで爪と牙だけだった技から突如尻尾も交えて攻撃をしてきた。
咄嗟のことに反応が遅れ、ガードした腕の上からモロに攻撃を喰らってしまう。
あまりの威力に防いだものの吹き飛ばされ木々を薙ぎ払う。
「ガハッ!!!」
大木にぶつかり、ようやくその勢いがおさまる。
どうやら、見た目以上にダメージは喰らってはいない様子。
少し体が痛む程度であった。
「ふぅ、まさかここまで強いとはのう。 妾が一番のハズレくじを引いたのか? 、、、いや、ハズレくじを引いたのはお前だ猫助」
突如シエンの身体が光り出すと、なんと古代の龍の姿に戻ったのだ。
その威圧感は半端なく、虎も思わず後ずさりしていた。
いや、驚いているのかもしれない。
何せ人間だと思っていた相手が突如龍へと姿を変えたのだから。
だが、虎は怯むことなく再びシエン目掛けて爪を立てながら飛びかかる。
というよりも、殺らなきゃ殺られると本能で感じ取り、慌てて
突っ込んでいるようにも見える。
その焦りはシエンも感じとっていた。
「どうした猫助。 不安に恐れがヒシヒシと感じ取れるぞえ?
先程の龍の息吹は本体の半分にも満たない威力なのじゃ。
つまり、これが本物。 龍王の息吹」
とてつもない熱量の破壊光線が口より放たれる。
虎も避けようとするが、光線の範囲も先程よりも広く、更に
速さも段違いの為、避けきれない。
虎は一瞬にして消し炭となり、辺り一面の森も灰と化した。
シエンの余裕の勝利だ。
気付けば、結局シエンの圧倒的勝利に終わるのであった。
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