文学少女になった瞬間、地獄に墜ちました
わたしはなぜ涙を流しているのだろう……。
頬をつたう何かは言わずとしれた涙と呼ばれる分類に入るもの。
そんな文学的な例えをわざとらしく思い浮かべる自分に笑いが込み上げてくる。
周りに気づかれないように素早く指でなぞる。
誰にも気づかれることなどなかっただろう。
当たり前だ。周りは花嫁花婿を祝うことに夢中で、誰もわたしのことなど見ていない。
たとえ気づかれても、嬉し泣きだと、感激し過ぎて泣いているのだと思われるだけだ。
そう……。
そう思われても構わない。
いや、そう思われていた方がわたしには救いだった。
実際に泣いた理由が別にあるなど、誰にも分かるばずもなく、誰にも知られたくはないのだから。
ああ……。
何がいけなかったのだろう。
なんとなく似てると思ったのがいけなかったのだろうか。
新郎にあの人が重なって見えた瞬間、頬をつたっていた。
幸せそうな顔をして花嫁を見つめる瞳に胸が締め付けられた。
いや、そんな自覚をする前に、頬をつたっていたのだ、涙が……。
バカだ、馬鹿だ、バカだと思っていたけれど、底抜けに自分は馬鹿だったらしい。
あの人が結婚していることを知っていた。
素敵な人だと思っていた。
尊敬しているだけだと思っていた。
でも、涙が流れたことで、好きだったのだと気づいた。
……気づいてしまった。
気づいてもどうすることも出来ないのに……。
…………ああ、だから、わたしは、自分を慰めるために言葉を綴っているのか。
恋と自覚した瞬間に地獄に墜とされたから。