表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

淑やかな令嬢は我慢がきかないとき暴力をふるう

作者: 塚本慧

「あれっ!」

 目の前の光景、そこには今まで生きてきた中で一番の衝撃を受ける光景が広がっていた。


「なぜ? えっ? あれっ」

 なぜこんなことに。

 なぜ第2王子が頬を押さえて倒れこんでいるの?


 王子の背後にいつも控えている護衛兵士もあんぐりと口を開け、倒れた王子ではなく私を穴の開いたように見つめていた。


「私にこんなことをしていいと思っているのか?」

 赤くなった頬を押さえながらうっすら涙ぐんだ王子が叫んだ。


「な…な…なんのことでしょうか」

 どうしよう。

 何と言ったらいいのだろう。これをやったのは間違いなく私だ。そうであることは骨折したかのように痛むこの拳が証明している。


「私のことを蹴って殴っただろう」

「わ…わたくしがそのようなことをできるわけないじゃないですか」


 どの線で誤魔化していこう。

 どうやって切り抜けていこう。

 うまくやらなきゃ国外追放? いや打ち首?


 頭の中にいるもう一人の冷静な私が様々な判断を始めた。

 なるべく誰もが納得できるような言い訳を探すのよ、と。


「お前が足で私の顔を蹴ったのだ」

「そんな馬鹿な。わたくしは淑女の中の淑女と育てられたのに、……どうやったら足で顔を蹴ることができるというのでしょう」


 頭を抱えてうずくまりたいけれど、淑女は本来そう言った格好はしないことぐらいは分かる。

 ううっと扇で顔を隠し、誤魔化すように涙が流れているかのような演技をする。


 蹴った? うん、間違いなく蹴った! 右足が痛い。

 しかもはっきりと覚えている。


 はっきり覚えている内容、それは。

 後頭部を後ろから蹴った後、蹴った足を止めすぐさま後方へと後ろ蹴りの形で顔を蹴ったのだ。よろける殿下の鳩尾ががらあきだったので右こぶしを思いっきり入れてみた。


「お腹もいたい。お前が私のお腹を蹴ったのだ」


 違う! それは私があなたのみぞうちに右こぶしを入れたのだ。

 決して蹴ったのではない。


「ひどいですわ。お腹を蹴るわけがないではないですか。はしたない。そんなことよりひどいではありませんか。わたくしがまるで殴ったかのように言われるなど」


 涙が流れているかのように頬を手で覆う。

 一筋も涙は流れていない。

 冷汗は流れ始めたけれど。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ