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一年サタン組のよい子たち、生贄聖女を育てます!  作者: 三羽高明@『廃城』10/7電子書籍化
一日目 一年サタン組のよい子たちは、生贄聖女を育てます!
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エサやり

 お昼休みを告げるチャイムが鳴る。サタン組の子どもたちは、給食の乗ったトレーを抱えてニエちゃんの檻の周りに移動した。


 その様子を見て、ニエちゃんは目を丸くしていた。今まで大人しく授業を受けていた子どもたちが、いきなり自分のところへやってきたことに驚いているのだろうか。


 しかし、集まった子どもたちは十二体だけだ。後の一体、エドは遅れて教室に入ってきた。


「エドおそーい! ニエちゃんがお腹空かせて待ってるんだよ!」


 不満の声が挙がる。エドは「ごめんごめん」と頭を掻いた。


「でもほら! ちゃんとニエちゃんのエサ取ってきたから!」


 エドはぶら下げていた虫かごから、校庭の花壇で捕ってきたミミズを出して、ニエちゃんの檻の中に入れた。くじ引きの結果、ニエちゃんのエサを持ってくる係に任命されたのがエドだったのだ。


 ウネウネと動く薄ピンクの虫を見て、ニエちゃんが叫び声を上げる。何を言っているのかはよく分からないが、エドや他の悪魔たちは、歓声を上げているのだろうと解釈することにした。


「よかったね、ニエちゃん。たくさん食べてね」


「うん。芋虫もあるからね」


 エドが、今度は緑のグニャグニャの生き物をニエちゃんの檻の中に入れた。こちらは野菜畑で捕ってきたものだ。ニエちゃんはそれから距離を取る様に後ずさりし、真っ青な顔で懸命に首を横に振っている。


 しばらくして、さしものエドやサタン組の子どもたちも、これは喜んでいるのではないなと気が付いた。


「人間って虫は食べないのかな?」


 エドは虫を籠の中に戻しながら、物知りなルインに尋ねる。ルインは、「さあ」と首を振った。


「僕の家で飼ってるミニトロールは、虫が大好きなんだけどなぁ」


 エドがニエちゃんのエサに虫を選んだのは、自分の家のペットを参考にしてのことだった。ルインは、「トロールは馬鹿だから、何でも口に入れちゃうんだよ」と言う。


「まあ人間も悪魔と比べれば、所詮は下等生物だけどね。見た目はちょっと似てるかもしれないけど……」


「じゃあ、これは食べるかな?」


 ルインの言葉を遮ったのは、学級委員長のキュリエレーナの友だちのマリリンだ。


 マリリンは、自分の給食のトレーに乗っていたパンを少しちぎって、檻の中に入れた。ルインは少し不満そうだったが、実験の結果を見守る博士のような表情で、パンの行方を見守ることにしたようだ。


 ニエちゃんはパンの欠片をじっと見つめている。そして、ゆっくりと手を伸ばして、それを一口かじった。


「……!」


 ニエちゃんが人間の言葉で何か言う。その内容は分からなかったが、先程よりも表情が柔らかくなっていることから察するに、どうやらパンは好きらしい。マリリンは、「よかった!」と微笑んだ。


「じゃあ今度は僕、購買に行って色々買ってくる!」


 ニエちゃんに嫌いなものを食べさせようとしたことに負い目を感じていたエドは、真っ先に名乗りを上げて教室を飛び出した。


 彼は購買に行くと、食品売り場の棚に置いてあるものを全部一つずつ買い、教室へととんぼ返りした。


 エドが持ってきたものを、ニエちゃんは少しずつ食べていく。どうやらこれで正解だったようだと分かって、エドは安堵した。


「人間って、悪魔と同じものを食べるんだね」


「うん。僕てっきり、虫とか石とかを食べるのかと思ってた」


「エサ食べてるニエちゃん、可愛いなー」

 

 給食を食べながら、子どもたちは雑談を交わしている。その話題は、もっぱらニエちゃんに関することだった。


 サタン組が今まで飼育したことのある生物と言えば、せいぜいスライムがいいところだ。


 しかし、スライムはエサをあげようが散歩に連れて行ってやろうが基本的にブルブルした塊でしかない。何をしてもボヨンと跳ねるだけの生き物なんて、子どもたちにとっては特に興味を引かれる対象ではなかった。


 だが、スライムと違ってニエちゃんには表情があり、感情もある。そのことがサタン組の子どもたちの目には、面白くてたまらなく映っていた。


 加えて、ニエちゃんの丸い目だとか、ぷっくりとした唇だとかの愛らしい容姿は、子どもたちのハートをがっちりと掴むには充分だった。


「ニエちゃん、ゼリーが好きなんだね」


 エドもニエちゃんの様子を観察しつつ言った。彼は、自分が持ってきたものの内、何がニエちゃんの好みに合うのか気に掛けていたのだ。


 当のニエちゃんは、購買の人気商品『スライムゼリー』のマジックストロベリー味を、ニコニコしながら食しているところだった。


「スプーン使ってる! 賢いね!」


「道具なんてサルでも使うじゃん」


 皆が盛り上がる中、ボソッとルインが言う。だがその声は、皆の耳には届いていないようだった。


 そんなふうに過ごす内に、あっという間に放課後がやって来た。


 皆はニエちゃんに、「さようなら」と言って、元気よく下校していった。エドも帰り際に、「明日もゼリーたくさん食べさせてあげるからね!」とニエちゃんに伝える。


 ニエちゃんと過ごす最初の日は、特に大きなトラブルもなく過ぎていった。


 もっとも先生たちの中には、ニエちゃんに気を取られているせいで子どもたちの授業態度がいつもより悪くなっていることを気にしている者もいたが、珍しい生き物が教室にいるのだから興味の対象が逸れても仕方がないと目を瞑ることにしたようだ。


 しかし、その『興味』が引き起こすのは、微笑ましい出来事ばかりではないようだった。

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