ダークハイエルフ
ある日の朝、いつも通り居間で朝食をとる。
その時だった。ゼノンは何かを感じる。
フェンリルのレオンも同時に唸っていた。
「むっ? 何者かがこちらに向かっているな」
ゼノンの言葉にリリアが反応する。
「様子を見てきましょうか?」
「いや、私が行こう。お前達はそのまま食事を続けてくれ」
「ゼノン様、どうかお気を付けて」
「うむ。行って参る」
何者かは分からないがかなりの実力者であることは間違いない。
ゼノンは家を出ると歩いてその者の近くまで行く。
そしてその者が見えるところまで行くと、そこに見えたのは女性のダークエルフだ。
銀色の長髪に目は鋭くスタイルのよい美しい女性だった。
通常のエルフよりも魔力量が多く希少種とされている。
そして普通のエルフとは違い、紛い物とされ、忌み嫌われる存在となっている。
(ふむ。ダークエルフか、いやこの者は更に・・・・・・)
そう思っているとダークエルフが口を開く。
「この巨大な力の持ち主は貴方でしたか。強い魔力が近くに見えたのでこちらまで歩いてきました」
「ふむ。お前はダークエルフ、いや『ダークハイエルフ』だな」
見た目は普通のエルフと何ら変わりは無いが、実力者なら気付ける。
それでも相手は驚いていた。
「ッ?! そこまでわかるのですね。はい、私はダークハイエルフのエリシアと申します」
「私の名はゼノンだ。どうしてこんな所にダークハイエルフが一人で彷徨っている」
エリシアはそっと目を閉じ重い口を開く。
「私が住んでいた所はエルフ王国の端にある村でした。 ダークエルフは忌み嫌われる存在ではあるものの、ダークハイエルフだった為、普通の暮らしをさせていただいていました。しかし、先日村の一部が陥没したのです。その陥没した真上には、私を特に嫌っていた者の家がありました。その結果、私の責任だと押し付けられ、村を追われることになりました。行く当てがなく彷徨っていたらここに辿り着いたのです。」
エリシアの話を聞くに、要は濡れ衣を着させられたという事だ。
ダークな存在であるがために。
「ふむ。行く当てがないのか・・・・・・ここではなんだ、我が家に来るといい」
「宜しいのですか?! 私はダークエルフですよ?!」
「うむ。関係あるまい。陥没したのは確かにお前のせいかもしれぬがな・・・・・・」
ゼノンの言葉にエリシアは眉間にシワが寄る。
やはり、どの者も皆ダーク族を忌み嫌うのだと。
「っ?!・・・・・くっ、貴方も偏見をお持ちなのですね・・・・・・」
「いや、お前のその指輪に不幸が付与されている」
そう言ってゼノンはエリシアの付けている指輪を指す。
「えっ?! これは母親の形見です!」
「その母親はどうした?」
「急に病にかかりそのまま亡くなりました・・・・・・」
ゼノン「ふむ。もしかしたらその時から既に、不幸が母親を襲っていたのかも知れぬな。手を出せ」
エリシアは困惑しているものの、素直にゼノンの言葉に従う。
「えっ?! あっ、はい・・・・・・」
エリシアはゼノンに指輪を嵌めている右手を差し出した。
「解呪」
すると指輪は光り輝き、不幸は消え去り幸運の指輪へと変わる。
「あっ、ありがとうございます!!! これは母の形見、不幸と言われても手放す事は考えられませんでした。何とお礼をしたらよいか・・・・・・」
「気にする事はない。それよりどうするのだ? 我が家へ来るのか?」
「はい。お言葉に甘えさせていただきます。重ね重ねありがとうございます」
「うむ。では参ろう。」
エリシアは行く当てもなく途方に暮れていた為、大人しくゼノンについて行くことに決めた。
二人が家に戻ると急な来訪に皆が驚いた表情でエリシアを見ている。
「ゼノン様のご好意で上がらせていただきました。ダークハイエルフのエリシアと申します」
レイラの言葉に驚くレイラ。
しかし、ダークと言っても嫌な顔はしていない様子。
「ダークハイエルフ?! エルフよりも希少で更にハイエルフよりも希少だと聞いています!あっ、私はレイラと申します」
「ほう? 強そうだな。私はリリアだ!」
リリアに至っては種族等関係なくその強さに興味があるようだ。
「私の名前はムムです!!!」
「ムムの兄のトラリーと申します!」
「スライムのライム! こっちがミノタウルスのミノでそっちがフェンリルのレオン!!!」
皆もそれぞれ自己紹介をすると、エリシアは大きく溜息を着く。
「やはり貴方は大魔王ゼノン様でしたか。リリアさんが居るということは確実ですね。そして貴方は聖女レイラですね? 更に幻獣種のフェンリルまで・・・・・・ここの家は最強ですね」
「うむ。私を知っていたのか」
何を当たり前のことをと言わんばかりのエリシアの表情。
「この世であなたを知らない者等、産まれたばかりの赤子くらいなものです」
「それで、エリシアはここで暮らすのか?」
「あの、宜しければご厄介になってもよろしいでしょうか?」
もう帰る故郷も無ければ住む家もない。
恐る恐ると言った感じでエリシアはお願いするとムムがエリシアの服を摘んだ。
「お姉ちゃんも一人で大変だったんでしょ? ここに居るのは皆いい人だよ! これからは笑顔になれるよ! いーい?ゼノン様!」
毎回ムムが新居者を決める。
恐らく放っておけないのだろう。
ムムの優しさとも言えるだろう。
「うむ。よかろう。皆も良いか?」
「はいっ!!!」
皆が了承するとエリシアは目に涙を浮かべながら頭を下げる。
「ありがとうございますムムさん。皆様もこれからよろしくお願い致します」
またしても家族が増えてしまった。
階層を増やし地上部はそのままで、地下1階を男部屋、地下2.3階を女部屋にした。地下4階には風呂場と訓練場を
更にエリシアの要望で更地の地下5階を用意した。
翌日
エリシアは家事全般が得意であり、ライムとレイラと共に家事の手伝いをした。
そして1番の驚きであったのが・・・・・・
「すっすごい・・・・・・」
「こんなにたくさん・・・・・・」
「これがエルフの力・・・・・・」
「いや、エルフの力でもここまではいくまい」
「その通りだ。エルフの力というより、エリシアの力であろう」
全員が目の前の光景に驚愕している。
なぜなら、地下5階は穴の中だというのに自然豊かな平野になっており、更に畑が出来ており野菜達が育っていた。
皆は地下5階にいるにも関わらず陽差しを感じ、見上げるとそこには何故か太陽の光があった。
「疑似太陽か」
ゼノンには思い当たる節があった。
ハイエルフが使用できるとされる強大な自然魔法の一つ。
「はい。この魔法があれば太陽の届かない所でもこうして自然が豊かになります。どうでしょうか?」
「流石は森の民だ。よくやってくれたエリシア」
これにはゼノンも脱帽である。
「凄いよエリシアお姉ちゃん!!! 皆で遊んで来ていい?」
ムムはその技術にも驚いたが、それよりもこの大自然で早く遊びたい様子でエリシアに訊ねた。
「えぇ、いいですよ。川の水も綺麗なので飲んでも大丈夫ですよ」
「わーい!!! ありがとう!!! ライム! ミノ! レオン! 遊びに行こう!!!」
4人は大はしゃぎで5階層を駆け巡り満喫していた。
「エリシアさんは本当に凄いです! 憧れます!」
レイラが目をキラキラさせエリシアに詰め寄る。
そんなエリシアは初めて言われた言葉に驚愕している。
「えっ?! 私に憧れですか?!」
いつも忌み嫌われていた事もあり、レイラのその言葉には驚きを隠せなかった。
「はい! エリシアさんの魔法は自然を作り人を豊かにします。エリシアさんの魔法はとても素敵ですよ!」
「そうだな。私の魔法は壊す事は得意だが、作り出すことはできない。私もお前の力を尊敬するぞ、エリシア」
ゼノンも付け加えてエリシアを賞賛する。
「み、皆さん・・・・・・ありがとうございます」
涙ぐみながらもお礼を言う。初めての暖かい言葉だったのだ。
「一人も良いがこんな景色も良いのかもしれぬな・・・」
暖かい光景にゼノンも心温まる思いをしていたのだった。
「面白いな、続きが読みたいなと思ったらブックマーク、高評価をお願いします。そして誤字脱字や意見などあったら是非コメントしてください。」




