最後の儀式
「今日は記念すべき日です」
巨大な火山を背にした祭壇の前に、魔王様が立っている。彼は、眼前に集う悪魔たちに向けて演説をしていた。
その傍らの貴賓席には、悪魔城に詰める高官に混じって、幼い悪魔たちが座っている。サタン組の子どもたちだった。
「本来なら、今日はある乙女が命を散らす日となるはずでした。しかし、これからは誰の生命も失われることはありません。何故なら、人間は悪魔の友となるのだから。友の命を奪うなど、決して許されることではないのだから」
魔王様の周囲の空間がゆっくりと歪んでいく。その中から一人の女性が出て来た。
魔王様が伸ばした手を握っている彼女には、角も牙もなかった。初めて見る人間の姿に、集まった悪魔たちはどよめいた。
「彼女は私の友人です。異論があると言うのなら、さあ、この手を力ずくで離してみせなさい!」
魔王様がニエちゃんと繋いだ手に、悪魔たちの視線は釘付けだ。それでも、祭壇の前に躍り出るような愚か者は誰もいなかった。
「私は、こうして悪魔と人間が永遠に手を取り合う日が訪れるのを願っています」
魔王様はニエちゃんの方を見て少し笑った後、貴賓席に目を遣った。
「そんな平和な日々の先駆けとなってくれた、デーモン学園の一年サタン組の子どもたち。この幼き悪魔たちに礼を言いましょう」
貴賓席に座る子どもたちの顔が華やぐ。エドがニエちゃんに手を振り、彼女もそれに控えめに応えていた。そんなエドをキュリエレーナが、「大人しくしてないと駄目でしょう」と叱る。
だが、彼女の注意も虚しく、コーマックが立ち上がると、やにわに拍手を始めた。隣に座っていたレジーも、罪を被るなら自分も、とばかりに手を打つ。珍しいことにルインまで悪乗りして、「さあ皆」などと言い出した。マリリンがはしゃぎながらそれに倣う。
その動きはサタン組の外にも広がっていった。会場中から響く拍手の音。
そうなってくると、キュリエレーナも、もはやこれが正しいのだろうかという顔で両手を叩き始めるしかなくなってしまった。
まだ演説の途中だったんですけど、と魔王様は呟いていたが、それは誰の耳にも入っていない。観客の中にはどこか不満げな顔をしている者たちもいたが、幼い悪魔たちが起こした歓迎の波に呑まれたこの場では、目立たない存在であった。
「まおうさま、わたしも、はくしゅ、したい。て、はなしていい?」
ニエちゃんまでそんなことを尋ねてくる。魔王様は、「仕方ないですね」と肩を竦めた。
「皆さん、人間の最初の友だち、サタン組の悪魔たちに尽きない感謝を!」
演説を中止した魔王様も両手を打つ。
魔界に新たな可能性をもたらした悪魔たちを称えるその祝福の音色は、いつまでも鳴りやむことはなかった。




