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一年サタン組のよい子たち、生贄聖女を育てます!  作者: 三羽高明
四日目 一年サタン組のよい子たちは、生贄聖女の事をよく知っています!

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ほんとうのわたし

「……一応、できたけど」


 ルインは完成した絵を見て口をへの字に曲げた。


 出来上がったのは、手足の数が二本ずつあること以外、ニエちゃんとは到底似ても似つかない、人間に見えなくもない『何か』であったのだ。


 ニエちゃんはそれをじっと見つめている。こんなもの見る価値なんかないのに、と思ったルインは居た堪れなくなり、「笑いたいなら笑えよ」と投げやりな口調で言った。


「図鑑の絵と同じくらい、これも本物と違うだろ」

「うん」


 ニエちゃんは悪びれることもなく肯定した。


「でも、わたし、これ、だいすき」


 ニエちゃんは絵を胸元でぎゅっと抱きしめてから小さく折り畳み、服のポケットに入れた。大事そうに扱うその仕草に、ルインの胸が疼く。


「ルイン、ぶん、も、かいて」


 ニエちゃんが言った。


「ルイン、わたし、どう、みる? みえ……ます?」

「僕がお前をどう見てるかって……?」

「ほん、うそ、いう、してる。でも、ルイン、ほんとう、しってる、でしょう?」


 ルインはニエちゃんの言いたいことを何となく察して、呆気にとられた。


「僕に新しい図鑑を作れって言ってるの?」


 ルインは手元の図鑑を見つめた。


「そんなこと言われても僕が見た人間はニエちゃんだけなのに、図鑑なんて作れないよ」

「『にんげん』じゃなくて、『ニエちゃん』の、ずかん」


 ニエちゃんが訂正を入れてくる。


「ルイン、つくる、できる。ルイン、わたし、だいすき、だから!」

「ぼ、僕がお前を……!?」


 勝手に決めつけられて、ルインはぎょっとなった。


「何でそうなるんだよ。僕はお前なんか……」

「だいすき、ちがう……?」


 真っ直ぐな目で見つめられて、ルインはそれ以上は言葉を紡げなかった。どうしていつもこうなってしまうのだろう。ニエちゃんを目の前にすると、彼女を強く拒絶できないのだ。


(もうこんなの……僕の負けじゃないか……)


 ニエちゃんの『だいすき』に心が動いてしまう訳。彼女に触れられて嬉しいと思ってしまった訳。

 

 認めざるを得ない。下等生物のくせに、と罵りたかったが、そんな言葉を出すのをためらってしまうほどには、自分もいつの間にかニエちゃんが大好きになっていたのだとルインはやっと気が付いた。


「……いいよ。図鑑、作るよ」


 両親がくれた図鑑は、これはこれで正しいのだと思うことにした。きっと人間の中でも、『ニエちゃん』は特別なのだ。そうやって着地点を見つけたことで、ルインの心はずっと軽くなった。


「そこには君のこと、『わがままで能天気でヘラヘラしてる』って書いてやるから」


 ルインはニエちゃんを見つめて力なく笑った。


「でもまあ、『下等生物』のくだりは削除してあげてもいいけど」

「あー! ルインがニエちゃんとお話ししてるー!」


 教室のドアが勢いよく開いて、エドが入ってくる。朝と同じような展開で乱入して来た同級生に、ルインはびっくりしてしまった。


「エ、エド……? 帰ったんじゃ……?」

「うん、忘れ物を取りに来たんだ」


 どうやら彼もルインと同じ理由で、学校に戻ってきたらしい。しかし、エドはすでにそんなことなどどうでもよくなっているようだ。興味津々でこちらに疑問を投げかけてくる。


「ルインはニエちゃんと一緒にいるの、あんまり好きじゃないんだと思ってたんだけど」

「ルイン、ほん、かくの」


 ニエちゃんが鼻歌を歌いながら言った。「本?」とエドが首を傾げる。


「どういうこと?」

「……秘密」


 ルインは図鑑を握りしめながら、悪戯心を起こして軽く笑った。ニエちゃんもおかしそうに、「ひみつ!」とはしゃいでいる。


「こら! いつまで学校に残っているんだ! 早く帰りなさい!」


 開けっ放しになっていた教室の扉の向こうから、見回りに来ていた先生の声がする。どうやら皆帰ってしまったのは、こうして注意されたからだったようだ。


「じゃあ、ニエちゃん、また明日」

「ばいばい」


 ルインは図鑑をランドセルに入れると、ニエちゃんに挨拶をする。手を振るニエちゃんに見送られながら、「待ってー!」と慌ててついて来るエドと一緒に、ルインは教室を出た。


 その足取りは軽やかで、頭の中は、どんな図鑑を作ってみようかという楽しい計画でいっぱいになっていた。

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