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一年サタン組のよい子たち、生贄聖女を育てます!  作者: 三羽高明@『廃城』10/7電子書籍化
三日目 一年サタン組のよい子たちは、生贄聖女とお話しがしたいです!
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図鑑の記述

「まったく……皆どうかしてるよ。あんな人間、ただの生贄なのに……」


 ランドセルを揺らしながら、ルインは不満げな声を漏らして廊下を歩いていた。


「そりゃあ、確かに言葉を話したのはすごいけどさ、ゴブリンやオークだって鳴き声くらい上げるし……。そこまで大したことじゃないじゃん……」


 自分で言っておいて、ルインは何となくモヤモヤしたものを感じていた。立ち止まってランドセルから図鑑を出し、『人間』のページをめくる。


 『人間の知能はゴブリンと同程度であると考えられている』


 ルインの目が眼鏡越しにその一文を捕らえる。ゴブリンのページをめくると、『知能は極めて低く、我々と意思の疎通を図ることは不可能である』と書いてあった。


(……でも、あの『人間』は皆と話してた)


 『生贄』が発していた悪魔語の数々をルインは思い浮かべる。あんなことは、ゴブリンには絶対に出来っこない芸当だ。


(じゃあキュリエレーナの言うように、この図鑑には嘘が書いてあるのかな……?)


 ルインは図鑑をぎゅっと握りしめる。


 この図鑑はルインの誕生日に、両親がプレゼントしてくれたものだ。


 普段は忙しくて夜遅くまで帰って来ない両親が、この日は無理に休みを取って盛大なパーティーを開き、ルインの生まれた日を祝ってくれたのである。この図鑑を見る度に、ルインはその日のことを思い出して嬉しくなる。


 そんな宝物の図鑑に嘘が書いてあるなんて思いたくない。『人間』のページには、『下等生物』という言葉が四回も使われているのだ。その記述が間違っていると考えるのは、ルインにとっては受け入れ難い事実だった。


(そうだよ……。大体、言葉を話したくらいで、『下等生物』から抜け出せるわけないじゃないか……)


 ルインは無理に自分を納得させることにした。


(大体あんなの片言だし、喋った内にも入らないよ。知能が高いって証明するには例えば……字が書けたりしないと。……あっ、そうだ!)


 皆にあの『生贄』の知能の低さを分からせてやろう。そうすれば、図鑑は間違っていなかったことになる。両親との美しい思い出もそのままだ。


 ルインはペンを出して、『人間の知能はゴブリンと同程度であると考えられている』の一文に線を引くと、決意も新たに下校を再開したのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一応、戦争して勝って、聖女の生け贄という契約までしたわけだから、「意思疏通ができない」という図鑑の記載は矛盾しているんだよなぁ。 でもサタン組の子供たちはみんな素直で、それぞれを別の話だと思…
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