表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

もう私のことは放っておいて下さい!

作者: メイリ

 私は今まで思い違いをしていたらしい。

 私の好きな人も私に好意を持ってくれていると。



「なあ、最近ナージュと仲良いみたいじゃん。あの子小さくて可愛いよな、俺にも紹介してくれよ」


「………はあ? 別に仲良くないって。それにあの子は気難しいからお前には合わないって。それより医療チームのカタリナの方が大人っぽくて良いんじゃないか? 」


 別に盗み聞きしたくてしたわけではない。

 ただ、たまたまその時間にそこを通りかかっただけ。

 だから私がこの会話を聞いてしまったのは全くの偶然だ。

 ………こんな形で失恋するとは思っていなかった………想いを告げる事さえ出来ないなんて。


 そう、先程の会話に出てきたナージュとは私の事だ。

 そして私のことを気難しいし、仲良くもないと言い切っていたのが私の好きな人であったカルロである。



 私はこのガルグランド王国の魔術師隊、第一防衛魔術隊の隊員だ。

 ちなみにカルロは同じく魔術師隊の第一攻撃魔術隊の一員である。

 主な仕事は魔獣の討伐、基本的に攻撃、防衛、医療の魔術師隊からそれぞれ人を出すが、第一隊はその中でも実力が他の隊よりかなり高い。

 余談ではあるが、先ほどカルロが大人っぽくて良いと言っていたカタリナも医療チームの第一所属だ。

 なので私達は魔獣討伐の際顔を合わせる頻度が高い。

 さらに余談だがカタリナは私の親友だ。



 別に私とカルロは何かが始まっていたわけではない。

 ちょっと最近話す機会が増えて、仲良くなれたと思っていたのが私だけって言うことだけで。

 でもさ、いくら私が気難しい性格だからって自分の友達にそんなこと言わなくてよくない?

 確かにカタリナの方が美人だけどさ。

 何が悲しくて好きな人から自分を貶す発言を聞いて、しかも違う人を褒める言葉を聞かなきゃならんのだ。

 あれか? これがいわゆる可愛さ余って憎さ百倍ってやつか?

 それにカルロは女性人気が高く、どんな女性にも優しい………なのに私だけこんな扱い、泣ける。



 私がこんなしょうもないことで傷付いていても仕事は待ってくれない。

 今日も元気に魔獣は暴れるのである。



「ナージュ! 北東の砦にオークキングが出たってさ! 」


 へいへい、出ますよ。

 仕事に私情は持ち込まない主義なのできっちりお務めを果たします。

 オークキングだったら魔術隊からは絶対カルロが出て来る。

 それに医療からはカタリナだ。

 ………うん、頑張ろ。





「来たぞ! オークキング二体、それからオーク百、ゴブリンが二百だ! 思ったより多いな、防衛魔術隊やってくれ。そのあと攻撃隊頼む! 」


 指揮官からの指示が出た。

 私はすぐに術を展開する。

 自慢じゃないがまだ若手の私が一番防衛能力が高い。

 私は魔獣を囲むように結界を張る、例えオークキングだってこの結界を壊すのは難しい。


 防衛魔術隊の結界を確認し攻撃隊が動き始めた。

 結界に囲まれたオークやゴブリンがどんどん駆逐されていく。

 そんな中カルロが飛んだ。

 オークキングに斬り込んでいく。

 カルロは魔法剣士、剣に魔力を乗せて戦う。

 オークキングは特に私が結界を張っているのでそこから動くことが難しい。

 カルロや他の攻撃隊が集中砲火を浴びせる。




 ふう、今日も大きな怪我人もなく無事討伐が終了した。

 最近はこの後カルロとご飯に行くことが多かったがあんなことを聞いた後だ、顔を合わせるのも嫌だ。

 なのに、どうしてこの人は私の目の前にいるのでしょう?


「今日の結界も完璧だったね。お疲れ様、ナージュ。お腹もすいたしご飯食べに行こうよ」


 ふーん、あんなことを言ってたくせにご飯誘えるんだ。


「………今日はお腹すいてないから行かない」


 私の言葉にカルロが眉を下げる。


「珍しいね………もしかして具合悪い? 」


 心配そうにこちらを見てくる。

 おう、具合悪いさ、あんな言葉を聞いたらね。

 なんか、もう今日は本当にカルロと話したくない。

 するとそこに運が良いのか悪いのかカタリナが来た。


「カタリナ! カルロがお腹すいたみたいだから付き合ってあげて」


「え? 私? 」


「うん、気難しい私より、大人っぽくて美人なカタリナの方が良いよ。じゃあ、そう言うことで私は帰るね。カタリナあとはよろしく」


 疲れていたからか言うつもりのなかったことまで言ってしまった。

 完全に私の八つ当たりだ。

 これだから気難しいなんて思われるんだ。

 私は泣きそうになる目をギュッと閉じてその場を後にした。







「ねえ、あんたナージュに何してくれたの? 」


 目の前のカタリナが俺にそう責めるように言ってくる。

 わかっている、完全にこの間のことが原因だ。

 まさかナージュに聞かれていたなんて………。

 俺は最近浮かれていた。

 ずっと好きだった防衛魔術隊のエース、ナージュとお近づきになれたから。

 彼女の術を初めて見た時に自分の魔法がいかに未熟か悟ったんだ、それ以来彼女のことが気になりいつも目で追うようになった。

 しかしナージュは警戒心が強く、なかなか近付けなかったのだ。

 だけど何回も一緒に魔獣の討伐に行くうちにようやく世間話が出来るようになり、食事にも行けるようになったんだ。

 なのに、そのようやく掴んだ座を同僚が簡単に紹介しろなんて言う。

 まあ、端的に言うとその同僚に思ったことは『消えろ』だ。


「実は………」


 俺はカタリナにこの間の同僚との会話内容を話した。




「馬鹿だ。大馬鹿がいる。っていうかあんたのせいで私もナージュから避けられる可能性が高いんだけど、どうしてくれるの? 」


「面目無い………」


「いや、マジな話これからナージュに近付けない可能性が非常に高いよ」


「確かに避けられるかもしれないけど、誠心誠意謝るよ」


「そういう事じゃなくて、あんたナージュの術のこと忘れてない? ナージュが本気で結界を張ったら私もあんたもナージュを見つけられないよ」


 ………そうだった。

 ナージュは結界術の天才、自分の身を隠すことも自由自在だった。

 それでも、俺は心の何処かでナージュはそんなことしないと思っていたんだ。





「ナージュの姿をここ一ヶ月全く発見出来ない………」


 俺は頭を抱えた。

 もちろん討伐には来ているはず………あんな見事な結界はナージュ以外作れないから。

 でも、その姿を俺は見つけることが出来ない。


「私だって会えてないよ。まあ、あんたとは違って私はナージュから手紙もらったけどね」


 カタリナがどこか呆れるようにそう言った。


「手紙って………なんて書いてあったんだよ? 」


「うん? 内容? カタリナは全然悪くないのに会えなくてごめんって。気持ちの整理がついたら会いに行くって書いてた」


 そうだよな………カタリナは関係ないもんな。

 ああ!! あの時の俺、同僚の話を断るにしろ何でナージュのこと気難しいとか言っちゃったんだよ。

 しかもそれを本人に聞かれるとか、弁解の余地がない。

 このままもう会えないんだろうか。


「ねえ、あんた無言で泣くのやめてよ。私が虐めているみたいじゃん」


 駄目だ、最悪のシナリオしか浮かばない。




 かれこれ一カ月ほどカルロを視界に入れていない。

 冷静に考えれば、気難しいなんて今までも言われてきた。

 でも、今回許せなかったのはやっぱりカルロのことが好きだったから。

 これがまだ話もしない、食事も一緒にしない状態で憧れだけの時なら、きっと私はすぐに許せてた。

 だけど、今回はもう仲良くなってたし、好きになってたんだもん。

 あの時のことを思い出すと今もまだ泣きそうになる。



 ここ最近は大きな討伐がないから会わないですんでいるけど、それがいつまで持つか………。



 そんなことをちょっとでも思ってしまったからなのか、ついにアレが出てしまった。



「ナージュ! レッドドラゴンが出た! 」


 来ちゃったか、災害級。

 これはさすがに今までのようにはいかない。

 攻撃隊の人達にも個別で結界張らないとドラゴンのブレスを防げない。

 しかもその役目は私が適任………これは仕事、仕事なんだから。

 いくら腹が立つからといって、怪我をしてほしいわけじゃない。



「さあ、第一攻撃隊の方達、今から個別に結界を張るのでこちらに来て下さい! 」


 私は順に攻撃隊の人へ結界を張っていく、怪我の無いよう念入りに。

 そして最後の一人、カルロが私の前にやって来た。

 私は無言で結界をカルロに張る。

 張り終わった途端、カルロが私の手を両手で握ってきた。


「ナージュ………あの、この間は本当にごめん! でも、俺、話聞いて欲しくて………。この戦いが終わったら俺と会ってくれないか? 」


 戦いの前にそのセリフ、これは危険な予感に繋がるヤツでは?


「………とりあえず今は戦いに集中しましょう。遊んでいる暇はありませんよ」


 私はそう言うとカルロの手を抜けて去ろうとした。

 すると後ろから再度カルロが


「俺、すぐに討伐してくるから! だから戻って来たら話を聞いて欲しい! 」


「………わかったから、早く行って。でも、怪我なんかしたら話聞かないから」


 私の言葉にカルロが嬉しそうに、わかった! と叫んでいる。

 はあ、何であんな言い方しか出来ないんだろう?

 ってこんなところで落ち込んでいる暇はないんだ。

 私は私が出来ることをしないと。

 私は医療チームの方へ向かった。




「カタリナ、久しぶり。ごめんね」


「ナージュが悪いわけじゃないわ。あのバカが悪いのよ」


「うん、でもカタリナだって巻き込まれただけなのに嫌な思いさせてごめん」


「もういいよ。この討伐終わったらジョッキパフェでもおごってちょうだい」


「うん、任せて。それで、その討伐なんだけど、あのさ、お願いがあるの」


 私のお願いにカタリナは最初は渋ったけど、最終的に叶えてくれた。


「言われた通り用意したけど、これ使うの? 」


「使わないで済むならそれで良いけど、さすがにレッドドラゴンはどんなに準備してても足りないよ。だからこれは最終手段。奥の手を準備しとかないと今回は安心できないもん」


 私はカタリナが用意してくれたものを自分のマジックポーチへ突っ込んだ。

 さあ、ドラゴン退治だ。




 ドラゴンが降りたのは小さな村だった。

 村人は避難して無事だったが、家屋がかなりやられている。

 今、第一攻撃隊が魔法の集中砲火でドラゴンを抑えている、だけどドラゴンもまだまだ力があり余ってるのかブレスを吐きまくっていた。

 私は攻撃を受けて結界が綻んできている人を見つけては、修繕している。


 そんな中、攻撃隊の一部がドラゴンに斬りかかった。

 その中にカルロもいる。

 ドラゴンはその攻撃が気に食わないのか勢いよくブレスをぶっ放していた。

 それでも攻撃隊の攻撃が止まないのが頭に来たようで攻撃方法を変えた。

 その大きな口で攻撃隊を飲み込もうとしている。

 さすがに飲み込まれたら私でも結界を治せない、攻撃隊は避けていたがそのうちの一人がバランスを崩した。

 そのチャンスをドラゴンは見逃さない、しかもカルロがその隊員を庇ってドラゴンの前に出た。

 私はもう飛び出していた、全速力でカルロの前へ。

 そして勢いよくカルロとカルロが庇っていた隊員を結界で覆い、飛ばした。

 私の目の前にはドラゴンの大きな口、あっという間に私はドラゴンに飲み込まれた。




 ふむ、噛まれなくて良かった。

 私はそのままドラゴンのお腹の中に入り込んだ、私を消化しようと消化液がドバドバ降ってくるけど、私は完全に結界に覆われているから問題ない。

 さて、やっぱりカタリナに用意してもらって良かった、備えあれば憂いなしだね。

 私は自分のマジックポーチからビンを取り出した。

 これはカタリナに用意してもらった猛毒だ。

 ピンチになったら口に放り込んでやろうと思っていたけど、それより直接内部に塗り込んだ方が良いよね。

 私はそのビンを勢い良くドラゴンの中で撒き散らしてあげた。

 しばらくするとドラゴンが暴れ始める、おお、効いてる、効いてる。

 あとは私の魔力が切れる前にドラゴンが倒れてくれれば良いけど。



 どのくらい経ったかな………。

 たぶんそろそろドラゴンはヤられるはず。

 ずっと結界を張りっぱなしだったからさすがにしんどいわ。

 私は念のために準備しておいた、自分の魔力を使わなくても結界を維持できる魔石を取り出した。

 うん、これがもっている間に救出求む。

 私は途切れる意識の中そう願った。






 パチッと目が覚めた。

 周りを見渡す、ここは………。


「ナージュ! 」


 カタリナが勢い良く飛び付いてきた。

 ちょい苦しいです。


「カタリナ、苦しいよ。私は………」


「もう、ナージュ無理し過ぎだよ! 本当に死んだかと思ったんだから! 」


 どうやらここは病院のようだ。

 説明によるとドラゴンの腹から助け出された私は三日間眠っていたらしい。

 魔力が底をついたことが原因で、もし魔石がなかったら完全に消化されていたかもの事態だった。

 目が覚めてからも魔力が安定するまで入院するはめになったのだが、その間、私の耳にはいろんな噂が入ってきた。

 カルロがドラゴンスレイヤーの称号を得たとか、今度城でドラゴン討伐の祝賀会があるとか、それからその祝賀会でカルロと第三王女様の婚約が発表されるとかだ。

 正直、もうどうでもいい。

 私は、私の気持ちのままにカルロを助けたことを後悔していないし、その結果私の初恋が消えたことも別にしょうがないと思っている。

 でもね、周りはそうは思っていなかったんだよね。




「ナージュ、魔力は安定してきたな? 明日お前にはドラゴン討伐の祝賀会に参加してもらう。うちの大事な魔術師を無視した祝賀会なんてどうでも良いんだが、それでは他の隊員も収まらない。兄上………陛下にもお前の活躍を認めさせてやる! 」


 と、このように本人よりも周りがヒートアップしているのですよ。

 ちなみにこの方、王弟様です。

 魔術師団のトップを務めております。

 この方のおっしゃるには、他の魔術師達も私の活躍が城に伝わっていないのが本当に腹が立つから、団長やっちゃって下さいよ、との伝言を皆から預かっているとのこと。

 一応カタリナにもその話を聞いたら、見目の良いカルロを元々気に入っていた第三王女様の為にドラゴンにとどめを刺したカルロをドラゴンスレイヤーとして英雄のような扱いにし、王女様を降嫁させようとしているんじゃないかという噂らしい。

 なんか話がどんどん大きくなっていって、私では太刀打ちできない。


 とりあえず祝賀会への参加は回避できないようだ。

 着ていくものもないのに………と思っていたらドレスとアクセサリーが届きました。

 団長がくれました。


 ………ええ、驚くことにサイズピッタリ。

 はあ〜、しょうがない、カルロと王女様の婚約でも見に行きますか。

 エスコートは驚くことに団長がしてくれるとか、変に目立つの嫌だな。





「おう、ナージュ似合っているぞ。お前着飾ることがないからな。こうやってドレスを着て化粧をするとどこの御令嬢だ? って感じだな」


 団長が笑いながら褒めているのか、貶しているのかわからない感想をくれる。


「ありがとうございます? 」


「おい、何で疑問形で礼を言う」


 団長は王弟様だがとても気安く、軽口たたいても怒らない。

 私達はそんな会話をしながら会場に入った。

 会場には魔術師隊の姿も数多く見受けられる。

 彼らは私と団長を見つけると笑顔で挨拶してくれ、中には私の体調を心配してくれる人もいた。

 特に私がドラゴンの腹に入るきっかけになった、バランス崩してカルロに庇われた攻撃隊の人は私を見ると泣いて喜び感謝の言葉をくれた。

 そんな風に会場で挨拶をしていると何やら会場がざわつき始めた。





「この度はレッドドラゴンの討伐ご苦労であった。特にドラゴンにとどめを刺した攻撃隊のカルロ・バーンズは見事であった。そなたにはドラゴンスレイヤーの称号を与える」


 ふむ、どうやら噂通りカルロがドラゴンスレイヤーの称号を得るようだ。


「ありがとうございます。とても有難いお話です。しかし私にはその称号を与えてもらえるような働きは出来ておりません。今回のレッドドラゴンの討伐は一人で成し遂げたものではありませんから」


「いや、確かに皆で掴んだ勝利かもしれんが、そなたがとどめを刺したことも事実。そしてドラゴンスレイヤーたるそなたには我が第三王女との婚約を与えようと思う」


 ふむ、噂通り婚約するのね。

 しかし陛下もどうするつもりだろう、この私の隣にいる怒れる団長を。

 団長だってカルロがドラゴンスレイヤーの称号を得られることは喜んでいる、けどその他討伐に関わった魔術師に対する扱いが酷いと………特に私のことを気にかけてくれている。


「本当にレッドドラゴンの討伐で活躍したのは私ではありません。むしろ本当に活躍したその方を差し置いて私がそのような名誉をいただくのは他の魔術師達にも顔向け出来ません」


 陛下や宰相はカルロの説得に必死だ。

 そんなに第三王女様と結婚させたいのね。




「そろそろ潮時だな。いくぞナージュ! 」


 そう言うと団長は私の手を自分の腕に絡ませスイスイと陛下達の方へと向う。

 いや、私はそんなところに行きたくありません!

 でも何故か他の魔術師達は私達を笑顔で見送った。




「陛下、それ以上我が団員を困らせるのはやめていただいてもよろしいでしょうか? 」


 団長の声に陛下達はこちらを振り向いた。


「サリアスか。別に困らせているわけではないぞ。こんなに名誉なことなのだから素直に受け取るべきだと言っているだけだ」


「名誉………ね。ドラゴンスレイヤーの称号だけならそうかもしれませんが、第三王女の降嫁は違うでしょう?それから報告はしていましたが、何故一番活躍したものを無視するのでしょうね」


「それは………やはりドラゴンにとどめを刺したものにだな………」


「それは国としての考えですか? 」


 団長の言葉に陛下と宰相が唸っている。

 もしかしてこの二人の独断か?


「はあ〜、黙っていようかとも思いましたがここで言うことにしましょう。不良債権を我が団員に押し付けるのはやめていただきたい! 」


「な、何を言っている! 不良債権などといくら弟と言えども許さんぞ! 」


「それはこちらのセリフです。うちの団員を馬鹿にするのもいい加減にしてもらえませんか? ここで証拠を出しても良いのですよ? 」


「証拠だと? 王女が何をしたと言うのだ! 」


「まだ言いますか………。学園に留学してきていた王女の婚約者である隣国の公爵子息に冤罪吹っかけて婚約破棄騒ぎを起こしたとか、しかもその冤罪は自分のお気に入りの伯爵家の次男をいじめたとかなんとか意味がわからない理由、その伯爵家次男は相思相愛の婚約者がいるのに王女に付きまとわれて大層困っていたと………いくら学園でのこととはいえ限度があります。しかも今度はそれをうちの大事な団員の婚約者に据えようとするとは、あまりにも酷い。それで、証拠でしたっけ、ありますよ。記憶の水晶に全て記録しています。一応王族だからうちの魔術師隊の何人かが警護についていましたし。本人は気付いてなかったようですけどね」


 団長の言葉に陛下がガックリと肩を落とす。


「諦めてもらえましたか? もしまだ諦めないのであれば、魔術師隊は希望者連れて隣国に行こうかと思っていますけど。ちなみに事前に確認したところ魔術師隊の八割は乗り気です」


 この言葉に陛下と宰相が大慌て。

 今までの話はなかったことに、となった。

 なんかよく分からないけど解決したようで良かった。

 どうやらドラゴンスレイヤーに嫁ぐなら、隣国の公爵子息に対する婚約破棄騒動もなんとかなるんじゃないかとの浅はかな考えでやったらしい。




「ナージュ! 」


 カルロが私と団長の前にやって来た。


「………と団長。先程はありがとうございました。と、それはそれとして、何故団長がナージュのエスコートをしているのですか? 」


 何故かカルロから冷気が出ている。

 やだ、魔力漏れてるよ、寒いな〜。


「カルロ、男の嫉妬は醜いぞ。でもまあ、若者に可愛い部下に声をかけるチャンスをやるか」


 そう言うと団長は私をカルロの方へ軽く押した。

 ええ? ありがた迷惑なんですけど。


「ナージュ、身体は大丈夫? 本当はすぐに会いに行きたかったんだけど許可がおりなくて。それで約束通り話がしたいんだ。場所、移そうか」


 まあ、こんなところでするような話でもないしね。

 私達は城の中庭へ向かうことにした。




「それで話って何? 別にもう怒ってないし、姿も隠さないよ。これからも同僚として協力して魔獣退治していけば良いよね? 」


「姿を隠さないのは嬉しいけど、ただの同僚は嫌だ」


「うん? まあ、怒ってはいないけど私のことを良く思ってない人とご飯は食べたくないからな〜」


「ただの同僚より悪化してた!? あの事は本当に俺が悪い。でもあれは俺の本心なんかじゃないんだよ」


「でも、友人に言うくらいなんだから………」


「違う! 違うんだよ………あれは、その………ナージュのことをアイツに紹介したくなかったんだ! 」


「うん、しょうがないよ。友人にそんな気難しい人紹介したくないよね」


「だーーーー! だから違うんだ! お、俺は………俺はその、す…………好きなんだ!! ナージュの事が好きだから他の男なんて紹介したくなかったんだよ! なんで好きな子を、その子に興味持ってるやつに紹介しなきゃならないんだよ! むしろあの時思っていたのは、アイツ『消えろ! 』一択だったんだ。でも、まさかそれをナージュ本人に聞かれていたなんて………。一カ月ナージュの姿が見えなくて、本気でアイツを呪おうと危なく呪術に手を出すところだったし、三日に一回は後悔で泣いてた………。いくら怪我しても泣かないのに、ナージュと会えないと思ったら涙が止まらなかった。ああ、あの時に戻れればと時空術も本気で調べたよ」


 な、なんか凄いこと言われたような気がする。

 え? カルロ私のことを好きなの?

 しかもなかなかに重い想いをお持ちのような。


「えっと、確認なんだけどカタリナより私のことが好きなの? 」


「あ、当たり前だろ! あの時は、アイツがナージュにこれ以上興味を持つとマズイと思ってカタリナの名前を出したんだ」


 あ、そんな理由。


「なあ、ナージュ、俺もう誤魔化さない! もし誰かにナージュの事紹介してほしいって言われたら、俺の好きな子に近付くな、もし近付くなら月のない晩は気をつけろって言うから」


 いや、それは脅しだよ。

 もう、なんなの?

 カルロが変な風に覚醒しちゃったよ。

 でも、自分でもおかしいけど心の中ではそれが嬉しいと感じてしまう。

 諦めようと思っていたけど、全然諦められていなかったんだ。


「あのね、私、カルロに気難しいって言われて、カタリナの方が良いって言われて凄く悲しかったの。だって………好きな人に嫌われていたって思ったから」


「うん、本当にごめん。…………………うん?! え? 今、聞き捨てならない事が………好きな人? 」


 カルロが驚いた顔で自分のことを指差している。

 私は頷いた。

 するとカルロが勢い良く私のことを抱き締めた。


「ほ、本当に? 俺達両想いだったの? っく、な、なんでこんな遠回り………あの時の俺コロス! 」


 本当に悔しそうにするカルロを見てたら私は笑ってしまった。

 それを見たカルロも困った顔をしていたが、最終的に二人で笑った。

 遠回りしたけど、私の初恋はなんとか叶いそう。



「よし、じゃあ、いつ結婚する? 」


 いや、カルロ、早い、早過ぎるよ。



 そういえば余談ではあるが………。

 陛下と宰相、第三王女様のその後について。

 もともと王女様は側室様の子、そして宰相は側室様の兄、この段階でイロイロ察するが寵愛している側室様の子である王女を庇おうとした結果、貴族、魔術師団からも睨まれた状態を作り出しましたとさ。

 王妃様もお怒りモード、王太子様が即位するのは時間の問題らしい。

 んで、さすがに冤罪かまして婚約破棄した事はもう庇えなくなり王女様は、遠く北の国の国王の第十四妃としてひっそりと旅立っていった。

 陛下の退位と共に宰相も辞めることが決定していて、今は急ぎ引き継ぎをしているとのこと。

 今までもちょくちょく陛下、側室様、宰相がやらかしていたけど王妃様がなんとかしていたらしい。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 間抜けなすれ違いが面白かったです。王弟が話の通じる人で良かった [一言] 駄目王女を見るたびに王妃が謎の死を繰り返す、加害趣味を持った隣国の王がいればいいのになぁと思ってしまいます。
[気になる点] 全部ヒロインが馬鹿なせいですよね?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ