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笑顔の続きをまた見せて!  作者: 小林汐希
16話 託された手の温もり
34/40

【16-3】




 扉の奥に消えた一人の看護師に、本当に世話になったことをしみじみと感じた。


 もちろん、美穂がいろいろと話してくれていたのだろう。


 本当なら他の患者さんの担当もあったのではないだろうか。


 昨日の夜にも話を聞いたし、いくら美穂が手術当日との理由があったとしても、患者一人に看護師一人ということはないはずだ。


 入院した初日、同じ部屋の患者さんたちの言葉、ひとりで夜の公園でシャボン玉を飛ばしていた寂しそうな姿も思い出す。


 どれだけ医療が進んでも、最後は患者の意思だと彼女から教えてもらった。


 治りたいという意思の強さで体調はいかようにも変わる。


「美穂、約束どおりに戻ってこい。みんな待ってるんだから」




 三河さんが仕事に戻ってから1時間は経った頃だろうか。


 別の看護師さんが俺たちを呼びに来た。


 最初に面談室に通されて、今回の手術の結果を教えてもらう。


 端的に言えば手術は無事に終了したとのこと。


 これまで取り付けてあった人工の弁を取り外し、彼女自身の組織を使った弁がすでに機能している。いきなりではないけれど、少しずつリハビリをすすめて馴染んでいけばもう心配はない。


 薬も少しずつ減らしていけるから、生活のレベルもこれまでとは全く違ったものになってくる。


「ありがとうございます」


「いや。本当に今回は竹下さんの意思が強かった。回復も早かったですよ」


 心拍も、懸念だった麻酔から醒めるのも想定したタイミングより早かったと。


「最初にお会いしたときよりも、体力も気力もある。こんどは元気になりますよ」




「小田くん、君のおかげだ。ありがとう」


 美穂の父親だった。両手で握手を求められて、なんだか少し恥ずかしい気もする。


「いえ、大したことはしてないです」


「君が美穂に治したいと思わせてくれた。それが一番だ。ありがとう」


 その横で、彼女の母親も頷いてくれた。


「これからは、どうぞ娘を頼みます。幸せにしてやってほしい」



 もちろん、このあとの段取りも全員が知っている。


 半年前、美穂と俺が交際、そしてその先を意識したときに、治療を受けることを条件にしたこと。それ以外は反対することはないと言われていたから。




 ベッド周りの用意ができたということで、彼女の母親と俺の二人でICUに入らせてもらうことにした。


 服を着替えて、エアーシャワーを浴びて、殺菌などの厳重な準備をする。


 部屋の中には、バイタルメーターの音などが常に響いていて、一般病棟とは全く違う緊迫した世界だ。


 ここでは「無言の退院」をさせたくないという気持ちスタッフの懸命の努力が続く特別な部屋だ。


 そのなかでも比較的落ち着いているエリアに三河さんが待っていてくれた。


「美穂さん、小田さんいらっしゃいましたよ」


 三河さんが言ってくれて、美穂が頭をあげようとする。


「まだ無理すんな。そのままでいい。よく頑張ったね」


「うん、はやく帰りたかった……。ヒロくんのとこ……」


 彼女の言葉が全てを総括してくれている。


 三河さんが、左手に巻いてあった包帯を外してくれた。


「今度は、結婚指輪プレゼントさせてくれよ?」


「うん。いつ行くの?」


 美穂の顔を見た。


「まだ市役所が開いているから、書類は今から行ってくる」


「うん。ありがと……」


 三河さんに明日からも見舞いに来ることを伝えて、俺は頷いてくれた美穂の母親に見送られて病室を離れた。


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