芽依とブランシェ捜し
第九十八章 芽依とブランシェ捜し
本格的にブランシェ捜しが始まったのはその日の午後だった。
「どこにもいません」
「白魔術の痕跡をたどるのだ。城の外に出て行ったという記録は残っていない。きっと城内にいるはずだ」
お姉さんを中心に城中の兵士が動き出した。もしブランシェが捕まったらどうなるのだろうか。
「もっとしっかり捜しなさいよ」
マリーはやたらと張り切っている。
「天は私に味方しているわ。小百合がいなくなって次はブランシェ。凄いわよこれは」
まずい! このままではマリーの思う壺だ。マリーと結婚する未来しか見えない。嫌というわけではないがこんな形で決まってしまうのは納得がいかない。俺の将来は俺が決める!
「でも驚いたわね。まさかブランシェがスパイだったなんて」
「スパイと決まったわけじゃないだろ!」
俺は力強く否定したが心の奥底では『もしかして』という感情が湧き出し始めているのも事実だ。
強い口調で否定したのが気に食わなかったのかマリーは、
「何よ! そんなにブランシェをかばいたいわけ?」
と大きな声で怒鳴るとさっさと部屋を出て行った。
「お兄ちゃん、私たちもブランシェさんを捜そうよ。この城の人たちより先に捜して保護しなきゃだよ」
「ああ、そうだな」
俺は芽依の提案をすぐ受け入れ、ブランシェ捜しを始めることにした。とは言えどこを捜せばいいのかとんと見当がつかない。
「芽依、ブランシェが行きそうな所に心当たりはないか?」
「そんなのわからないよ。でも芽依なら城の隅っこに隠れるかな? 誰も行かない地下倉庫とか」
「そうだな。とりあえず地下を捜そう」
俺たちは城の地下へと向かった。地下はほぼ倉庫となっていて人の居住区は全くない。
「さすがにひんやりとして不気味だね」
芽依が俺の腕にしがみつく。
「そこまで怖がらなくてもいいだろう」
「だって何か出そうだよ」
「何も出るわけないだろう」
芽依が必要以上にしがみつくので歩きにくい。
「ブランシェ、いるなら出てきてくれ」
「ブランシェさん、私たちは見方だよ。お願いだから出てきて」
俺たちは五つ六つの倉庫を見たがブランシェどころかネズミ一匹出てこない。もっともこの世界にネズミがいるかは定かではないのだが。
「お兄ちゃん、ブランシェさんいないね」
何の音沙汰もないまま時間だけが過ぎていく。
「もうすぐ夕食の時間だ。今日は行ったん部屋に戻ろう」
「うん」
地下を出ていつもの階に戻るまで芽依は俺にしがみついたままだった。そんなに怖いのか?
こうして俺と芽依のブランシェ捜しも三日目に入った。ここまで見つからないとなると、もうそろそろ地下は諦めなければいけないかもしれない。
「本当に誰もいないね」
三日目ともなると城の兵士も見かけなくなった。初日は慎重に行動し誰かを見かけると隠れていたのだがその必要も今は全くない。
俺たちが一番大きいと思われる倉庫を探索していると芽依がしがみつく腕に力を込めて言った。
「本当に暗いね」
地下倉庫と言うことで必要最小限の明かりになっているのだろうか本当に暗い。
「誰もいないね」
「そうだな。そろそろ地下という線を諦めて他を捜すか」
「本当に誰もいないね」
「ああ」
「二人っきりだね」
芽依の声のトーンが変わった。いつもより色っぽい。
「どうしたんだ?」
「だから、ここには私たちしかいないんだよ。邪魔者は誰もいないの」
「え?」
芽依はしがみついた腕をほどき俺に抱きついてきた。
「おい、どうしたんだ?」
「芽依ね。お兄ちゃんが好きなの嘘じゃないよ」
「な、な、何だ?」
「もちろん、兄妹愛という意味じゃなくて、一人の男として好きなの」
いつもの芽依じゃねえ!
「わ、わかったから離れろ」
「お兄ちゃんも芽依のこと好き?」
「ああ、好きだ。だから一端落ち着いて離れろ」
「愛してる?」
「ああ、だから離れろって」
「そう、だったら」
芽依は唇をとがらせ目をつむった。
「落ち着け芽依」
俺は芽依を押しのけようとするが意外に力が強い。前にもこんなことがあったような。
と、その時。
「離れて!」
「え? ブランシェ?」
どこからともなくブランシェが現れた。芽依は『チッ』と舌打ちをして俺から離れた。
「ブランシェ! どこへ行ってたんだ。心配したんだぞ」
「ずっとここにいた」
「四日間もか?」
「そう」
部屋が暗いせいもあるからかブランシェは痩せこけて見える。
「この階から動いていない」
「何も食べずにか?」
「食べてない・・・・あっ! トイレはこの階にもあるから」
そこまでは聞いてない。
「でも、どうして隠れたりしたんだ。そんなことしたらみんなブランシェが怪しいって思うだろうが」
「信じてもらえないかもしれないけど私はスパイじゃない」
「だったらなぜ?」
「でも、ピピプルさんの部屋を盗み聞きしたのは私」
「さっぱりわからないんだが。どこか安全な場所でゆっくり話をしよう」
俺が言い終わる前にブランシェは俺にもたれかかるように倒れてしまった。