学級会
その日一日、サタン組の子どもたちはずっと大人しくしていた。先生はそれを、彼らもやっと反省したのだろうと捉えて何も言わなかったが、実際は違った。皆、ニエちゃんのことで頭がいっぱいだったのだ。
一日中思い詰めていた子どもたちが遂に行動を起こしたのは、放課後のことだった。キュリエレーナがこんな提案をしたのだ。
「皆、明日の授業が終わったら、学級会を開かない?」
もちろん先生には内緒でだ。キュリエレーナは続ける。
「ニエちゃんのことで話し合いたいの。だから、今日帰ったら、これからのことを明日までによく考えておいて。……いいかしら?」
反対者は誰もいない。ニエちゃんが生徒たちの深刻な顔を見ながら、「おはなし……?」と首を傾げていた。
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魔界では週の終わりの二日が休みだが、デーモン学園では、その内の一日だけ半日の授業がある。
その日、放課の鐘が鳴り、先生が帰りの会で、「皆さんさようなら」と挨拶した後、宣言通り、サタン組の子どもたちは、あまり先生も生徒も寄り付かない場所にある空き教室に移動して、学級会を始めた。
「今から私たちが話し合うのは、『ニエちゃんのこれからについて』です」
教壇に立った学級委員長のキュリエレーナが、司会を務める。
「皆、知っているわよね? ニエちゃんは生贄なの。つまり……もうすぐ殺されちゃうってことよ」
「そんなのやだよ!」
エドが真っ先に声を上げた。
「何でニエちゃんなの!? 生贄なら、他の人間にすればいいのに!」
「そうだよ! 先生たちに、『ニエちゃんを助けてあげて』って言わないと!」
エドに同意する声が次々と上がる。しかしルインが、「だめだよ」とそれを制した。
「ニエちゃんは、『聖女』っていう特別な人間なんだ。替わりなんて、簡単に見つかるはずないよ」
「なんでそんな意地悪なこと言うの!?」
マリリンが涙目になって反論した。
「ルインはニエちゃんが嫌いだから、ニエちゃんが死んじゃってもいいって言うの!?」
「嫌いじゃないよ」
ルインは心外そうに答えた。
「僕だって、ニエちゃんが大好きだよ。でも、これはどうしようもないことなんだよ。……ねえ、何で僕たちがあの人間に、『ニエちゃん』って名前をつけたか覚えてる? ニエちゃんが『生贄』だからだよ」
ルインの言葉を聞いて、皆口を閉ざす。確かに最初は分かっていた。やってきた『人間』が生贄だとちゃんと理解していたから、皆無邪気に――そして残酷にも、『ニエちゃん』などという名前を与えてしまったのだ。
「いつから……なのかな?」
コーマックが呟く。
「いつからニエちゃんは、『生贄』じゃなくて、『ニエちゃん』になったんだろう?」
その言葉に答えられる者は誰もいない。
自分たちはいつから彼女の食べるものを、『エサ』ではなく、『ごはん』と表現するようになったのだろう。いつから彼女を檻に入れっぱなしにすることに、申し訳なさを覚えていたのだろう。
一体いつの間に、皆、こんなにもニエちゃんが大好きになってしまったと言うのか。考えても、浮かんでくるのはニエちゃんと過ごした楽しい日々の思い出ばかりで、それ以上は胸が詰まって、誰も何も考えたくないようだった。
「嫌だよぉ」
レジーが泣き声を上げた。
「嫌だ、嫌だ。ニエちゃんが死んじゃうなんて、絶対に嫌だ……!」
「うん、僕も嫌だ」
「私だって……」
すすり泣きが教室に響く。マリリンが目元を擦りながら、「で、でも、明日になれば、魔王様が学校に来ちゃうよ」と言った。
「私たちが「連れて行かないで」って言っても、きっとお願いは聞いてもらえないよ。私たちと違って、魔王様はニエちゃんのこと、何にも知らないんだから。ニエちゃんが特別だってこと、分からないんだもん。だから……多分、ルインが言ったように、もうどうしようもないんだよ……」
「諦めちゃ駄目!」
絶望を滲ませるマリリンに、キュリエレーナが口を歪めながら怒声を飛ばした。
「こうなったら方法なんて選んでいられないわ! ニエちゃんは絶対に殺させたりなんかしない! 何があっても守らないと! それができるのは、ニエちゃんの友だちの私たちだけよ!」
「もしかしてキュリエレーナ……」
ルインが目を見開く。「その通りよ」と、キュリエレーナは頷いた。
「私たちで、ニエちゃんを逃がしてあげるの!」




