獣人族侵攻戦
全員の配置決めを終えるとゼノンの元へムムとトラリーがやってきた。
「お父さん! ムム達はどうすればいいの?」
この家に居ては万が一教皇が来れば危険が及ぶ。
いちをハドソンとガルムがこの屋敷を守りはするが相手の
人数が多ければムム達を守りながら戦うことは至難の業だろう。
そこでメフィと話し合い、ムムとトラリーは前の家。
つまり、洞窟の家に隠れてもらうことにした。
二人の敬語として、スライムのライム。フェンリルのレオン。フェニックスのイヴ。ミノタウルスのミノに警護してもらう。
レオン達がいれば大抵の敵は跳ね除けられるだろう。
こうして全員の配置を決め、すぐ様皆を転移させる。
今こうしている間も、境界にいる魔族は狩られているのだ。
一刻も早くこの戦を止めなければならない。
〜魔界最南端〜
ここへは獣人族が侵攻を開始している。
迎え撃つはシリュウに不死の王、そしてレヴィアタンであるレビル。
そして、九尾族のファルニールとフィルニールもやってきた。
同じ獣人族が多ければ、敵の侵攻も止まるだろうと予想した。
「貴女方二人は必ず拙者が守ります故、ご安心を」
シリュウが二人を気遣いそう話す。
「武力行使になった時は私にお任せを。本物の恐怖を教えてしんぜよう」
不死の王がそう話すとレビルも賛同した。
最早二人は戦いだけの戦闘狂なのかもしれない。
「お母さん? 仲間を殺すの? です!」
「いーえ、血を流さない為に私達獣人族同士で話し合うのです
ッ?!!! 来ましたね」
ファルが獣人族の気配に気付く。
いつまで経っても後続が見えない。
下手したら何万はいるかもしれない。
先頭を歩くは獣王族。
ライオンが二足歩行になった様な筋肉隆々な男が歩いている。
そして、そのライオンは目前にいる獣人達に気付くと進軍を停止した。
二人が近づいてくる。龍人族の男と九尾族の女性。
これ程高位種の獣人が居るとはライオンも驚きである。
「我は獣王族がリーダー、バイソン! 貴殿らは獣人族とお見受けする。 それも最高位種である龍人族に九尾族。 助太刀に来てくれたのだろうか?」
一先ずまともに話せる男で良かったとシリュウ達は安堵する。
獣人族は血の気の多い輩が多く、なんでも力で済ませようとするのだ。
「如何にも。拙者は龍人族のシリュウ。コチラは九尾族のファルニールと申す。 今回の貴殿達の戦。 敵は魔族ではない。人間界に住む教皇の仕業だ。 奴は卑劣な事に、奴隷達を殺しあたかも魔族の仕業にして見せた。そして、教皇へは他の者が処罰に向かっているが故に引いて貰えぬだろうか?」
シリュウの言葉に獣人族はざわめく。
信じるもの、半信半疑の者、嘘だと決めつけるもの。
多数の声が聞こえてくる。
「静まれッ!!!!!!!!!」
バイソンの一喝により、一気に静寂と化す獣人族。
彼の統率力は凄まじいものだとシリュウも実感した。
「シリュウ殿、貴方の言葉の真相はこちらには知る由がない。
貴方も知っておろう。我等は全てが『力』! 信じないものを貴方の力で信じさせてくれはしないだろうか?」
ハドソンは卑しい笑みを浮かべるとゾロゾロと獣人族が出てくる。
500は居るだろうか?
それでも、殆どのものは信じてくれたか半信半疑のどっちかのようだ。
思いのほか少なく済んで助かった。
そして、この結果はシリュウも何となくわかっていた。
彼もまた同じ獣人族だから。
「よかろう! 我が槍でお前達の心を突き刺し、信じさせようではないか! 命は取らぬが手加減は出来ぬぞ」
シリュウが槍を構えて獣人族に威圧する。
さすがは最上位種の龍人族。
獣人族のほとんどがシリュウの威圧に慄いている。
「私も手伝わせて頂きます。同じ獣人族ですしね。
フィルは下がってなさい」
ファルニールもシリュウと共に進みでる。
戦いは突如始まる。
多数の獣人族が二人目掛けて一気に駆ける。
対してシリュウとファルは、シリュウだけが突っ込み、ファルは
魔法を発動している。
シリュウは近接を得意とし、ファルは遠距離を得意とする。
つまり、適材適所の役割分担だ。
まず一発目はファルの上位炎魔法が口火を切る。
「炎の鎌鼬九連」
九つの炎の鎌鼬が獣人族の前列目掛けて降り注ぐ。
当然獣人族達も防ごうと、魔法を放つも魔力量の違いや質が違いすぎた。
九尾族は炎を得意とし、その威力は獣人族---いや、世界でもトップレベルの威力を誇る。
その為、獣人族の放った魔法は焼け石に水であり、為す術なく
たくさんの被害を被っていた。
ファルのおかげで前線が崩れた事により。その隙を突かんとばかりにシリュウが駆け抜ける。
縦に、横に、真っ直ぐに槍を振り抜き、まさに無双状態だ。
二人が共に戦うのは初めてであったがコンビネーションは抜群であり、次第に獣人族は数を減らしていた。
それも手加減をしてだ。
そんな様子を遠目からバイソンは眺めていた。
身体が震える。
恐怖しているのか?
いや、これは武者震いだ。
自分も戦いたい。
恐らくシリュウが先程言っていたことは本当の事だ。
だが、それを無しに戦いたい。
バイソンも自分は生粋の戦闘狂なんだと理解した。
「シリュウ殿! 我が配下をここまでやられては大将として立つ瀬無し! 配下の仇のためにもいざ尋常に勝負!!!」
「獣王族とやれるとは光栄也!!! いざ尋常に!!!」
二人が共に駆け抜ける。
シリュウは槍を、バイソンは大剣を。
それぞれが武器を振るう。
バイソンの力は凄まじく、まさに獣王の名に相応しいものだ。
シリュウも本気を出さざるを得ない。
こんな実力の拮抗した相手は久しぶりだとシリュウは、いやバイソンも高揚している。
何合打ち合っただろうか。
気付けば他の者達の戦いは止まり、聞こえるのはシリュウの槍とバイソンの大剣がぶつかり合い、風を切る音のみが聞こえる。
皆が武器を下ろし見守る。
いや見入ってしまっている。
何十、何百も打ち合い、一生続くと思われた戦い。
だが、とうとう決着の時が来た。
バイソンが一歩下がり、大剣を後ろに振りかぶる。
力を溜めるとそのままシリュウへと突進し、そのままの勢いで大剣を上から振り下ろす。
あんなのを喰らえば、ゼノンといえど無傷とはいかない。
それ程の威力だ。
シリュウは瞬時に思考する。
後方へ下がっても、避けきれない。なら、、、
シリュウは敢えてバイソンとの距離を詰めた。
大剣の側面を、自身の回転による遠心力も加え少しだけ軌道を逸らす。
そして、大剣が地面に突き刺さった瞬間にバイソンの首目掛けて
槍を突き出す。
「勝負あり!」
レビルと不死の王が既のところでシリュウの槍を掴む。
あのまま、見ていればバイソンの首を間違いなく貫いていた。
「す、すまない不死の王にレビル殿! 熱くなりすぎて不殺を破るところであった」
素直に謝るシリュウ。
そして、バイソンも全てを出し切り負けた。
だからだろうか、負けたのにとても満足した表情をしている。
「・・・・・・すまないシリュウ殿、貴方の話は信じていた。信じてはいたがどうしてもシリュウ殿と手合わせ願いたかった。許されよ」
「気にするなバイソン殿。拙者もバイソン殿とやり合いたいと思っていた。そして、熱がはいりすぎて危うゆ殺めてしまうところであった。許されよ」
シリュウはバイソンに右手を突き出す。
ニヤリと笑いその手を掴み、互いに握手を交わした。
こうして、不死の王、レビルが出るまでもなくシリュウとファルニールの力で獣人族の侵攻を止める事に成功するのであった。
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