救出
「ニエちゃんをいじめるな!」
レジーの中に言いようもない怒りが込み上げてきた。だが、一番初めに動いたのはコーマックだった。彼はチェーンに体当たりし、彼をニエちゃんから遠ざけようとしたのだ。
チェーンが吹っ飛ぶのと同時に、他の子たちもケルベロス組の問題児に突進していった。
「ニエちゃんはミミズなんか食べないの!」
「ひどいよ! 最低だよ!」
「ごめんなさいしないと許さないから!」
皆は辺りにあったボールをクルトやチェーンにぶつけたり、覚えたての魔法を放ったりして二人を追い詰めていく。その隙にレジーはキュリエレーナと一緒に、ニエちゃんの縄を解いた。
「ニエちゃん、平気?」
「う、うん……」
ニエちゃんは手首をこすりながら頷いた。ニエちゃんの全身を眺めていたキュリエレーナが、「怪我とかはしていないみたいね」と安堵の声を漏らす。レジーも安心した。ニエちゃんが怪我でもしていたら、それこそあの二人を一生許さなかったかもしれない。
かつては自分もニエちゃんをいじめていたのに何とも虫のいい話だとは思うが、今のレジーは、ニエちゃんのことを大切な友だちだと感じていた。そんな友人が危ない目に遭っていたのだから、怒るのも当然だろうと自分を納得させる。
「後でちゃんとしたごはんあげるからね。お腹空いているでしょ?」
キュリエレーナが労わる様にニエちゃんの手を握る。ニエちゃんは力の抜けたような顔になって、「うん、ありが……」と礼を言いかけた。
「きゃあっ!」
だが、ニエちゃんは乱闘が起こっている方に目を遣るなり、言葉を最後まで紡ぐことができなくなって悲鳴を上げた。
反射的にレジーの視線がニエちゃんと同じ方向に向く。「ちょっと……やり過ぎた……かな?」と、エドが頭を掻いているのが目に入った。
乱闘自体はいつの間にか収まっていた。
というよりも、もう誰もチェーンとクルトに近寄りたくないようだった。彼らの姿が、巨大な紫色のナメクジに変わっていたのだ。頭からはキノコが生え、背中には棘がついている。皆が滅茶苦茶に魔法をかけた結果、とんでもないことになってしまったようだ。
「あなたたち何を……ぎえぇ!」
騒ぎは外にまで聞こえていたのか、近くを通りかかったらしい先生が倉庫の中を覗き込んだ。
ナメクジ二匹は助けを求めるように先生に駆け寄っていく。そのあまりに醜悪な見た目とナメクジらしからぬ機敏な動きに、先生は真っ青になって逃げていった。
ナメクジはその後を追いかけていく。問題児たちがいなくなった倉庫で、サタン組の生徒たちは顔を見合わせた。
「あれ、元に戻るよね?」
「知るもんか」
ルインが投げやりに返事した。その言い方がおかしくて、レジーは吹き出してしまう。つられるように他の子たちも笑い出し、ついには倉庫の中に爆笑が広がったのだった。




