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一年サタン組のよい子たち、生贄聖女を育てます!  作者: 三羽高明
七日目 一年サタン組のよい子たちは、生贄聖女の友だちです!

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ワイバーン

 しかし、サタン組に降りかかった困難は、それで終わりではなかった。


 なんと、そのフェンリルの後ろから、ゴブリンの群れが現れたのだ。醜い小人たちは、獲物を一網打尽にできるまたとない機会に小躍りしていた。


 皆の後ろに広がるのは急斜面だ。よじ登るには時間がかかる。かと言って、先程のことでゴブリンたちも学習したはずだから、前と同じ方法で突破するのは望み薄な試みであるように思われた。


 それに万が一ゴブリンをやり過ごせたとしても、まだフェンリルがいる。フェンリルは、ゴブリンなんかよりずっと足が速そうだ。皆が全力で走ったって、簡単に追いつかれてしまうだろう。


 絶体絶命だ。今のサタン組に選べるのは、ゴブリンに食べられるか、フェンリルに丸呑みにされるかのどちらかしかなさそうだった。キュリエレーナは恐怖のあまり叫び声を上げそうになった。


 その時だ。


 姿勢を低くしてこちらに飛びかかって来ようとした魔物たちの動きが、ピタリと止まる。そうかと思えば、回れ右して、一目散に逃げていくではないか。


 ゴブリンもフェンリルも唐突にいなくなった。思いがけず命拾いしたことに、キュリエレーナは安堵するというよりも呆然とした。


「た、助かった……んだよね……?」


 コーマックが蒼白な顔で、誰にともなく尋ねる。近くにいたレジーが、「うん」と答えた。だが、すぐさまマリリンが「違うと思う……」と泣きそうな声を出す。


 最初、キュリエレーナはマリリンが何故そんなことを言ったのか分からなかった。だが、木々の間から覗くギラギラとした黄色い目玉と目が合った途端に、その意味を理解する。


 重たい足音と共に現れたのは、鱗に覆われた面長の顔だ。子どもたちの身長と同じくらいはありそうな太い足は筋肉に覆われ、そこから伸びる巨大な爪は、どんな獲物も一瞬で無残な肉の塊に変えてしまうだろう。


 全身が凶器のような姿をしているその魔物は、ワイバーンだった。


 この生き物を探すために森に入ったというのに、実際に対峙してみると、まったく嬉しい気持ちが沸いて来ないのは驚くべきことだった。きっと、ワイバーンが殺気立った目でこちらを見ているからだろう。


 サタン組の子どもたちは、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなる。


 だが、勇気を振り絞ったエドが自分たちの役目を思い出し、「ルイン、笛」と微かな声を出した。


 ルインは自分に声を掛けて欲しくなさそうだったが、それでも恐る恐る懐に手を入れた。そんな子どもたちの様子を、ワイバーンはじっと観察している。


 もうすぐこの生き物を使役できる。そう考えながら、ルインは心を奮わせているようだった。だが、竜笛を取り出したルインの顔から、一瞬で血の気が引くのがキュリエレーナには分かった。


「ああ……」


 ルインの声は、現実を認めたくなさそうな響きを帯びていた。先程地面を転がった時の衝撃だろうか。彼が取り出した竜笛は、真っ二つに割れて壊れていた。


「こ、これじゃ、笛、使えない……」


 ルインが真っ青になって呟いた。それを狙いすましたかのように、ワイバーンが咆哮する。大きく揺れた尾が、ワイバーンの近くにあった木をなぎ倒した。


 倒れた木は、サタン組の子どもたちの方へと落ちてくる。皆は叫び声を上げながら、蜘蛛の子を散らす様にその場から逃げた。


 辺りに散らばる獲物たちに、ワイバーンが飛びかかってくる。その三本の指が付いた硬い手が、幼い悪魔を二人ほど捕らえた。甲高い叫び声が上がる。


 ワイバーンは子どもたちを上に下にと振り回し、最後にはその辺に放り出すと、もう一度大きく吠えた。


「こ、このままじゃ皆食べられちゃうよぉ……!」


 コーマックが泣き出す。ルインが「どこかに隠れないと!」と言った。


「あっ! あれ!」


 レジーが何かを見つけたようだ。キュリエレーナはそれがうろのある木だと分かった。


 隠れ場所を見つけた皆は、一斉にそこに駆けこもうとする。だが、即座にワイバーンの尾が飛んできた。子どもたちの頭の上を通過した尾は、まるでレジーの言葉が分かったかのように、子どもたちの隠れ家になるはずだった場所を正確に破壊した。


「ひぃっ……」


 辺りに木の破片が飛び散り、皆は真っ青になる。ワイバーンは羽根を広げた。そのまま樹木を倒しながら上空へと浮かび上がる。


 すでに日が昇りかける時間帯になっていたが、白む空をワイバーンの巨大な影が隠し、一瞬、辺りは夜中に戻ってしまったかのように暗くなった。


 空を飛んだワイバーンは大きく口を開けた。ワイバーンは口から火を吐くことができるのだ。この狂猛な獣は自分たちを丸焼きにしようとしているのだと悟って、キュリエレーナは震えあがった。

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