涙を笑顔に変える為
皆がミノを囲んでいる。
トラリーとムムを守る為に命を懸けて死んだ魔物(漢)は死んだ。
「ねぇ、リリアお姉ちゃん、、、お父さんとお母さんはどうしてミノの近くに居てくれないの? どうしてここに居ないの?」
二人がいない事に疑問を抱きそう訊ねるも、リリアには、いやここに居るみんなも何処にいるのかわからなかった。
泣きながら話すムムにリリアもどうしたものかと頭を悩ます。
「大丈夫。 もう時期くるわ。 戻ってきたら皆で、ミノと家に帰りましょう」
寂しそうに頷くムム。
その時だった。
後方にある森の中からゼノンとメフィが戻ってきたのだ。
しかし、シンやリリア、実力者たちはゼノンを見て何か違和感を感じる。
それはあまりにも衰弱しきっていたからだ。
外見には変化は無い。
だが魔力の消費が激しく、本来なら立っていることもままならない程だと思われる。
あのゼノンがここまで魔力を消費する事など見た事がない。
恐らくトラリー、ムム以外の者はゼノンの容態に気付いたと思われる。
ゼノンはそのまま歩き倒れるミノの元へ膝を着く。
「トラリー、ムム。 ミノはお前達にとってなんだ?」
突然の問い掛けに困惑するが、二人の口からはすぐ様答えが返ってきた。
「僕の兄の様な存在です」
「ミノは家族だよ、、、ムム達の大切な家族だよ・・・・・・ミノに謝りたかったな。御礼言いたかったな、、、」
泣きながらも答える。
二人にとってミノは家族の一員なんだと。
「そうか。なら直接伝えるがいい。 魂の記憶」
ミノの頭から青白い光の玉が浮き出る。
そして、
「複製」
ミノと全く同じ体が横に現れる。
休む暇なくゼノンは作業を続けた。
「入魂」
その複製された体に、ミノの魂とも言える光を優しく押し当てる。
ミノの身体は光輝く。
周りにいたもの達は何が何だか分かっていない。
だが、皆が笑顔になっていた事だけはわかる。
「ブモ?」
そこには上体を起こし、皆に見られ困惑しているミノの姿が。
「ミノー!!!」
「ミノッ!!!」
固まっていたトラリーとムムが勢いよくミノに抱き着く。
「ブモオ!!!」 (おっ? トラリー! ムム! 無事だったか! よかった・・・・・・)
ミノも二人の生存に安堵している。
その目からは涙も出ていた。
ミノにとっても二人は大事な弟であり妹なのだ。
「うん! ありがとうミノ! 本当にごめんね、、、ミノ大好きだよ」
ゼノンの言った通り、本当に直接お礼を言う事ができた。
まさか、魔物まで生き返らせる事ができるとは。
これには全員が驚いていた。
「本当にお父様の力には驚きね!」
「さすがにこれは不可能だと思っていました」
「こんな芸当が出来るのは恐らく父上だけであろうな」
「ガッハッハッ!!! まさか、まだ驚く事があるとはのう」
四魔将である、4人もこれには驚愕せざるを得なかった。
「最早これは神の所業」
「これなら、ゼノンはんが神だと言われても驚きまへんな」
四大恐慌である不死の王、海の皇帝でさえも、目の前の光景に目を疑う。
「・・・・・・ゼノン、大丈夫?」
メフィだけはゼノンの容態が分かっている。
魔法を創造し、死の直前だったゼノン。
そして、少し回復したと思ったらすぐ様この魔法を使用した。
『魂の記憶』
生き物の魂を吸い取り保存する事が可能。
魔物を生き返らせる魔法は作れなかったが、記憶を使い甦らせることは可能となった。
それでもやはり、この魔法は魔力消費が激しく、ゼノンが
全開の状態でも半分は消費してしまうかもしれない。
それなのに、まだ回復しきっていない身体でゼノンは使用してしまったのだ。
今だって立つのがやっと状態に見える。
もちろん、周りに心配をかけまいと気丈に振舞っている。
「あぁ。 問題ない。 すぐに治る」
ゼノンならそう言うと分かっていた。
分かってはいたが、その反応がメフィには辛かった。
「どうして、、、なんで今やるのよ。 魂が残る限りは大丈夫なんだからゼノンが回復してからでもいいじゃない。
なんで、貴方は自ら自分を犠牲にするのよ」
そう。今やればこうなる事は目に見えていた。
魔法が完成した今、急ぐ必要は無かったのだ。
自分が回復してから使用すれば、こんなことにはならないのにだから。
「これ以上トラリーとムムに涙を流させる必要はあるまい。二人の涙を止める事が出来る。ならば、すぐにやらなければなるまい。 子供の涙を止め、笑顔にするのが親の役目であろう。 見てくれメフィ。 つい先程まで泣きじゃくっていた
二人があんなにも笑顔を振り撒いている。 あの笑顔を見れるだけでも私はよかったと、そう思えるのだ。お前は違うか?メフィ」
メフィはトラリーとムムを見つめる。
ミノに抱き着き、何やら沢山話しながら笑っている。
もちろん周りにいるもの達も皆笑顔だ。
例えメフィがゼノンと同じ立場であっても同じ事をしただろう。
だが、それでもゼノンばかりが苦痛を被る事が許せなかった。
「そうね。ゼノンの言う通りだわ---でも、貴方だけが苦しむことは許さない! 光の精霊魔法 魔力供給」
ゼノンの手を握り、自身の魔力をゼノンへと流し込む。
本来魔力とはその者によって中身は異なる為、他人の魔力が入れば魔力同士がケンカをし、そのまま暴発してしまうのだ。
つまり、張り裂けてしまう。
だが、多少であればそんな事は起こらない。
ただし、魔力を送るものにはかなりの負荷が掛かってしまう。
それに精密な魔力操作も必要であり、おいそれと使えることでは無い。
これを使用できる者など、指で数える程しか居ないだろう。
ゼノンの中へメフィの暖かい魔力が入っていく。
ケンカをするどころか、むしろ身体が暖かくなっていた。
「はぁ、はぁ、ご、ごめんねゼノン。 これ以上やると貴方にも危険が及ぶかもしれないわ」
ゼノンとメフィの魔力の相性が良かったらしく、魔力は大幅に入れる事に成功した。
そのおかげもあってゼノンの顔色もだいぶ良くなっている。
苦しい思いをしながらもメフィがやってくれた事にゼノンは感謝する。
「すまないメフィ。 お前まで苦しい思いをさせてしまったな」
肩で息をするメフィ。
だが、その顔は苦痛なんかで歪んでなどいなく、笑っていた。
「何言ってるのよ! 貴方はもっと苦しいんでしょ? 夫婦なら助け合わないとね! でも、さすがにしんどいから早く帰りましょう! 『アイツ』も牢屋に入れたわよ」
確かにこれ以上ここにいる必要は無い。
そして、この世界戦争を起こそうとした張本人に終止符を打つ時がやってきた。
ゼノンは頷き皆を呼ぶ。
「皆のおかげで最悪の事態は免れた。 そして、私に協力してくれた事に感謝する。 ありがとう。 これで世界は再び平穏となろう。 家へ帰るぞ」
皆は笑顔でゼノンの言葉を聞き、大きく返事をすると、そのまま家へと帰っていった。
今日は皆が頑張ってくれた事もあり、大盤振る舞いで高級料理をいくつも買った。
それをシリュウに調理してもらう。
フレイやレイラ、エリシア達も手伝っていた。
その間、ムム達はというと庭でミノと遊んでいる。
やはり、ミノは家族の一員なのだと実感した。
そして、ゼノンはというとメフィを連れて地下へと入って行った。
この場所は子供達には教えていないし、入る事は出来ない。
暗く、嫌な空気が漂う場所。
何個かの牢屋が設置されており、一つの牢屋の前にはガルムが待っていた。
「お待ちしておりましたゼノン様。『奴』はこの中に居ます」
頷くゼノンは牢屋の中を覗く。
「ようやく会えたな教皇」
薄暗い牢屋の中からゼノンを睨む教皇。
全ての諸悪の根源たる教皇。
ようやく、彼と対峙するゼノン。
終わりの兆しが垣間見えるのであった。
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