ケルベロス組の問題児
「ああ栄誉あるデーモン学園、デーモン学園」
「でーもん、でーもん」
教室の外から元気な子どもの歌声と、それに混じる女性の声が聞こえる。
廊下を楽しげに歩くサタン組の生徒たちと、彼らが飼っている『生贄』を見ながら、隣のクラス、ケルベロス組のガキ大将のチェーンは、「うるさいな」と顔をしかめた。
「でも羨ましいなー。サタン組の奴ら」
チェーンの腰巾着であるクルトが頭の後ろに手を回しながら、面白くもなさそうに机の上に腰掛けた。
「俺たちのクラスの課外授業なんて、ガーゴイルのスケッチだもん。つまんないよ」
クルトはため息をつく。「だよな」とチェーンも同意した。
「飼育期間が終わったら、魔王様が直接この学校に生贄を取りに来るんだろ? あいつら魔王様とお話しできるかもしれないんだぜ?」
魔王様はこの魔界に住む全ての悪魔の憧れだ。
特に現魔王様は、その美貌と従来の考え方に縛られない柔軟な姿勢によって若者からの人気が高い。その証拠に、彼の特集記事を載せた週の『週刊魔界通信』は、発売から一時間と経たない内に売り切れになる店舗が続出したほどである。
それだけではなく現魔王様は、何とこのデーモン学園の出身なのだ。そんな偉大な悪魔がかつて通っていたのと同じ学び舎に在籍できているということを、この学園で誇らない生徒はいなかった。
「俺も魔王様に会って、『その角、ピカピカしてカッコいいですね』って言ってみたいなぁ」
「……じゃあ、言えばいいじゃん」
クルトが、ふと何かを思いついたように牙を剥き出しにしてニヤリと笑った。
「魔王様は、『生贄の面倒を見た奴ら』とお話ししてくれるんだよな? だったらさ……俺たちがサタン組の奴らに代わって、生贄を飼えばいいじゃん」
「俺たちが生贄を飼う……?」
チェーンは、すぐにはその言葉の意味するところが分からなかったようだが、段々とその顔が綻び始める。そして、クルトそっくりの意地悪そうな顔になった。
「そっか……そうだよな……」
チェーンが楽しそうに頷いていると、四限目の授業の始まりを知らせるチャイムが鳴り、教室に先生が入ってくる。しかし、チェーンとクルトの興味は、これから始まる国語の授業の他にあった。
「せんせー。俺たち頭痛いんで、今から保健室行ってきまーす!」
もちろん彼らの体はどこも悪くない。
先生の返事も聞かず、チェーンとクルトは落書き帳と鉛筆を掴むと、作戦会議をするべく教室を飛び出していった。