偽りのない笑顔
シンとリリアも授業が終わり、教室を出ようとすると、突如先生から呼び止められていた。
そして、校長室へと連れて行かされる。
今日は弟妹達と約束がある為に早く帰りたい二人。
非常に不機嫌な顔をしていた。
隣でフレイも思わず苦笑い。
クリスが部屋をノックし校長から許可を得て部屋へと入る。
そして、そこに居たのはなんと、、、
「ん? あなたは、、、ミネロヴァ?」
そう。レッドサウス学校の第一席であり、教皇の娘のミネロヴァであった。
何故他校の生徒がここに居るのか。
疑問に思っていると、校長であるセレスが説明をする。
「シンさんとリリアさんも彼女とは面識がありますね?
明日よりブルーノース学校の生徒となり、Sクラスに入ることになったミネロヴァさんです。 宜しければトップであるあなた方に彼女と一緒に居てもらいたいのです」
何故自分達が? と思いもしたが、彼女の格好でわかった。
ボロボロの服にボサボサの髪。
顔も汚れており、痣も複数箇所見られる。
教皇の娘だからだろう。
教皇への反感が娘へといってしまったのだ。
言ってしまえば教皇は人類の敵である。
つまり、四面楚歌の状態であり、娘のミネロヴァも同じなのだ。
彼女の目からは生気を失い、ただただ一点を見つめている。
余程追い込まれたのだろう。
「わかりました!」
「おい!」
シンの返事も待たずリリアは勝手に了承する。
「オルレア家は困っている者を見捨てはしない! そうでしょ?」
シンは困惑した顔をするも、別に否定するつもりはなかった。
だが、そんなに即決していものなのかと悩んでいたのだ。
「それではお二人とも、よろしくお願いしますね。 今日は大丈夫ですので明日からお願いします。 ではミネロヴァさん。 まずは救護室でその傷を癒してもらってください。 また明日学校で待っていますね」
こうして、セレス以外のみんなはその場を後にする。
「シン、リリア。 悪いが私達は職員会議がある。 ミネロヴァを救護室へ案内してくれるか?」
クリスにそう言われ了承すると、クリスとフレイはその場を後にした。
何も発さないミネロヴァ。
最早生きた案山子状態だ。
「さっ! 早くレイラの場所へ行きましょう! おいで!」
そうして、リリアに手を引かれ自分の意思に関係なく歩く。
救護室の中に入ると居たのはレイラ一人だ。
レイラも仕事を終えたようで、片付けをしている。
「ん? リリアお姉様にシンお兄様? それと・・・・・・、」
どこかで見覚えを感じるレイラ。
「この子はレッドサウス学校の第一席だったミネロヴァよ。
明日からこの学校の生徒になるんですって。 だから、その前に
この子の傷をレイラに癒してほしいの」
その子を見れば確かにそこら中傷だらけであった。
そして、よく見ると古い傷もちらほらと。
「わかりました! 直ぐに治しますね! ではこちらへお願いします」
そう話すとミネロヴァはレイラと共にカーテンの敷かれた部屋へと入る。
そして服を脱ぐとレイラは更に驚く事となる。
ミネロヴァの背中には鞭打ちの様な古傷が多数あったのだ。
これは常日頃から虐待されていた可能性がある。
こんなにも白くて綺麗な肌なのに背中は紫色に変色していた。
その背中を見て思わず涙を浮べてしまう。
そして、レイラは思い切り息を吸い込み気合いを入れる。
「大丈夫です! 全て私が綺麗にしてあげますからね!
身体の傷も心の傷も私が癒してあげます!!! 高位の癒し!」
ミネロヴァの身体が光に包まれていく。
そして、その暖かさにはミネロヴァも思わず目を見開いていた。
何か暖かい物に包まれるような感覚。
そして、生傷はもちろん、古傷でさえも綺麗に無くなっていく。
鏡を見ればミネロヴァの背中は元の白い肌となり、人に見せても
恥をかくことの無い綺麗な背中へと変わっていた。
そして、傷だけでは無い。
身体も心も暖かくなる。
レイラの優しさを肌で感じる。
気付いたらミネロヴァの瞳からは一雫の涙が滴っていた。
痛みや苦しみからの涙では無い。
生まれて初めて感じた、優しさへの嬉し涙だ。
そんなミネロヴァを優しく抱きしめるレイラ。
「大丈夫ですよ。 今までは辛かったですよね。 実は、私も昔は聖女をやっていたのです。 ですが教皇様に嫌われてしまい、そのまま追われる身となりました。 それこそ最初は絶望的でした。 どこに行ったって衛兵から追われるのですから。 もう人生を諦めようかとも思いましたね・・・・・・でも、、、私を救ってくれる方に出会えたのです。 一人でもそういう方が居てくれれば考えは変わります
私が貴女を守ります。 もう一人じゃないよですよ。 だから、共に前へ進みましょう」
レイラの言葉に更に涙が溢れるミネロヴァ。
初めて受ける優しさに涙が止まらない。
ミネロヴァは小さく頷くとレイラも微笑んだ。
「ねぇ、シン? 聖女様ってさ、怪我を癒すだけじゃないのね。
心の傷も癒す。 だから聖女なんだろうね」
カーテン越しで待っているシンとリリア。
レイラの言葉にはリリアも何か打たれる思いを感じていた。
そして、それはシンも、、、
「・・・・・・そうかもな。 皆一人では生きてはいけぬ。 それを教えてくれたのも父上であるゼノン様だ。 そして、レイラも父上と同じ事をしている。 つまり、あの女もきっと大丈夫だろう」
シンの言葉に頷くリリア。
ミネロヴァが落ち着くのを待つと、三人で椅子に腰をかけた。
シンは立って壁に背中を預け腕を組んでいる。
「今日はありがとうございました。 自己紹介が遅れましたが、私はミネロヴァと申します。 ご存知の通り、教皇の一人娘です。
父が、いえ、教皇が国家転覆を計っていたのは薄々勘づいていました。ですが、見て見ぬふりをしていたのです。 私も教皇同様、悪い女なのは事実です。 ですから、みんなに蔑まれたり暴力されるのも仕方がない事なのです。 何せ、当の本人である教皇は逃げたのですから、、、だから、あなた方も私に構うのは辞めた方がいいと思います。 あなた方まで巻き添えを食らってしまう、、、でも今日貰った優しさは忘れません。 ありがとうございました」
頭を下げるミネロヴァ。
そして、突如リリアに名前を呼ばれ頭をあげると、
「パチン!」
ミネロヴァは痛みを感じたおデコを抑える。
デコピンだ。
何故、デコピンされたのか困惑するミネロヴァ。
そして、リリアは真顔である。
「子供の癖に何でも背負い込まないの!!! 貴女はまだ学生なのよ? それに、貴女が止められなかった事に責任なんか何も無い! 貴女が気にする必要なんて全くないの! いい? これからは貴女だけの人生なの! もう縛るものはいないんだから! それに、虐めるような奴が居たら私とシンが守ってあげる! もちろんレイラもね!」
いきなりのトバッチリにシンは、何故俺まで、と小さく呟くがレイラは満更でも無い笑顔を向けていた。
そんな三人の姿に、ミネロヴァは確かに感じていた。
安心感を。
この人達と居れば大丈夫かも。
そう思えるような何かを感じていた。
だが、迷惑は掛けたくない。
そんなふたつの感情に葛藤していると、ミネロヴァの手をリリアとレイラが優しく握る。
「大丈夫だから。 貴女も知っての通り、私は結構強いのよ?」
「そうですよ! それに私も貴女を守ります。 だから、これからは楽しい学校生活を送りましょう?」
二人の優しい言葉に頷くミネロヴァ。
決心したのだ。
迷惑をかけるかもしれない。
それでも、今の自分を助けて欲しい。
この状態から救って欲しい。
それがミネロヴァの想いであった。
こうして、ミネロヴァもようやく心を開きシン達と別れ、仮の家へと帰るのであった。
(シンさんとリリアさん、それにレイラ先生・・・・・・私の大切な人達。 いいのかな、、、私なんかが普通の暮らしをしても。んーん。もう迷わない。 あと一年は絶対に楽しい学校生活を送りたい! 新しい友達と遊びたい! ありがとう、三人とも)
ミネロヴァは青空を見上げ、初めて微笑んでいた。
いつもの作り笑いではなく、心の底から笑顔が出ている。
ようやく新しい人生が始まる、、、
そう思われたが、
「おいおい! 犯罪者野郎の娘が一人で歩くとはいい度胸じゃねぇか!」
「そうよそうよ! 皆を呼んできてちょうだい! ここにあいつの娘が居るわよ! 石集めて!」
ガラの悪い人や大人達が次々と現れミネロヴァを囲み出す。
ようやく進めると思った矢先の事に、ミネロヴァは歯を噛み締めるのであった。
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