法の改変
「なるほどのう、、、あやつの生き残り達がな」
エンレカの話を聞き、感慨深そうに俯く国王。
穏健派な国王に対し、過激派な教皇派一派。
この国でも奴隷は同じ人間として扱うようにと法が敷かれている。
それでも、中にはエンレカが殺したような奴もいるのだ。
奴隷を人ではなく物のように扱う貴族が。
「ならいっその事、教皇派の腐ったヤツらだけ皆殺しにすればいいのではないか?」
ここでゼノンが恐ろしい解決策を出す。
「それがそういう訳にもいかぬのだ。 弟は主に軍事を指揮する貴族達を従えていた。 そして、数多くの将軍達が教皇の派閥に 入っていてな。 もし、そのもの達を皆殺しにすれば魔物はもちろん、他の種族や盗賊などから好き放題に攻めてこられてしまう。 元教皇派の将軍達も、言うなればこの国の盾を担っておるのだ」
国王の話を聞きゼノンも険しい表情をしていた。
「ならば、いっその事軍事の爵位を皆変動すればよいのではないか? 国王派の者達でな」
「そうなれば、この国はまた2つに別れてしまいます。
教皇は居なくなれど、その残党達はまだかなりの数がいるのですから」
ゼノンの案に宰相が待ったをかける。
そんな人間の情勢に面倒だと思うゼノン。
「方法を見つけなければ、事の発端であるエンレカ殿には申し訳ないが死んで償ってもらわなければならないでしょう。ですが、、、」
宰相はそう話すも恐る恐るといった感じでゼノンの顔色を伺う。
「そうだな。 エンレカを殺すというのなら私は全力で阻止する。 これは、知り合いだから贔屓している訳では無い。 彼女は何も悪いことはしていないのだからな。 そもそも、法を先に破ったのは奴隷を殺した人間なのたろう?」
そこで宰相は閃いたかのように顔を上げる。
「そうか! 『法』ですよ国王! 法を見直すべきなのです!
『奴隷も人間と同じ扱いをする事』 ここまでが以前の定められていた法となります。 ですが、殺すなとは書いてありません。
何せ、殺さないことは前提なのですから。 ですが、万が一今回の様に殺した場合の罪はどうするかなど、書いてはありません。
なので、この法に新たに追加しましょう。
『奴隷も人間と同じ扱いをする事。 これを破る者は、国王の名の元、相応の罰を与える』と記せば宜しいのです」
国王もそれに共感したのか、直ぐに取り掛かるように指示を出す。
そして、今回のエンレカの処罰も決めなくてはならない。
でなければ教皇派の貴族達が最悪、反旗を翻す恐れもある。
「エンレカ殿には悪いがSランク剥奪、そして鞭打ち50回、更には1年の監禁で納得してもらえないだろうか?」
どんなに悪人とはいえ、人を一人殺めたのだから、当然と言えば当然なのかもしれない。
エンレカは静かに頭を下げる。
「陛下の配慮感謝致します。 命があるだけで十分です」
命があればなんとでもなる。
国王の命に避難することなどない。
あるのは感謝のみだ。
「すまないな。 だが、私とて女性に鞭打つなどとてもじゃないが寛容はできぬ。そこで、ゼノン殿。貴方の魔法で変わり身などは作れぬだろうか? その間エンレカ殿には隠れてもらい、その身代わりに罰を与えるというのは可能だろうか?」
その言葉にゼノンは目を見開く。
まさか、国王の口からその様な言葉が出るとは思わなかった。
エンレカを思っての事か、はたまた、自分を恐れての事かはわからないが、どっちにしろ国王の案は魅力的である。
「うむ。 私も同じ事を考えていた。そして、その魔法なら私ではなく妻のメフィーロが得意であろう。 刑の執行日が決まったなら直ぐにメフィに頼むとしよう」
メフィは自然の全てを司る。
森羅万象の魔法を操るその手腕は、そして、繊細さはゼノンよりも上をいくのだ。
「なるほど、ではその様に手配しましょう。 一先ず、エンレカ殿にはしばらく牢屋にて入って頂きます。 どこで噂が流れるかわかりませんので。 もし、メフィーロ様が明日にでも来られる様ならば、直ぐにエンレカ殿は解放し、身代わりを入れ、エンレカ殿にはどこかで隠れていてもらうというので如何でしょうか?」
そうだ。
どちらにせよ、エンレカは一年ほど外へ出る事は叶わない。
一年の監禁刑を課せられるのだから。
ならばいっその事、、、
「明日メフィと共に参る故、エンレカは我が家で預かろう。
当然外には出さない。 そして、私自ら監視する。
どうであろうか国王よ」
その言葉に皆が目を見開く。
だが、確かにゼノンの家ほど安全な場所もない。
何せ、この王城よりも守りは鉄壁なのだから。
「ゼノン殿がいいのなら私は構わぬ。 そもそも、私に拒否権はなかろう?」
その言葉にゼノンは少し微笑むと国王も微笑んだ。
「では、明日迎えに来る。 今日は一日監獄で我慢してくれ。
よいか?エンレカ」
「そ、そんな! 我慢など! 本来なら私は死刑の身! 陛下と宰相様、そしてゼノン師匠のご厚意には頭が上がりません。
本当にありがとうございます」
エンレカは椅子から立ち上がり、その場に土下座をし頭を下げていた。
そして、床に溢れ落ちる涙。
みんなへの、感謝の涙だ。
「ゼノン殿が居なければ私達は君を処刑していただろう。
私に感謝される覚えは無い。 済まなかったなエンレカ殿。
Sランクとして国の為に頑張ってくれたというのに。
この無能な王を許してくれ」
国王も膝をつき、エンレカの手を取った。
そんな恐れ多いの光景にエンレカもただただ謝り頭を下げる。
そして、ゼノンも国王の器の大きさに少し驚いた。
(これが善王と言われる所以であろうな)
こうして、エンレカの変わり身作戦は始動するのであった。
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