自己中伯爵
学校行事当日。
今日は一年生の親子遠足である。
遠足という事もあり、保護者も動きやすい服で来るようにとの指示があった。
ゼノンとメフィもオルレア家の商人であるソルナに頼んで
適当に服を見繕ってもらった。
スタイル抜群の2人は顔も良く、何を着ても様になっていた。
ソルナ「結構な額になってしもうたから後で請求するで旦那様!」
遠足の私服ごときに一体幾ら使ったのだとツッコミたくもなったが、頼んだ事に応えてくれただけだから良しとする。
ゼノン「構わぬが、もう着るかもわからない服に何故そこまで使うのだ」
聞けば服2着に金貨10枚を使ったらしい。
一般市民の年収が金貨12枚ということを考えると、あまりにも高すぎる服であった。
だがソルナは、
ソルナ「あかんで旦那様! オルレア家の主たる旦那様と奥方様がやっすい服なんか着たらオルレア家の名が摺れるってもんや! 見る人が見れば服の性質を見てわかるんやから!」
ソルナの迫力に圧倒されつつあるゼノンは渋々了承した。
そして、集合場所へと着くとおかしな光景を目にする。
大半は動きやすい服を着ているのだが、ポツポツとドレスやスーツに身を包んだ両親の姿があるのだ。
歩きにくさよりも見た目を重視する者もいるのだとゼノンは
何故か感心していた。
代表の先生としてムムの担任であるSクラスのルーガス先生が
始まりの挨拶を始める。
一年生だけでも800人近くの生徒が居り、親も合わせればわ2000人以上の大所帯だ。
そんな沢山の人数を一気には無理とのことで3クラス毎に
場所が違うようだ。
ムム達Sクラスは、A.Bクラスと同じであり人数は200人程である。
それでも約600人近くも居るのだから、凄い大行進になりそうであった。
ルーガス「本日はお忙しい中、沢山の親御さんにもお越し頂き誠にありがとうございます。今回の目的は、親子同士の絆を深めるのはもちろん、横の繋がりも是非にと思っています。本日のコースですが小山を登り、小山の上で昼を食べ
少し休憩した後に泉の近くを歩いて帰ってこようかと思います。事故、怪我のないようによろしくお願い致します」
そんな時、1人の人間が手を挙げた。
この中でも1番ドレスを着飾った場違いな女である。
その女の隣にいる男もやはり、タキシードを着ていた。
「失礼ルーガス先生。私はこの様にとても山を歩ける状態ではなくてよ? 悪いけど馬車で行かせてもらうわね」
有り得ない提案に固まるルーガス。
周りの者達もザワついていた。
よく見れば親だけではなく、娘までドレスを着ているではないか。
この人はAクラスの生徒の親であり、伯爵家の出との事。
上の方の位という事もあり天狗となっているのだろう。
現に周りの者たちも制止する事が出来ずにいた。
しかし、ルーガスは先生としての責務を全うする。
ルーガス「ミネルバ夫人。今回は皆で歩いて親睦を深めるのです。自分の足で山を登り、達成感を得る。馬車に乗っては普段と何ら変わりはありません。
それに、担任からも事前に動きやすい服装で来るようにと言われていたはずです。馬車を使用すると言うのなら今回は
ご欠席願えますでしょうか? 周りの方達にも迷惑となりますので」
伯爵相手だろうと臆することなく発言したルーガスには賞賛の拍手が送られていた。
しかし、ミネルバ夫人には真逆だ。
バカにされ除け者にされたと思ったミネルバ夫人達は怒りに燃えている。
ミネルバ夫人「誰です!!! 今笑ったものは!!! 私達が伯爵家という事を忘れているようね?! 全く穢らわしい」
ミネルバ「その通りだな我が妻よ。それに言っておくが私は魔法局に務めているのだぞ。それも魔法局副局長補佐官をな。伯爵であり栄えある魔法局に務めているこの私に文句がある者はいるのかな?んー?」
ミネルバのその言葉に皆が黙り込む。
そんな中一人の家族がミネルバへと詰め寄る。
そんな光景をゼノン達も遠目から眺めているとムムがいきなり叫んだのだ。
ムム「あっ! ミレディちゃんのお父さんだ!!!」
ゼノンとメフィは記憶を辿る。
メフィ「ミレディちゃんって確か同じクラスの仲良しの子だったかしら?」
ムム「そうだよ! ムムの家にも遊びに来た事があるし、ムムも遊びに行ったよ! 毎日一緒なの!」
ゼノン「うむ。悪い方向にいかなければ良いがな」
そうして、3人は再びその光景を注視した。
ミネルバ「おや? これはこれはブレンタール伯爵ではないか。
全くここの学校の民度の低さには驚かされるよ。君もそう思わないかね?」
ブレンタール「ミネルバ伯爵。ここは学校であり、君の家では無い。それなら学校の指示に従うのが常識ではないかね?
曲がりにも君は上の立場の人間だ。それでは下の者にも示しがつかないと思うんだ。どうだろうか? 共に山を歩こうミネルバ伯爵」
その時だった。
ミネルバは給仕の持っていた水の入ったコップをあろうことか
ブレンタールへとぶちまけたのだ。
あまりの事に辺りは騒然となる。
そして、ミネルバは眉間にしわをよせていた。
ミネルバ「おいおい。君は仕事でも私の下の官職の筈だ。
それなのに、今私に命令したか? ぶをわきまえろブレンタール!!!」
最後に怒声を浴びせるミネルバ。
隣ではミネルバ夫人や娘も薄気味悪い笑みを浮かべていた。
ブレンタール夫人は冷静にブレンタール伯爵の濡れた髪をハンカチで吹いてあげ、ミレディは今にも泣きそうな顔をして心配している。
その横柄な態度に周りもイライラしてはいたが、相手が相手なだけに誰も何も言えないのだ。
しかし、ここでもまた先生であるルーガスが止めに入る。
ルーガス「ミネルバ伯爵! 貴方は何をしているのです! せっかくの親子遠足が貴方のせいでめちゃくちゃです! 今すぐご帰宅願えますでしょうか!」
ミネルバに詰め寄るルーガス。
しかし、ルーガスの言葉は油に火を注ぐ事となる。
ミネルバ「一教師の分際でよくもそんなふざけた言葉をいえたものだ。よし、いいだろう。戻ってカルロス局長に伝える故に覚悟しておけ!」
カルロスの名に一気に顔を真っ青にするルーガス。
魔法局長とはそれほど地位の高い存在であり、学校も彼の管轄なのだ。
つまり、下手をすればクビにされる。
ルーガスは歯をかみ締め何も言えなくなったのだ。
そんな独壇場を作ったミネルバに誰も何も言えなくなってしまう。
ゼノンをおいて。
ゼノン「うるさい小虫のせいで、娘との楽しい時間が減っている。消えるかお前?」
ここに来てようやく真打ち登場であったのだった。
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