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一年サタン組のよい子たち、生贄聖女を育てます!  作者: 三羽高明
七日目 一年サタン組のよい子たちは、生贄聖女の友だちです!

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普通のこと

「皆さん、少し落ち着きましょう」


 魔王様の一声に、全員が一瞬にして口を閉ざす。彼の声には、自然と相手に言うことを聞かせてしまうような、王者の貫禄のようなものが備わっているのだ。キュリエレーナには、先ほどのワイバーンの気持ちが分かるような気がした。


 辺りが静かになった後、魔王様は懐に手を入れた。彼が取り出したのは紙とペンだ。キュリエレーナは、何故そんなものが出てきたのか分からずに困惑する。


 魔王様は何やら書き物をした。


「先生、これが何か分かりますか?」


 魔王様はその紙を学園長に見せる。学園長はしばらく首を捻った後、「斬新な模様ですな」と言った。


「なるほど、『模様』……」


 魔王様は軽く頷いた後、今度はサタン組の子どもたちにそれを見せた。


「でも、もしかしたら君たちは、違う答えを出すのかもしれませんね」


 魔王様は紙をサタン組の幼い悪魔たちの方に向けてきた。それが何か分かったキュリエレーナは意外に思う。皆は一斉に声を上げた。


「人間文字だ!」

「『くる』……『あさ』……」

「朝が来る……?」

「過去形じゃないの?」

「っていうことは、『朝が来ました』だ!」


「正解です」


 魔王様は満足そうに頷いた。


「魔王様、人間の文字が書けるんですか?」

「ええ、勉強しましたから」


 キュリエレーナがびっくりして尋ねると、魔王様はいとも簡単に答えてみせた。一方の学園長は驚愕して、口を半開きにしている。


「に、人間の文字だって……?」


 学園長の目は、魔王様の手の中の紙に釘付けとなっていた。


「つまり、人間は文字を使いこなしているということか……? ば、馬鹿な……。人間にそんなことができるはずが……」


「先生、僕、前に人間は喋るし文字も書けるって言いましたよ? 忘れたんですか?」


 ルインが呆れ顔で言った。


 以前の学園長はその言葉を一蹴していたが、現にこうして人間が喋ることはおろか、文字すら使っていることが他ならぬ魔王様の手によって証明されてしまっては、これ以上強固にその意見に反対し続けることはためらわれたらしい。気まずそうに顔を俯けてしまった。


 そんな中、魔王様が助け舟をそっと出す。


「君たち、あまり先生を責めないであげてください。魔界では、先生のような悪魔が普通なのですから」


 魔王様は、サタン組の子どもたちを一体一体見つめる。


「君たちも、実際に触れ合うまでは、人間のことをよく知らなかったでしょう?」


 確かに魔王様の言う通りだった。しかし、そう思ってみたところで、キュリエレーナの中に一つの疑問が生じる。それはルインも同じだったようで、彼は魔王様にある質問をした。


「それなら、どうして魔王様は人間の文字を勉強したんですか?」


 人間文字を勉強したということは、彼は前から人間が言葉を使っているということを知っていたことになる。それは先ほど彼が言った、『実際に触れ合うまでは、人間のことをよく知らなかったでしょう?』という言葉と矛盾してはいないだろうか。


「その話は、場所を変えてからにしましょう」


 魔王様が辺りを見回しながら言った。


「この森には、あまりいい思い出がないんです。……君たちもそうではありませんか?」


 サタン組の子どもたちは顔を見合わせた。魔王様は人間の本当の姿を知っている。キュリエレーナは、彼とならば学園長とするのとは違った話し合いができるような気がした。


「まおうさま、みんな、しかる……?」


 それでも、ニエちゃんはまだ心配事だったらしい。不安そうに尋ねる彼女に、魔王様は「そんなことはしませんよ」と優しく言った。


 サタン組の子どもたちとニエちゃんが学園長と魔王様に連れられて森を出たのは、それからすぐのことだった。


 完全に顔を出した太陽が空で輝いている。澄んだ早朝の空気に包まれながら、皆は学園へと戻った。

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