忘れていたこと
しかし、皆の不満は、廊下に出た途端に爆発した。
「先生、僕たち怒られるようなことしましたか!?」
「ただ友だちを助けてあげただけですよ!」
「さっきも言いましたけど、チェーンとクルトは、ニエちゃんに謝らなきゃだめです!」
「皆さん、少し落ち着きましょう」
いつもは素直でよい子なサタン組の子どもたちが、いやに反抗的な態度をとるものだから、先生は少々驚いているようだった。
「学園長先生もおっしゃった通りに、人間はそんなに頭のよくない生き物です。謝られたって分からないんですよ」
『人間』の飼育に関する一切は生徒に任されているため、担任教師といえどもニエちゃんとの交流はあまりなかった。そのため、先生は学園長と同じくニエちゃんについてあまり理解していないようだった。
皆は今までの事を時折先生にも話していたのだが、どうやら先生はその話――ニエちゃんが話せるだとか、想像していたよりもずっと頭が良いとかいう事を、本気にしていなかったらしい。
子どもたちは、どうして皆こんなに分からず屋なんだろうと少し呆れ顔になった。
「皆さんの生き物を大事に思う気持ちは、大変に素晴らしいものです」
先生は、ずれた視点から話を展開する。
「確かにあの人間は大切な生き物ですからね。どうしてか分かりますか?」
「私たちの友だちだから……」
「違います」
先生は、答えられて当然の質問に間違った子を叱るように、即座に訂正を入れた。
「あの人間は、『生贄』だからですよ」
先生は、噛んで含めるようにゆっくりと言う。
「いいですか、明後日には魔王様がこの学園にいらっしゃって、あの人間は引き取られていきます。そしてその後、『生贄』として火山の火口に沈められるのです」
「あっ……」
子どもたちは顔を見合わせた。先生はなおも話を続ける。
「これは魔界の重要な式典であり、我々悪魔族が末永く繁栄するようにとの願いが……」
まるで社会科の授業をしている時のような口調で先生は語っていたが、それはもう誰の耳にも入っていない。皆は、たった今思い出した事実に打ちのめされていたのだ。
ニエちゃんは生贄だということ。自分たちが彼女といられるのは、七日間だけだったということ。彼女は二日後には、自分たちのもとから去ってしまうということ。そしてそれは、永遠の別れを意味しているということを。




