学園長、驚く
「君たち、まだそんなことを……」
粘るサタン組の子どもたちを見て、学園長は渋い顔になる。彼は魔王様に弱り切った顔を向けた。
「魔王様、どうかお許しを。彼らはまだ物の道理も分からぬ幼い身なのです。生贄を逃がそうとしたのは確かに大罪ではありますが、どうかその罪に対し寛大なお心で……」
「つみ? まって!」
『罪』という言葉を聞くなり、唐突に声を上げたのはニエちゃんだった。その悲鳴にも似た声を聞いた途端に、学園長は後ろにひっくり返りそうなほどに驚いた。
「な、しゃ、しゃべ……人間が……喋った……!? そ、そんなはずは……」
「何驚いてるんですか。そりゃ言葉くらい話しますよ。ニエちゃん、僕たちと大して変わらない生き物なんですから」
こんな時なのに、学園長の驚き方があまりに滑稽だったためか、ルインが半笑いで言った。
「僕、前にも言いましたよね?」
「魔法か! 魔法でこの人間の意志を操り、言葉を話させたのか!」
しかしながら、学園長の頭の固さは相変わらずだった。喋るニエちゃんを目の当たりにしても、彼はルインの話を聞いていなかったし、『人間も言葉を持っている』という可能性にもまったく思い至っていなかった。
「あの、先生、お言葉ですが、この子たちは、まだそこまで高度な魔法は扱えません……」
サタン組の担任の先生がやんわりと反論したが、学園長は、「だったらこれはどう説明できると言うんだね!」と混乱しながら叫んだ。
「だから、僕たちが教えたんですってば」
コーマックがレジーと顔を見合わせながら言った。しかしながら学園長は、「いいや! 何か仕掛けがあるに違いない! 私は騙されんぞ!」と言って聞かない。
しまいには、「先生はもう学園に帰っていなさい! 他の先生方に状況を説明するのです!」と言って、サタン組の担任の先生をその場から追い出してしまった。
「せんせい、そんなことより、みんな、しからないで」
ニエちゃんが再び学園長に声をかける。
彼女は学園長のパニックが収まるのを待っていたようだが、一向に落ち着きを取り戻す気配を見せなかったため、諦めて話を再開することにしたらしい。
ニエちゃんの声を聞くなり、学園長はドキリとしたような顔になった。
「みんな、わるくない、です。わたし、むり、いったの。たすけて、って。だから、みんな、もり、きた。わたし、わるい。でも、みんな、わるくない」
「違います!」
ニエちゃんは皆を庇うために嘘を吐こうとしていた。そのことに気が付いたのか、エドが堪りかねたように口を開いた。
「僕たちがニエちゃんを連れてきたんです! ニエちゃんに死んでほしくなかったから!」
「そうですよ! ニエちゃんを助けたかったんです!」
「ニエちゃんは何も悪くないです! もちろん、生贄にされる理由だってありません!」
キュリエレーナも、他の子たちと一緒に口をそろえてニエちゃんを擁護した。もはや自分たちがニエちゃんをこっそり逃がそうとしたことがばれているのだ。今更隠し立てする気にもなれなかった。
そんなことより今のキュリエレーナの気掛かりは、自分たちのせいでニエちゃんがいらぬ汚名を被ってしまうことだった。
だが、このままではサタン組の子どもたちに罰が下ることになるかもしれないと知ってしまったニエちゃんの方も必死だった。「せんせい、ちがう! わたし、たすけて、って、いったの!」と主張して譲らない。
幼い悪魔たちと生贄の間で、学園長は目を白黒させていた。どう判断するべきか迷っているのだろう。
その言い争いを終結させたのは魔王様だった。




