エルフ侵攻戦
魔界とエルフ界の境界には森が立ち塞がっている。
そして、そこでは既にエリシアとエオメル、フレイが待機していた。
「大丈夫ですかエリシア殿。私の後ろで抱き着きながら隠れていていいのですよ?」
相変わらずのエオメルに、先程まで緊張していたがおかげで緊張の緒が切れた。
「・・・・・・大丈夫ですよエオメルさん。しかし、私なんかが出るよりもエオメルさんだけの方がいいのでは無いでしょうか・・・・・・」
エリシアは未だに自身がダークハイエルフという忌み嫌われる存在である事を気にしていた。
「お父様も言っていましたよエリシアさん。貴女でなければいけないのです。そして、貴女もその呪縛から早く解放されるべきですね」
フレイがそう話すと、後ろでエオメルも頷いている。
「私はエリシア殿とずっと一緒に居るが不幸なんて一度もなかったです! むしろ、私の心はどんどん貴女に惹かれています! もし貴女を悪く言うような奴が居たら私は・・・・・・ハッ?!!! 危ない危ない。私達は戦を止めるのが仕事でしたね」
エオメルと話していると、なんだか悩んでる事が馬鹿馬鹿しくなってくる。
気付けば自然と意味が溢れていた。
そんな二人の様子を見ていたフレイは
(この二人、もしかしたらお似合いかもしれませんね。ふふっ)
フレイはこう見えて人の恋事情が大好きである。
学校でも、良く生徒の恋愛話を聞くほどだ。
自分は男への耐性がほとんど皆無だというのに。
そんな平和な時間を過ごしていたが、その時は唐突にやってくる。
前方より多数のエルフ族が。
地を走るものや、木々を飛び移る者。
素早い動きでエリシア達へと迫る。
「止まってください!!!」
エリシアが大きな声で叫ぶと、エルフ達は素直に立ち止まった。
しかし、平和に済みそうでは無い。
何故なら、エルフ達は臨戦態勢を取っており、皆が弓を構えている。
エルフ族の矢の命中率は100発100中と言ってもいい。
それが数千人はいるのだ。
攻撃されれば一溜りもない。
だが、エリシア達には戦いの意思はないため、武器を構えることは無い。
そうしていると、一人の女性がやってきた。
皆が跪く中、やってきたのはエルフの長であり一番最古のハイエルフであるエリシターナだ。
彼女の強さは勿論、その美貌は世界でもトップレベルである。
何年も何十年も何百年も生きているが、老いを感じさせないその美貌には皆が慕っている。
そして、エリシアとも旧知の仲であった。
そう。彼女はダークハイエルフを差別しない聖人である。
「エリシア、そしてエオメルまで。お久しぶりですね。
久しぶりの再開なのに申し訳ないのですが、そこを退いてくれませんか?」
鋭い眼光でそう言い放つエリシターナ。
やはり一筋縄ではいかない。
彼女達は同族の死を人一倍許さない。
つまり、彼女達を止めるのは至難の業が必要であった。
「エリシターナ様。お久しぶりです。その件についてお話が。少し聞いていただけないでしょうか?」
こんな火急の事態にそれでも止めるエリシア。
彼女の性格は分かっている為、エリシターナは少し気になったのか拳を上げる。
すると、弓を構えていたエルフ達は一斉にその弓を下ろす。
とてもよく統率されたいい戦士達である。
「良いでしょう。しかし、手短にお願いします」
一先ず話は聞いてもらえる事に成功する。
後は説得できるかどうかだ。
エリシアは大きく深呼吸をし、エオメルも笑顔で頷く。
自分がいるから安心しろと言わんばかりに。
「エリシターナ様。 今回の件は全て人間界の教皇の仕業です。何故かは知りませんが、その事件を魔族のせいにしているのです。そして、人間へは既に我が主の刃が向かっているため、どうかその矛をお納め下さい」
エリシアは頭を下げそう伝える。
エリシターナは目を閉じ、暫し沈黙する。
その時だった。
エリシア達の後方より魔族達が押し寄せる。
かなりの数が居り、木々を薙ぎ倒し接近する。
「どうやら、魔族達は殺る気のようだぞ?」
エリシターナは不敵な笑みを浮かべる。
なんてタイミングできてしまったんだ。
エリシアは苦虫を噛み潰したかのような表情で魔族を見つめる。
「氷の絶壁」
突如現れる氷の壁。
それは魔族とエルフ族のちょうど真ん中に出現する。
エリシアは振り返り歓喜した。
「フレイ様!!!」
そう。この魔法を使ったのは勿論フレイだ。
「さて、エルフ族はあなた達に任せます。魔族は私におまかせを」
そう話すと、フレイは氷の中へと消えていく。
「ほう。これ程の魔法を一瞬で放つとは。もしや『氷奇のフレイ』か?」
フレイの正体を見事に当てるエリシターナ。
「ッ?!!! フレイ様をご存知なのですか?」
驚くエリシアであったが、長く生きるエリシターナからすれば知っているのも当たり前なのかもしれないとも思う。
「あぁ、何度か会った事はある。そして、彼女の主であるゼノン殿にもな。 という事はエリシア。お主は今ゼノン殿の元に居るのか?」
エリシターナの洞察力は凄まじく、全てを言い当てる。
「はい。仰る通りです。今はゼノン様の元で身を寄せています」
するとエリシターナはどこか寂しげな表情で「そうか」と一言呟く。
エリシア達が話している間、フレイは魔族の眼前に迫っていた。
「この隊を率いる者は前に出てきなさい。私はフレイ。
四魔将が一人、フレイです」
そう話すと魔族達はざわめき合う。
そんな時、一体の魔族がやって来て、事の経緯を話した。
フレイの名は有名であり、彼女の智謀も皆が知っている為
直ぐに納得してくれた。
そこで、フレイは氷魔法を解く。
もう大丈夫だ。
そう思っていた。
だが、間違いだった。
一本の矢が魔族の一体に突き刺さり倒れる。
突然の出来事だった。
それにはエリシターナも驚く。
「誰だッ!!!? 勝手に打つなッ!!! 射った者を捕まえよ!!!」
怒り狂う魔族はフレイが必死に押えてくれている。
焦るエリシアとエリシターナはすぐ様、矢を射た者を探す。
その時、仲間の声が聞こえてきた。
「人間だッ!!! 人間が混ざっているぞ!!!」
そう。魔族に矢を放ったのは人間だった。
やはり、魔族とエルフに戦争を起こさせたいらしい。
「くっ、まさか人間に踊らされるとはな。死ねッ!!!」
エリシターナがはるか遠くに居る人間目掛けて矢を放つ。
普通のエルフでも届かない距離をエリシターナは正確無比に当てる。
そう。人間のアキレス腱目掛けて。
ここで殺しては魔族の怒りは治まらない。
ならば、この人間を魔族に渡せばいい。
エリシターナは瞬時にその作戦を思い付き、殺さずに生け捕りにしたのだ。
案の定、魔族達はその人間を歓喜し殺していた。
もちろん矢で射られた魔族が。
人間は恐怖に怯えながら、魔族に嬲り殺される。
こうしね、一時はどうなる事かと思ったが、エリシターナの起点とフレイの力。エリシアの説得によりエルフ族も侵攻をやめる事になった。
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