新たな選択
ゼノンの言葉に驚く3人。
そして、1人がゆっくりと口を開く。
「?! いえ、教皇はこの国のトップに立つお方。上に居るなど有り得ませぬ」
嘘はついていない。
となると、教皇に指示しているものを知っているものも教皇しかいない。
となると、やはり教皇を直接捕らえて吐かせるしかなかった。
今回も手がかりを掴むことは出来なかったのだ。
そして、手掛かりがない以上、この3人を捕らえている必要も無くなった。
ゼノン「ふむ。それもそうだな。では以上だ。解放してやる故に家へ帰るが良い」
ゼノンは紐を切り裂いた。
戸惑う3人であったが、解放したにも関わらず、何故か喜んでいなかった。
ゼノンとハドソンが不思議に思うと、捕虜達の代わりにガルムが代弁する。
ガルム「ゼノン様。この者達は恐らく帰りたくとも帰れないのです。暗殺者が任務に失敗したとあっては戻っても殺されるのがオチなのです。ましてや、相手は教皇。間違いなくこの3人は殺されるでしょう」
ガルムに言われて納得した。
解放したにも関わらず、いつまでも苦い顔をしている3人。
言われてみればわかる事だ。
暗殺を失敗したものに二度目のチャンスなどあるはずも無い。
所詮金で雇われている身なのだから。
教皇と暗殺者の間に信頼関係などあるはずが無い。
そこでガルムは一つの案を出す。
ガルム「殺しましょうゼノン様」
ゼノンは少し眉を上げる。
逃がしても殺される身なら、下手をすれば玉砕覚悟でまた仕掛けてくるかもしれない。
ガルムの発言は最もである。
そして、暗殺者の3人もその答えを最初から知っていたのかは知らないが甘んじて受ける覚悟であった。
現に、3人は正座し目を閉じている。
これが暗殺者の道なのだ。
ゼノンは初めて知る事になる暗殺者の世界。
確かに多額の金を貰えはするが、失敗すれば死あるのみ。
そして、成功しても死ぬ可能性もある。
つまり、綱渡りの世界なのだ。
ゼノンは暫く目を閉じて考えた。
ゼノン「お前達は私が雇おう。私の目となり耳となり、ガルムの
助けをしてやれ。良いなガルム」
その言葉に驚くガルム。
世界最強の魔王であるゼノンがここまで良心的だとは思わなかった。
そこらの人間よりも人間の心を持っているのだから。
そして、暗殺者の3人も同じ事を思った様で目に涙を浮かべ驚きを隠せずにいた。
ハドソン「ゼノン様が唱えた事に異議は有りませぬ。しかし、この3人がいつまた反旗を翻すかもわかりません。何せ暗殺者は得体の知れぬ集団です。寝首をかかれる恐れがある事を重々お考えくだされ」
ハドソンの言葉もわかる。
確かについ先程まで自分の命を狙っていたものだ。
だが、これから相手を知るにはガルム1人ではきっと限界が来る。
相手は仮にも教皇であり、国のトップである。
そうなれば、ガルムにも助手が必要になることは必然。
デメリットよりもメリットの方が多い。
ゼノンはそう考えた。
それに、この3人が裏切らない事は既にわかっている。
何せ、2択のウチの両方が死への道だったのたから。
戻っも殺され、逃げたとしても永遠と追われる。
ゼノンの案を暗殺者が無下にすることは限りなく低いと思われた。
そしていつまでも黙り込んでいる3人にガルムが催促する。
ガルム「いつまで黙っている。ゼノン様がせっかくお前達に生きる道を選択させてやったんだぞ。さっさと応えろ」
威圧的な態度でそう話すガルム。
ガルムもこの3人が過去の自分と重なったのだろう。
ガルムは迷いもなくゼノンに従うことを決めた。
ゼノンからの施し、天の施し。
ガルムは今でこそ、ゼノンを神の様に尊敬していた。
そして、ガルムに催促された3人は目を合わせた後にようやく口を開いた。
「我等3名、ゼノン様に忠誠を誓います」
片膝を着き両手を合わせ頭を下げる3人。
そして、ゼノンへの忠誠を誓った。
最早これしか生きる道がないのだから当然といえば当然の結果である。
ゼノン「うむ。一つお前らに絶対守ってもらわなければ行けない事がある」
ゼノンの言葉に息を飲む3人。
暗殺者に守ってもらわなければいけないこと。
恐らく只事では無いだろうと予測する3人。
そんなオドオドしている3人を見てガルムは笑っていた。
ゼノン「何よりも命を大事にしろ。お前達の仕事は教皇の動向を
探る事だ。だが、死んでは意味が無い。例え失敗しようが生きて帰れ。わかったな」
ゼノンの存在は強大で恐ろしいものであった。
何もする気力が無くなるほどに。
だが、今暗殺者達の目の前にいる主は何故か暖かかった。
気付けば3人とも目から涙が溢れる。
生まれて初めて言われた言葉。
命を大事にしろ。
暗殺者が最も聞きなれない言葉だ。
ガルムも過去のことを思い出す。
今と同じ事をガルムも言われた。
そして、それは口先だけの言葉では決してなかった。
ゼノンは無理な願いはしてこない。
何よりも命を気遣ってくれる。
現に週に一度の報告もそうだ。
何も報告することがなくとも、その度にガルムはゼノンに会い
そして無理はするなと毎回言われる。
その言葉を聞く度にガルムは、ゼノンの為に頑張りたい。
そう思えるのだ。
だから、先程ガルムは笑っていた。
3人がどうなるか目に見えていたから。
そして、ガルムの予想通り3人は心の底からゼノンへ忠誠を誓うこととなりガルムの手足となりしっかり働くのだった。
教皇の情報は増えなかったものの、これで偵察の手が増え教皇を
奈落へと落とす準備が着々とできていたのであった。
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