終わらせたい願い
「お前が教皇だな」
牢屋の中に座るその男は、今回の首謀者の一人、教皇である。
いや、彼もまた宰相であるルシウスに唆された男の一人なのだろう。
「如何にも私が教皇である。 お前がゼノンだな? 何をしたのか分かっているのか? 早く私をここから出すがいい。
死刑は免れないだろうが、少しでも楽な死に方を選ばせてやろう。 何せ国のトップである私を攫ったのだからな」
この状況でも強気でいられる教皇に少し関心するゼノン。
人間とはやはりおもしろい。
この場でもこんなにも高圧的な態度を取れるのだから。
「ふむ。 お前を裏で操っていたのはルシウスという名で間違いないな?」
その名前を出すと教皇の眉は僅かに吊り上がる。
「私をお前と呼ぶとはいい度胸だ。 そして、ルシウスが私を操ったのでは無い。 私が利用してやったのだ! 何せこの作戦は全て私が始めた事なのだからな! 魔界も全て蹂躙し、その後他の国も滅ぼす予定であったが、どうやら貴様のせいで崩れ去った様だな。 まぁ、いい。 とにかくここから出せ」
そう思い込まされてる時点で、そしてルシウスの思惑通りに行動している時点で操られてるも同然である。
だが、それを認める知能を持っていないのだろう。
長年トップに立ち続けているため、自分を中心に回っていると勘違いているようだ。
「お前はこのまま幽閉される。 国王とも話したが、お前は公衆の面前で処刑される事となった。 証拠も全て揃っている為、その方が都合が良いのだろうな。 ここで殺されないだけ、有難いと思うがいい 」
その言葉に驚く教皇。
まさか、国王が、兄が、自身を処刑しようとしているとは夢にも思わなかった。
ここからも直ぐに出してもらえるだろうと安直な考えを持っていたのだから。
だが、確かに聞こえた処刑の二文字。
それを聞いてようやく教皇は自分の置かれている立場を理解した。
「わ、私を殺すだと? あ、兄上が? 有り得ぬ・・・・・・私は教皇だぞ? この国に無くてはならない存在だぞ? 唯一無二の存在なのだぞ? そんな事許されるはずがない!!!!!」
恐怖は次第に怒りへと変わっていた、
だが、これも自信が招いた結果。
教皇は錯乱しており、最早話せる状況では無い為、その場を後にする。
処刑日が決まるまではここに幽閉する様にと国王から頼まれた為、不本意ではあるが、家の地下牢へと幽閉しておく。
ガルムには引き続き教皇の様子を監視してもらい、ゼノンとメフィなはその場を後にする。
「これでやっと平和に暮らせるのね。 ゼノンも最後の仕事があるんでしょ? 行って早く帰ってきてね?」
メフィの言う通り、ゼノンには行って全てのケリをつけなければいけない相手がいた。
「うむ。では行ってくる」
ゼノンはそのまま転移し、魔王城へと舞い戻る。
ゼノンの部屋。 つまり魔王の部屋へ着きそのまま魔王の間へと向かう。
そこには既にルシウスが立って待っていた。
「よく逃げずに居たな。 ルシウス、お前には残念であろうが私の息子と娘は無事だ。 誰一人死ぬこと無く戦争は止められた」
そう話すも、ルシウスの表情は何も変わらなかった。
まるでその結果がどうでもいいかのように。
「そうですか。 失敗しましたか。 ですが、教皇を殺す事には成功しました。 奴は好戦的だと聞きました。 そして、魔界へよくちょっかいを出したのも事実。 私は魔界を好いております。 つまり、奴もまた私が殺したい人間の一人。
奴が死んだだけでも御の字としましょう。 ただ、ゼノン様がここまで丸くなったのは予想外でした。 貴方は変わられたのですね 」
ゼノンを利用して人間界を滅ぼす。
その思惑は外れてしまったが、それにしたってルシウスのやり方はどこか雑である。
本当に人間界を滅ぼしたかったのか?
長年の夢だったのか?
ルシウスの智謀は魔界随一とも言える。
そのルシウスが何故、こんな呆気ない作戦を考えたのか。
もしかしたら、
「ルシウス、お前はいつから失敗してもいいと思ったのだ。 途中でお前の思考は変わったのだな?」
ルシウスが本気で考えたならば、流石のゼノンももっと苦労するハズ。
何せゼノンの右腕なのだから。
そんなルシウスがこの程度なわけが無い。
となると、やはり途中で心の変化があったのかもしれない。
その言葉にルシウスは微笑む。
「どうでしょうか。 ゼノン様が以前に一度だけ帰って来た時、今までとは違う雰囲気を感じました。 尖っていた部分が丸くなり、オーラも穏やかに感じたのです。 何がゼノン様を変えたのだろうか。 答えはすぐに出ました。 『家族』です。 ゼノン様も私と同じく、早くに家族を戦争で無くしましたね。 それもあって私は勝手に親近感を沸かしていました。 ゼノン様に近付きたい、役に立ちたい。 その一心で頑張ってきました。 そうして、宰相の座に座った時、忘れていた目標が浮かび上がったのです。 『人間の殺戮』。 家族の仇である人間達の駆除です。 ですが、それをやるには私の力では足りませぬ。 だから私は魔王バルバトスをけしかけ
人間界へと攻めさせました」
そこでゼノンは思い出した。
魔界と人間界の境でやり合っていた魔王バルバトス。
そして、人間界の勇者であるレインも居た。
あの時は確か、戦争に飽き飽きして魔王を殺したのだ。
「どうやら思い出したようですね。 そうです。 奴はゼノン様に殺されました。 あそこから全てのネジがズレたのかもしれません。 本来なら奴が人間界を蹂躙し、反撃が来たところでゼノン様にも魔界を守って頂くべく戦争に赴いてもらう予定でした。 ですが、あろう事か魔王バルバトスを殺し、人間を助け、そのままここから居なくなってしまいました。
そこから私の作戦は崩れ落ちたのかもしれませんね」
そこで納得した。
魔王バルバトスも好戦的ではあるものの、それは魔界での話だった。
そんな奴が突如人間界へとちょっかいを出したのだ。
たまたま近くに居て止めることが出来たが、まさかそれがルシウスの作戦とは思いもしなかった。
「そんなに前から行動していたとはな。 お前の行動には驚かされるな」
ようやく全ての経緯がわかった。
全てはあれが始まりだったのだ。
あそこからルシウスの作戦は瓦解し、諦めていたのかもしれない。
そして、逃げずにここにいる理由も一つ。
この全ての戦いにケリをつけるためだ。
つまり、ゼノンに殺されるのを待っていたのだ。
「ゼノン様にそう言ってもらえて私も宰相冥利に尽きるというものです。 では終わらせましょう。 貴方に殺されれば本望」
ルシウスの顔は覚悟をした表情へと変わっていた。
やはり死ぬ気であったのだ。
ルシウスが本気で考えたならば、もしかしたら違う結果になっていたかもしれない。
だが、ルシウスにゼノンへの罪悪感が出たのだ。
自身の敬愛する主たるゼノン。
そんなゼノンを心の底から裏切られなかった。
たから詰めが甘かった。
そして、この全てを終わらせる為にも、ルシウスはゼノンに殺される事を望んでいたのだ。
「ふむ。お前の覚悟は理解した。 結果はどうであれ、お前は我が家族を脅かした。 そして、お前自身もこれが望みなのであろう。 悪く思うな」
「ザシュッ!」
ゼノンは腰にかけていた剣を手に取り、そのままルシウスの首を切り落とした。
ルシウスの首から頭が落ち、そのまま身体は崩れ落ちる。
こうしてルシウスは全てから解放されるのであった。
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