古代の龍
まだ朝日が昇り始めた頃
ゼノンは出かける支度をしていた。
目的地はもちろん古代の龍がいる場所だ。
一度は行った事があるため、瞬時に転移する。
そして目の前にいるのは白銀の美しい一体の龍。
恐ろしいほどの魔力を秘めており魔力量はゼノンより少し少ない15万弱。
ゼノンとほとんど大差なく間違いなく、ゼノンに次いで強い生き物の一体である。
いや、戦い方次第ではゼノンをも超えるかもしれない。
そんな古代の龍の前に立ちはだかるゼノン。
そして、古代の龍もゼノンを見据えている。
「シエン、久しいな」
気軽に愛称であるシエンと呼び、話しかける。
ゼノンにはなんの緊張感もなかった。
「誰かと思ったらゼノン。 久しぶりであるな。 ここへは何をしに来たのだ?」
突然の来訪に驚く。
何せ最後に会ったのは数百年前である。
それ以来顔を見せに来ることなどなかった。
「シエン。 お前は人間達を滅ぼすのか?」
いきなり核心を突く発言。
そして、まさかゼノンからそばの言葉出てくるとは思いもしなかった。
まるで不安そうに話すゼノン。
だとしたら何故魔王であるゼノンが人間を哀れむのか理解できない。
「先に手を出したのは奴ら。 それにあろう事か子供を狙っての蛮行。 決して許されないぞ。 その幼龍は妾も面識があったのだ。 殺った奴らを殺し、龍に手を出したらどうなるか思い知らせてやるのじゃ」
やはり殺る気であった。
それはそうだ。 仲間が、それも子どもが殺られれば誰だって怒る。
「そうか。 私は今人間界に住んでいるのだ」
その言葉に目を見開き驚くシエン。
あの魔王が何故?
考えても分からないことだった。
「私はな、争いに疲れたのだ。 何十年も何百年も戦い続けてきた。 もううんざりだ。 そこで人間界の秘境の地で隠居生活をしていた。 そしたら、追われるものや捨てられたもの等、多数の種族が集まり今では大家族へと変わっていた。 そして、私に人間の子供が三人も居るのだ。 どうだ? 信じられぬであろう」
ゼノンの言葉に驚愕する。
思わず開いた口が塞がらないといった感じだ。
確かにあのゼノンからは想像がつかないのかもしれない。
でも、不思議と納得できる部分もあった。
最初の頃こそ好戦的な男であったが、次第にその目は闘争心を沈め穏やかな青年へと変わっていた。
シエンの方が遥かに長い年月を生きている為、ゼノンの成長もシエンが一番知っているのだ。
前はよく、遊びに来ては戦いを挑み、己を鍛えていた。
そして、いつしか最強の魔王として恐れられる存在となったのだ。
つまり、今のゼノンの強さはシエンに鍛えられたものでもあるのだ。
配下ではなく同率の仲間。
それがゼノンとシエンの関係性だ。
そして、ゼノンの言葉でシエンも理解した。
「つまり、、、人間界を滅ぼすのをやめよ。そういう事かの?」
突如激しい殺気がゼノンに向けられる。
その殺気の凄まじさに地面が揺れ、空気が揺れる。
だが、それで怯むゼノンではなかった。
そして、ゼノンの口から思いもよらぬ言葉が出てくる。
「うむ。だが、お前達の仲間に手を出した人間達は捕まえて
必ずやお前の元へ連れてこよう」
その言葉に目を見開くシエン。
つまり、人間に愛着が湧いた訳では無い。
大切なのは家族。
そして、人間に限らず全ての生き物が、自分の犯した過ちは
制裁さへるべきだと。
「なるほどのう、、、それならいいだろう。 だが、妾の怒りも
どうにも収まらぬ。 どうじゃろうか? 久しぶりに一戦交えぬか?」
その言葉に対して特に驚くことも無くゼノンは了承する。
普通の者なら、しっぽを巻いて逃げるだろう。
だが、ゼノンも不思議と戦うことに高揚感を覚えていた。
ゼノンが全力を出して戦える相手。
恐らく、シエンただ一体だけだろう。
「構わぬが結界は張らせてもらおう。お前と本気でやりあえば
世界が、この星が滅ぶやもしれぬ」
拡張無しにその通りだ。
二人の膨大な力がぶつかればこの星は耐えきれないかもしれない。
「それは妾もわかっておる。仲間達に被害が出ては意味が無いからのう。妾の力も貸そう」
そうして、二人の力で結界を張った。
恐らく巨大な隕石が降っても弾き返せる程の結界。
これなら二人が全力で戦っても数十発はもつだろう。
二人が向かい合う。
そして、山の周りにはドラゴンがその行く末を眺めていた。
自分達の長と戦う魔族。
だが、誰もその魔族を侮る事などない。
皆がシエンに、自分と互角かそれ以上の魔族がいると教えられてきたからだ。
そして、ドラゴン達もシエンと対峙する魔族の魔力量から察して
本人だと知る。
「いくぞシエン。本気でな」
「あぁ、共に本気を出せるいい機会。存分に楽しもうぞえ」
二人の押さえ込んでいた魔力が一気に開放される。
なんと、その魔力に当てられてか、結界の外に居るにも関わらず
次々とドラゴン達が気絶し墜落していた。
魔力酔いである。
あまりにも高い魔力に酔ってしまったのだ。
強いドラゴンでさえ、意識を保つのがやっとの様子。
しかし、シエンと対峙している魔族は平気な顔をしていた。
「あの、魔族、、、化け物か?! 龍王様の魔力に当てられて平然としておる」
「力が互角以上というのは本当のようだな。 今まさに、目の前では天災と天災が戦おうとしているようなものだ。 我々にはどうする事もできないだろう」
ドラゴン達が見守る中、今二人の戦いが始まろうとしていた。
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