お別れ
第九十二章 お別れ
小百合を見送るため俺たちは城の正門に来ていた。
「小百合さん。本当に行っちゃうの?」
「別れはつらいけど行かなきゃいけないの」
「どうして?」
「自分に自信がなくなったからかな? 芽依ちゃんも一緒に帰る?」
「芽依は帰らないよ。お兄ちゃんをほっとくと何するかわからないもん」
「ふふふ、確かにね」
「マリーもありがとう。とても楽しい毎日を送れたわ」
「私こそお礼を言わなくてはいけないわ。あなたは私にとって初めての友達だった。私は王室の娘というのもあって学校にほとんど行ってないのよ。だから王室の人以外の話し相手なんていなかったの」
「あれ? お前飛び級で大学生になったって言ってなかったか?」
俺は思わず口を挟んだ。
「城内で家庭教師に教えてもらっていたのよ」
「学校に行かなくても進級できるのか?」
「できたわね。もしかしたら王族の特権だったのかもしれないけど」
「マリー、私もあなたを友達、いや親友だと思っているわ。もちろんこれからもよ」
「小百合! うれしい!」
マリーが小百合に抱きつく。
「このボタンをあげるわ。これを押すといつでもこの城につながるワープゾーンができるの。好きなときに遊びに来て」
「ありがとう。別れはつらいと思っていたけどちょっと気が楽になったわ」
「小百合はこのメンバーで一番まともな人物だった。別れるのは惜しい」
「ちょっと、どういう意味よ!」
マリーが不服そうに叫んだが無視されて話は続いていく。
「ブランシェ。嬉しいこと言ってくれるのね。私もそう思うわ」
「おい!」
マリーはすかさずツッコミを入れた。芽依は自覚症状があるのか何も言わない。
「長い間、世話になったね」
三号が綺麗な箱を差し出して言った。
「日本に帰ったらこの箱を開けてくれたまえ」
「これは何ですか?」
「いろいろお世話になったせめてものお礼だよ」
小百合は箱を受け取ると様々な角度から箱を眺めている。
「何が入っているのですか?」
「それは開けてからのお楽しみだ」
小百合が蓋を開けようとすると、
「ここで開けては駄目だよ。日本に行ってから一人の部屋で開けてくれ」
「これって・・・・開けると煙が出たりしないですよね」
「出ないよ」
「本当ですか?」
「本当だよ」
「いきなり年をとったりしないですよね?」
「そんなことあるわけがないだろう。あっ! そういう魔術はあるにはあるが・・・・」
「あるのですか!」
小百合は箱を返そうと突き出す。
「大丈夫だよ。私が信用できないのかね?」
「ええっと、今までの行動を見る限りにおいて・・・・ほんの少し・・・・」
「ほんの少し?」
「女王様。この箱のことはご存じでしたか?」
三号を信用できないのか小百合は二号に話しかけた。
「今、初めて見ましたよ。何の箱かしら?」
「変なものは入ってないよ。親愛の証だ」
まさか隠しカメラや盗聴器じゃないだろうな。超女好きの三号ならやりかねない。
小百合は諦めたのか箱を鞄にしまうと俺の方を向いた。
「四郎君、今までありがとう。とても素敵な青春を過ごせたわ」
「ごめん。何か迷惑ばかりかけてたみたいで」
「いいのよ。私の押しが足りなかったからこうなったんだから」
「小百合はとてもいい人だと思う。だからそんなことできないんじゃないのかな?」
「本当にいい人って思ってる?」
「え?」
「私の本性を知っちゃってもいい人だと思ってるの?」
最後の晩餐でのくじ引きが蘇る。
「くじ引きは少し驚いた。小百合のイメージからすると信じられないというか・・・・」
「女性はね。自分をよく見せたいという意識が強いの。だから外では自分を飾って本性を見せないものよ。ましてや好きな人の前ではね。最後に私の本性が見られてよかったでしょ」
「良かったというか、何というか・・・・」
俺は返事に困った。別に恨んでいるわけではない。だが小百合が俺を犠牲にしてピンチを乗り切ろうとしたのは確かだ。俺の小百合のイメージからすると考えられない展開だった。
「四郎君は女性に騙されやすいから気をつけなさい。でないと私みたいな人に捕まっちゃうわよ」
「ああ・・・・いや小百合は・・・・」
「皆さん、本当に今までお世話になりました。皆さんの優しさは一生忘れません。本当にありがとうございました」
小百合は大きく頭を下げると俺たちに背を向けた。
「小百合、きっと遊びに来てね」
「ええ、きっと来るわ」
「この先にワープゾーンを作っておいたわよ。そこからあなたの家の前に出られるわ」
「ありがとうマリー」
小百合は大きく息を吸うと一歩足を進める。いよいよお別れか。
「これでいいの。これでいいのよ。四郎君は私のことを幻滅して忘れるべきだわ」
小百合が小さく呟いたが俺たちには聞こえなかった。
小百合が見えなくなるとマリーは下を向いて拳を握り震えていた。
「マリー、気持ちはわかるがそんなに悲しまなくてもいいさ。いつかまた会える」
俺は悲しむマリーを慰めた。
『よっしゃー! これで最大のライバルが消えたわ。後は芽依とブランシェだけど、四郎は芽依のことを妹という意識でしか見てないから楽勝よ。ブランシェはやや強敵っぽいけど所詮は使用人。何とでもなるわ。私の完全勝利ね』
「マリー、どうした? 体の震えが凄いぞ」
「あははははは」
「おい、本当に大丈夫か?」
マリーが突然狂いだしたと思った俺たちは慌てふためくのであった。