予期せぬ事態
門兵は目の前の光景に開いた口が塞がらない。
なにせ、あの無気質とも思われるシンが女性と二人きりで帰ってきたのだから。
「お、お帰りなさいませシン様!」
緊張気味にそう話す門兵。
「お前の思っている様なことではない」
ギグっとする門兵。
そして、心の中でそりゃそうだよなと納得する。
そうして、門を通ると中にはハドソンが居た。
「これはこれはシン様、お帰りなさいませ。本日は御友人も御一緒のようですね」
ハドソンの行動の一挙手一投足までも洗練されており、執事の鏡であった。
「あぁ、父上と母上は帰っているか?」
まずはミネロヴァのことを話さなくてはならない。
「ゼノン様とメフィ様は火急の任務につき、外出なされました」
その言葉に眉をピクっとさせる。
あの二人が出る程の火急の任務。
即ち只事では無いのだろう。
恐らく以前話していた転生者達の件だと推測した。
「分かった。 では、父上達が戻るまで待つとしよう。 行くぞ」
そうして部屋へ向かうと前の方からちょうどトラリーがやってきた。
「あっ! シン兄さん、おかえりなさい! それと・・・・・・ミネロヴァ先輩?」
トラリーは以前の親善試合を覚えていたようでミネロヴァの事も直ぐに思い出した。
しかし、どうしてここに居るのかはわからない。
首を傾げていると、
「初めまして。 シンさんな弟君だね。 私の名前はミネロヴァ。
明日から貴方と同じ学校に行くの。 これからよろしくね」
「は、はい! トラリーと言います! こ、こちらこそよろしくお願いします!」
トラリーは慌てた様子で答える。
しかし、慌てる理由もわかる。
ミネロヴァが綺麗すぎるのだ。
フレイやレイラ、リリアもかなりの絶世の美女であるがそれにも
劣らぬ程に整った顔をしているのだから。
青みがかった綺麗な髪に白い肌。
そして、細くも出るところは出ている。
つまり、完璧であった。
思わず見惚れていると、
「トラリー、今日は勉強は教えてやれそうにない。
すまない。 後日必ず埋め合わせをする」
ミネロヴァが居るのだから無理なのはわかっていた。
「ごめんなさい。 私のせいで。 もし、よかったら私は気にせず
弟君に教えてあげて?」
ミネロヴァも申し訳なくなってきてシンにそう伝えるも、
「いや、大丈夫ですよ! 今の所なら僕でも出来るので!
それよりも、ミネロヴァさんもゆっくりしていってください!」
気を遣うトラリー。
なにせ、あのシンが女性を家に連れてきたのだから。
3年生とはいえ、ここを邪魔してはいけないことくらい分かっている。
と言っても事情が事情なだけに、トラリーが思っているようなことではないのだが、トラリーがそれを知る由もなかった。
ミネロヴァはシンの部屋へと入ると、辺りを見渡し観察した。
シンの部屋は驚く程に何も無く、あるのは訓練道具とベッドのみ。
娯楽の様な物は何一つ置いていなかった。
だが、不思議とシンに似合う部屋だなとも思う。
むしろ、シンの部屋が物で溢れている方が意外かもしれない。
その場に座ると長い沈黙が続く。
ミネロヴァはいったいこの沈黙がいつまで続くのかと不安に思って耐えきれなくなり口を開いた。
「あ、あの、さっきは本当にありがとう。 シンさんが居なかったらどうなっていたか・・・・・・だから! 本当にありがとう! 」
ミネロヴァの感謝の気持ちが凄い伝わる。
それほど追い詰められていたのだ。
「たまたま通っただけだから気にするな。 それにせっかくレイラが治した傷をまたやられたら二度手間にもなるしな」
「レイラさんは妹さんだっけ?」
「あぁ、そうだ」
「そう、、、なんだ、、、」
ミネロヴァはどこか悲しげな表情になっていた。
別に不満がある訳では無い。
ただ、自分を守ってくれるためではなく、妹が治療したのに二度手間になると、、、
それを聞いたら胸が締め付けられるよう感覚になった。
そんな事を思っているとシンがミネロヴァの懐から飛び出ている
短剣を見つけた。
「ん? それはなんだ?」
シンの目線を辿ると短剣に目がいっていた。
「あっ、これは死んだお母様の形見なの。 幼い頃に亡くなったから記憶はあまりないけど、この短剣を持っているといつもお母様が近くに居る気がするの。 でも、この短剣を使って何度も自害を考えた、、、いっその事お母様の元へ行きたいって思った」
短剣を握り締め目を泳がせるミネロヴァ。
こんな子供が自害寸前まで追い込まれていたのだ。
シンはじっとその短剣を見つめるだけで何も口にはしない。
するとミネロヴァは不意に立ち上がった。
「今日はありがとうシンさん! 私はもう大丈夫だから行くね!」
そう言ってドアの取手に手をやるも、その手をシンに掴まれた。
驚くミネロヴァ。
「は、離して! 私はもう大丈夫だから! シンさんはリリアさんとレイラさんと仲良くしていればいいんだよ!!!」
ミネロヴァはなんでこんな八つ当たり的な事を言ってしまったのか自分でも意味がわからなかった。
シンに好意を寄せており、嫉妬していた事にまだ気付いていないのだ。
「何が大丈夫だ」
シンはそのまま片手でミネロヴァの両手を上に上げて壁に押し付ける。
流石に男の力には勝てないようで、ミネロヴァは両腕を拘束されたまま身動きをとれなくされていた。
「や、やめて! 私なんか別に一人でいいんだから! シンさんだって別に、いやいや私を助けなくていいよ! 妹の為にとか! 自分がやりたくない事はやらないでよ!」
涙ながらに声を荒らげるミネロヴァ。
今までの事もあり精神が不安定なのだ。
そんなミネロヴァの言葉をシンはずっと黙って聞き見つめる。
その時だった!
「お前は・・・・・・ッ?!」
シンが何かに気付く。
「コンコン! シン兄さん? なんか声が聞こえてきたけど大丈・・・・・・夫? あれ? いない。 気のせいかな?」
ミネロヴァの声に反応して、トラリーが様子を見に来たのだ。
流石に先程の姿を見られるわけにはいかない為、神速でクローゼットに隠れた。
ただ、運の悪い事にいきなりの事もあって一番近くにあった狭い場所に入ってしまったのだ。
二人がギリギリ入れるであろう空間。
そして、ミネロヴァは先程同様に何故か両腕を上に吊るし上げられていた。
更に、不可抗力であるとはいえ、シンの足が、、、
「んっ・・・・・・シ、シンさん、、、あ、ッ?!」
突如シンに口を手で覆われる。
すぐ外にはトラリーが居たから声を出すとまずい。
そう思いシンはミネロヴァの口を塞いだのだが、、、
(んっ、、、な、なんで?! シンさんの足が、、、私の、、、
んっ、これ以上は、、、だ、だめっ)
なんと、シンの足がミネロヴァの両足の間に入っていたのだ。
両腕も掴まれている為、なすすべが無い。
つまりは、、、そういうことだ。
ミネロヴァの目はウットリとしており、体が熱くなる。
そして、足をもじもじさせながら甘い吐息を吐く。
「シン兄さんどこに行ったんだろう? 少し聞きたいこともあったんだけどなー」
中々その場を後にしないトラリー。
時間が経てば経つほどミネロヴァの頭は真っ白になりそうであった。
(だ、だめっ、、、も、もう、おかしくなるっ)
そして、ようやくシンもミネロヴァの変化に気付く。
シンの顔はミネロヴァの真横にあり、耳元にシンの口がある。
「大丈夫か」
シンの甘い声に吐息がミネロヴァの耳を伝う。
「んっ、、、んんっ!!!」
ビクビクビクビクッ
ミネロヴァの身体が小刻みに震え、シンの手の下で思わず喘ぐ。
「バタンッ!!!」
それと同時にようやくトラリーが部屋を後にした。
ミネロヴァは肩で息をしており、目はとろけている。
色々あったものの、一先ずトラリーにバレずにやり過ごした二人であった。
「面白いな、続きが読みたいなと思ったらブックマーク、高評価をお願いします。そして誤字脱字や意見などあったら是非コメントしてください。」