正しい判断
ある日の朝、人間達が急にやってきた。
既に洞窟の前には衛兵達が構えている。
ゼノンは記憶力が良く、衛兵を見ると知ってる顔がいた。
レイラを探していた奴だ。
つまりこの衛兵達は・・・・・・。
「す、すみません・・・・・・私を追ってここまで来たのですね。皆様に迷惑をかける訳にはいきません。私が出ます!」
レイラは皆の事を思い、そして自分のせいでこの家が調べられるのはマズいと思い、出て行くことを決心する。
(ふむ。足が震えているな)
急にムムが泣きそうになりながらレイラの服を掴む。
ムムもレイラと離れるのが嫌なのだろう。
それもそうだ。今では姉のように慕い、毎日魔法を教わっているのだから。
そんなムムにレイラは笑顔で
「ごめんなさいムムちゃん、もう魔法を教えてあげる事は出来ないけど、ゼノン様もきっと使えるから大丈夫ですよ!」
ムムの不安を取り除く為に優しく語りかけた。しかし、
「ち、違うよ!!! 魔法は別にいいの!!! レイラお姉ちゃんと離れるのが嫌なんだよ!!! 行かないで・・・・・・」
涙を流しながらそう話すムムに、レイラも我慢していた涙が溢れ出す。
「ム、ムムちゃん・・・・・・あ、ありがとうございます・・・・・・」
二人は抱きしめ合い涙を流す。
「ゼノン様、私が燃やし尽くしてきても構わないでしょうか?」
リリアもレイラとムムのやり取りを見て、何かしらを感じ取ったのだろう。
そして、それはゼノンも同じだ。
「・・・・・・いや、私が行こう。お前達は中に居ろ」
「?!!!!」
まさか、ゼノンが出るとは思わず皆が驚く。
「せめて私だけでもお供します!!!」
ゼノンに限ってはないが、万が一に備えてリリアも同行する。
「うむ。では、行くぞ」
ゼノンはリリアを従えて外に向かう。
「ゼノン様、本当にすみません。ありがとうございます」
涙ながらにそう話すレイラ。
「お前が気にする必要は無い。お前も我が一員だ。では行ってくる」
こうして外へ出ると衛兵達と対面した。
ざっと数えて30人くらいの衛兵が整列していた。
「むっ!!! 出てきたな?!」
隊長らしき人物がそう口にする。
「貴様ら何をしにここまで来た?」
「貴様ッ!!! なんだその物言いは!!! 無礼だぞ!!! ここに聖女が居るとの報告が入った!!! 早く出せッ!!!」
ゼノンの態度が気に入らなかったのか、隊長は激昂していた。
「聖女? ふむ。知らぬな! この女を聖女と間違えたのであろう、なぁリリアよ」
「そうですねゼノン様。見間違いでしょう。無駄足ご苦労! さっさと王都に戻るんだな」
挑発ともとれるその態度に、そして侮辱された事によりとうとう隊長の堪忍袋の緒が切れる。
「貴様らッ!!! 先程から舐めた態度をとりおって!!!!!!」
しかし、ここで副隊長の一人が何やら怯えた様子で隊長に話しかける。
「た、隊長!!! あの二人、ゼノンとリリアと言っていました!!! あの二人はひょっとすると、大魔王ゼノンと炎獄のリリアではないでしょうか?! ここは引きましょう!!!」
魔界に詳しいものならその名は誰でも知っている。
だが、隊長はその言葉を信じはしなかった。
それはそうだ。こんな場所にそんな大物がいるわけない。
普通ならそう思うのが当たり前。
「はっ、何を馬鹿なことを! この様な辺鄙な地にそんな大物が居るわけないだろうが!!! お前達!!!さっさと中に入らぬか!!!」
しかし衛兵達も副長の言葉を信じており、皆が前に進めずにいた。
そんな衛兵達を見た隊長は痺れを切らしあろう事か衛兵の一人を斬ったのだ。
「ぎゃーーーッ!!!」
「た、隊長何をッ?!!! 味方を斬るなど許されることではありません!!!」
副隊長がその蛮行に対して注意するも、聞く耳を持たなかった。
「黙れッ!!! 貴様らが私の言う事を聞かないからだぞッ!!! 同じ目に遭いたくなければさっさと行かぬか!!!」
あまりにも自分勝手で横暴な態度に、衛兵副長は怒りに震えていた。
その時、衛兵隊長に呆れたゼノンが口を開く。
「おい、お前。手下を使わずお前が自分で来ればよかろう。それとも隊長というのはお飾りか? 恐れているならそのまま指示だけ出せばよかろう 」
そんな言葉に衛兵隊長は顔を真っ赤にする。
「き、貴様ッ!!! この私を愚弄するかッ!!! キエェーーー!!!」
剣を握り締めゼノンに斬りかかる。
仮にも彼は隊長であり、実力は確かなものであった。
しかし相手が悪い。いや、悪すぎる。
ゼノンは右手を突き出す。
「最初から貴様が来い。雑魚の分際で私の時間を無駄にするな。 心臓は我が手中に」
ゼノンの右手に衛兵隊長の心臓が出てきた。
何が起きたのか分からない衛兵隊長だが確かに体の中から何か抜けるような感覚に襲われた。
そして、ゼノンが掴んでいる『心臓』に気付いた時、彼は絶望する。
「き、貴様、ま、まさかその心臓は!!!」
恐る恐る訊ねる。答えは分かってはいるがそれでも聞いてしまう。
そして、案の定、
「あぁ、貴様の心臓だ。悪いが時間が惜しい・・・・・・消えろ」
ゼノンは心臓を握り潰すと、そのまま衛兵隊長は血を吐き倒れた。
一撃のもと絶命した。
そして、その光景を見ていた副隊長も恐怖に震えていた。
「し、死んでる・・・・・・曲がりにもこの人は衛兵隊長の座を実力で取った。その隊長を呆気なく殺すとは・・・・・・やはり貴方は・・・・・・」
「さぁな。だが、命を無駄にしたくなければ引くことを勧めるぞ?」
ゼノンの忠告に放心状態であった衛兵達は我に返る。
そこからの行動は速かった。
「はっ、はい!!! お前ら聞いたな!!! 命を無駄にしたくなければ即刻退却だ!!! この洞窟に聖女は、居なかった! そして隊長は事故で死んだ! 良いな?!!!」
「はい副長!!!」
「見逃していただき感謝します!!! 失礼ッ!!!」
台風の如く、消え去る衛兵達。
衛兵副長の正しい判断で、衛兵達は生きたまま王都へ帰ることが出来たのだった。
「私の出番はありませんでしたね・・・・・」
最近戦う事が少ない為かリリアは、発散出来ずにいた。
そこでゼノンは一つの案を出す。
「うむ。リリアに見合う練習相手を出してやろう」
「ほ、本当ですか?!!! ありがとうございます!!!」
ゼノンの言葉に、先程まで落ち込んでいたリリアも笑顔になっていた。
彼ならリリアや四魔将にも遅れをとらないだろう。
いや、下手をすれば四魔将でも勝てないかもしれない。
そして翌日、ゼノンの家はダンジョンへと変貌する事になった。
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