第2部 驚愕のニュージーランド編 VOL6「自分の心臓の音を聴く」(1997年)
ー驚愕のニュージーランド編 VOL6ー
「自分の心臓の音を聴く」
マウントクック 1997年1月
一夜明けてトレッキング開始。
後半かあーなりキツイ登りになる
コースを選ぶ。
朝から世界最高の自然のひとつを
肌で感じて歩くなんてなんとも幸せである。
ゼイタクな散歩だあ。
幅1−2mの土の道を歩いて行くと、
紫やピンクのルピナスという1m位の高さの
棒みたいな花が群生して美しい。
ムーミンに出てくるニョロニョロみたい。
茂みが途絶えると左手にはすぐそこに
険しい山肌が、右手にはアフリカを
連想するような草原が広がる。
フシギなのは強い陽射しの下を
Tシャツ短パンで歩いているというのに、
今にもライオンやシマウマの群れが
走ってきそうな草原の向こうには
上3分の1を真っ白な雪で覆われている
高い山々がそびえ立っていることだ。
どの山も氷河で削られて荒々しく見える。
途中に幅1mほどの浅いせせらぎが
2本現れた。
1つはやや冷たいキレイな流れで、
その5mほど横のもう1つは白っぽく
濁っていてキンキンに冷たい。
白っぽいのは氷河に削られた岩の成分が
水に混じっているからだ。
ふうーーーん、オモシロイなあ。
並んで流れてるのにルートが違う。
あっちは山水でこっちは氷河が
解けたものなんや。
ニュージーランドのあちこちの川や湖は
この白っぽい岩の成分のために
俗にミルキーブルー、ミルキーグリーン
というような感動的に美しい色
になっている。
ガサガサッ!
茂みから鳥やウサギが飛び出す。
いろんな高山植物を見ながら
ウキウキして歩く。
時々すれ違う世界中からここを歩きに
やってきたひと達と挨拶を交わす。
「Hi !」
「Great place ! isn't it !?」
30分ほどして?分岐点。
98%?の人は平らな道をまっすぐ行くけど
俺は左へ。
さて、と本番だ。
ここからセアリーレイクまでは2時間。
ずうーーっと急登だ。
2年前にこの上で20代の日本人女性が
行方不明になった。
気の毒だけど転落死に間違いないだろう。
でっかい岩がゴロゴロしている道を
転げ落ちないように慎重に登る。
予想よりずっとキツイ!
これはもはや山歩きじゃない。
経験したことのないハードな岩登りだ。
確かに死者が出てもおかしくない。
孤独感と共に緊張する。
さっきまでの穏やかな散歩とは全く別世界。
かあーなり上の方に1人見えるだけ。
それにしてもなんという角度だっ。
20分も行くともうヘロヘロ。
「3分置き」に休憩する。
振り返ると素晴らしい絶景が広がる。
「おおーーーっ! スッゲエエエエー!!」
息も絶え絶えでも、さらに上からこの景色を
見たいという欲望に突き動かされる。
「あかん! ギブアップや!
はあ! はあ! はあ!」
でっかい岩がテラスのように突き出した上で
ついにへたばってひっくり返る。
上にも下にも誰も見えない。
一切生物の存在を感じない
信じられないほどカンペキな静寂。
誰かに騙されて大ーーきな美しい絵を
見せられてるようなまったく距離感のない
非現実的で雄大な風景、、、、。
ドッキュン! ドッキュン! ドッキュン!
無音の空間で驚くほど生々しく響く!
スゴイっ!
「こ、これが俺の心臓の音かあ!!」
なんという躍動感!!
俺は今、確かに生きているのだ!!
「命」を感じたいあなた、登ってみるう?